こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

「モラル・ハラスメント」という言葉を知ったとき

2005-09-19 19:17:21 | はじめに
 結婚する前に感じていた、夫へのちょっとした違和感、ちょっとした不安(でもそれは私の頭の中ですぐ打ち消された)は、結婚後暗雲となってふくらんでいった。何気なく話したことに対する夫からの罵倒や冷酷な言葉、無視、絶え間ない不機嫌に怯える私。そしてたまに見せる夫からの優しさに、ほっとしてすがりつく私。しかし私がいい夫婦関係を作ろうと努力しても、決して夫には認めてもらえず、不毛な関係に疲弊していった。

 私はもともと楽天的で、前向きな性格だった。仕事もそれなりにこなし、いい友人関係もあった。しかし夫との関係においては完全に萎縮していた。夫の顔色を窺い、足音に神経をとがらせ、夫が激昂しないよう言葉を注意深く選んで恐る恐る話しをした。私の表情は凍りつき、心の中には重い鉛のかたまりがあるようだった。無理して明るく話しながらも怯えていた。私は夫との関係において、(夫から言わせれば)最悪最低人間だった。
 結婚して8年目、夫のモラハラはますます冷徹になり、私は夫との生活に限界を感じていた。その頃私はよくインターネットで、あちこちの賃貸住宅情報を検索していた。そして「1人で生活するんだったらこんなところにしよう…」と夢想していた。それは単なる現実逃避だったのだが、後からその時の情報が役に立つことになった。同時に「DV」「夫婦問題」「別居・離婚」関連のネット情報をせっせと探して体験談を読みふけっては「苦労している人も多いんだ」と心慰める毎日だった。

 そんな時、『モラル・ハラスメント被害者同盟』というサイトを見る。数々の体験談を読んで私は驚いた。夫のしていることはまさにモラル・ハラスメントそのものだった、とはっきり理解できたのだ。どの体験談も私の夫婦関係と酷似していた。私は『DV』という言葉は知っていたが、暴力を殆ど見せなかった夫には当てはまらないような気がしていた。「おまえが俺を怒らせるんだ」という夫に対し、反発を覚えながらも「そうなのだろうか」と思っていた。しかし、このセリフもまさにモラル・ハラスメントだったのだ。
 夫自身が変わることは不可能であることや、モラ夫と暮らすことに未来はないことを、この言葉によって確信し、私は夫から脱出する決意を固めた。ちょうどよかったことに、ある日夫が怒りにまかせて「おまえとはもう暮らせない。別居だ!」と叫んだセリフをキャッチし、「そうしましょう」と、即準備を始めて2週間後には別居した。

 その後も1人暮らしをしながら、モラル・ハラスメント関連の様々なサイト、掲示板、ブログを読ませていただいたおかげで、非常に励まされ、支えられた。見も知らない方達でも同じ体験を共有できれば、パソコンの文字からも温かい共感と涙が伝わってきた。私はパソコンの前でひとり、泣いていた。最も近い夫とは決して叶わなかった「お互いに理解し合う」ということが、最も遠いどこにいるとも顔も知らない方達と理解し合い、共感し、まるで手を取り合ってそっとハグし合っている…不思議な体験だった。

 言葉を知ることは、非常に大切だ。言葉を知ることによって、その意味を理解することができる。自分の行動、言葉、心の動き、そして夫の行為等を指し示す言葉の意味を理解すれば、自分が何に悩み、苦しみ、疲弊しているのかがはっきりする。そして自分はそれに対して何を選択し、行動すればいいのか、何を為すべきなのかが明らかになる。
 このブログで、いまだに感じる「夫との結婚生活は何だったのだろう」というもやもや感をはっきりさせ、その意味や言葉を知ることができればと思うし、どこかでモラハラ被害を受けられて苦しんでいる方の参考になればそれはとても嬉しいことだと思う。

渡すことのなかった夫への手紙

2005-09-17 00:47:20 | はじめに
これは結婚生活5年目くらいに書いた、夫への手紙である。
しかし、結局夫には渡せずじまいだった。
この頃はまだ、モラル・ハラスメントという言葉は知らなかったが、
まさに、モラハラ行為そのものを感じていたんだと思う。

『あなたはこの先、私と生活していく覚悟はありますか?
ある日あなたは「運命だから仕方ないだろ」と言いました。私と生活していくことをやっと受け入れたのかと思っていました。
しかしあなたは私と何かあるたびに、何度も「出て行け」「君のせいで仕事ができない」「君のせいで生活はめちゃくちゃだ」と私のせいで、という言葉を使ってきました。あなたは私の作った夕食にはいつも不満でした。よく味があわず、あなたに「まずい」「こんなにまずく作って怒りが湧いてくる」などと言われましたね。だれもわざとまずく作って出すなどしません。結婚する前も、私が一生懸命作ったラッキョウを、あなたは「捨ててしまえ」と言いました。そう、あなたは結果がすべてなのです。私がいくら一生懸命作っても、心をこめて作っても、あなたにとってその味があわなければ、ただ怒りを表明するだけでした。あなたは私が料理をしない、と言いますが、私にとって料理を作ることは、あなたの怒りを誘発するかもしれない恐怖に満ちたものでした。そしてあなたは怒りにかられながらも夕食を作ってくれました。あなたは自分で作った夕食だったらなんでも満足していました。そして「最近は僕が作っているから怒らないですむ」とまで言っていました。たまに「おいしくなかったね」などとは言っていましたが。でもそうしながらあなたは努力してくださったのだと思います。
あなたは私が誕生日のプレゼントをあげたときも、「こんなもの使えない」と言いました。あなたに選んでもらった写真のセーターを編んだら、「おかまくさい」と着てもらえませんでした。あなたは人がどんなふうに思いをめぐらして、選んだのか、とか心をこめて作っても、そんなことはちっともお構いないのです。ただ結果だけで簡単に切り捨ててしまう。そんなあなたにがっかりしたこともありました。
私からあなたの生活をみると、本当に好きなように生活しているように見えます。朝は目がさめたときに起き、マイペースで仕事をし、しかも有休休暇がたっぷりあります。夜飲みに行きたいと思ったら、ふらりと出て行き、美人のママとのお喋りを楽しむ。
しかしそんな生活を妨害しているのが私の存在なのでしょうか。料理の味もまずく、滅多に作らない、掃除など家事もしないとおっしゃる。そして私がいるだけであなたの仕事の邪魔をし、人生をだめにし、以前の結婚のほうがよかった、と思わしめる。わたしがそれだけの存在だったら、いないほうがよっぽど有意義な人生となるでしょう。
あなたは自分の信仰について、「神を信じているだけでいい。神はそのままの自分を受け入れ、許してくれている」と話していましたね。でもあなたの言葉を聞いていると、自分だけがそうやって許され、他人はそのままの存在では許されない、というように聞こえます。あなたは神に許されている、と信じられないのではないですか?だから他人の欠点をせめ、攻撃し、いつまでも許せないのではないですか?しかしあなたは許されているのです。だから他の人も許された存在なのではないですか?あなたを見ていると、不満と不安だらけのようです。以前の家にいるときも、散々そこの住みにくさを言っていましたが、そこから引越したとき、あんなに希望していたのに、あなたはそのうち不満ばかり表明するようになりました。最初は喜んでいましたが、「ここの空気が呼吸器に悪い」「違うところに移りたい」と言い、自分一人で隣の市に住まいを見つけてきました。そして今は「ここに来たら体調が悪い」「別の場所に引越したい」と言い始めました。あなたは多分どこに行っても不満だらけで決して満足することはないでしょう。そして永遠にさまよっているのだと思います。
私はどこでも与えられた場所、そして人との出会いを大事に生きていきたい。あなたのようなそんな気紛れにはもう付き合いきれません。そんなに頻繁に場所を変わることは、私にとって、とても苦痛です。
そしてあなたの不安定さ。あなたは一度決めたことを、ころころと変えます。あなたが私に「あれを買ってあげよう」とか「今度あそこに行こう」とか話しても、私はあまり期待しないようになりました。それがあなたの気分や機嫌によって簡単に覆されることが多いからです。そして些細なことで怒りをあらわにしたり、不機嫌に布団にもぐってしまったり。日常の他愛ない話しひとつでも私はあなたの顔色をうかがい、こんなふうに話しても大丈夫か、まずセリフを考えます。そして、今話してもあなたは普通に聞いてくれるだろうか、眉間にしわを寄せて黙るだけだろうか、と考え、心からのびのびと話せなくなりました。
そしてなんといってもダメージを受けたのは、あなたには相談できない、ということです。あなたは人の話しをただ聴くことができない。聞くと自分がなにか結論をださなければならないと考えるか、聴くことがうっとうしくてそれで終わりにしてしまいます。私は職場でいろいろ悩んだときに、あなたにいろんな気持ちを話したかった。でもあなたは「偉そうに愚痴ばかり言いやがって」と食器をたたきつけて壊し、私を叩いただけでした。それ以来私は悩んだ結果、あなたにはだした結論や報告だけを伝えるようにしました。そのほうがあなたは楽なようでした。私にとっては非常に寂しいことでしたが、聞くことのできない人だと以前からうすうす感じていたので、それ以来いろいろな悩みなどはあなたに話さず、あなたを煩わさないように心がけてきました。』

ここで手紙は終わっている。
楽しいはずの結婚生活が、絶望と孤独に苛まれていく。
そんなモラハラエピソードを少しずつ綴ってみたい。