こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

別居

2006-02-28 23:04:30 | モラ脱出への道
 別居の1週間前、引越し業者が見積もりに来た。業者が来る前、夫にも「今日、業者が来るから」と伝えていたが、夫は立ち会うことなく外出した。「まだわからないよな」とつぶやきながら。
 私は業者に「全部運び出すわけじゃないんですが…」と説明すると、慣れているせいか「わかりました」と淡々と見積もりを行った。この業者も不動産屋さんの紹介だったので、随分割引してくれ、だいぶ助かった。そして梱包用の段ボールとガムテープをおいていってくれた。
 しばらくして、夫が帰ってきた。夫はまとまった段ボール箱を見、しばらく黙ってから口を開いた。「本当に家を出るのか」私は「とにかく別居して、しばらくひとりで考えたいの」と言うと夫は「家を出たらおしまいなんだ。もう戻らないよ」といい、自分の部屋に入っていった。ふと悲しくなった。どうしてこうなってしまったのだろう…。こんなこと私だって望んではいなかった。

 その後はまるで夫はあきらめたかのように、もう何も言わなかった(というのも、夫は既に離婚経験者なので、妻がこうして家を出て行くのは初めての場面ではない。だから悟りも早かったのかもしれない)。ただ、またいつ攻撃されるかわからない。私は一応、別居事情を伝えた複数の友人に状況報告のメールを送った。というのも、もし私に何かあったときの証拠を友人を介して残しておこうと思ったからだ。「私が殺されたら、まず夫を疑ってね」とメールを送った。そして夜、心を無にして黙々と荷作りを行った。
 問題は私の通帳からすべて引き落とされた光熱水費、電話代、マンション管理費の引き落とし口座名義を変更することだった。名義変更届に夫の印鑑を押してもらわなければならない。夫がしてくれなかったらどうしよう…そのときは私の通帳を解約し、請求が直接家にいくようにしようと思いつつ、とにかく事務的に依頼することにした。私は銀行の用紙に全て記入した後、夫に印鑑を押してくれるよう頼んだ。夫は一瞬怖い顔をしてぶつぶつ言いながら印鑑を押した。
 そして出張だとか言い、夫は2日間家に帰らなかった。私はもう夫が何処に泊まろうとどうでもよかった。その間せっせと荷作りを進め、仕事帰りに新居の鍵をもらい、部屋の掃除をした。

 別居の前夜、仕事を終えて家に帰ると夫が「今日は外食するか」と言った。そして夫が知っている居酒屋に行き、カウンターに座って一緒に飲んだ。店主が料理を出してくれながら「今日はおひとりじゃないんですね」と言った。夫は「ああ、妻だよ」と答えた。店主は「やっぱり夫婦で飲むのが一番ですかね~、ハハハ」と笑った。夫も曖昧に笑った。明日からはもう別々に暮らすのに。夫と店主の会話が遠く聞こえた。
 私と夫は殆ど話さなかった。そして黙って家に帰った。寝る前、夫は私に「君を幸せにできなくて悪かった」と言った。(その時、私は新婚のときの夫との会話を思い出した。私が『しあわせにしてね』とちょっと夫に甘えたら夫は即座に『自分の幸せは自分で責任持ってくれ。他人から与えられるものじゃないだろう!』と言いやがったのだ。)何だ、今更そんなこと言って…と思ったが一応しおらしく「いいえどういたしまして」と答えた。また夫は、「随分酷いことをした。許してくれ」と言った。私は「お互い様だから…」と力無く答えた。どうして夫は、最後にいい人ぶるのだろう。言葉だけなら何とでも言える。私が今までのことをこんなあっさり許せるはずがない。絶対に許せない。夫は他人に別居のことを聞かれたら『僕が至らなかったから謝ったが妻は出て行った』とでも答えるのだろうか。
 私は本当は夫にたくさんたくさん訴えたかった。でも夫は決して理解し得ないことを、これまた骨の髄まで理解していた。私はより安全に別居を遂行するため、作戦を守ることにした。つまり夫の言い分を否定せず、神妙にうなずくことに徹した。
 そして段ボールに囲まれ、結婚同居(?)生活最後の夜を過ごした。

 引越し当日の朝、夫は会社のイベントがあるから、と出かける支度をした。そして「ありがとう、さよなら」と言って出て行った。

 私は最終の荷作り点検を行った。そしてゴミ出しの仕方を紙に書いてテーブルに置いておいた。引越し業者が来て、支持したとおり荷物を運び出していく。マンションの管理人さんには事情を簡単に説明していたので、休日なのに出てきてくれ、黙って引越し業者の駐車位置やオートロック解除などの対応をしてくれた。私の荷物が全て運び出された後、家の鍵は封筒に入れて郵便受けに入れた。

 静かな引越しだった。頭の中はしんとしていた。張りつめていた気持ちは少し楽になっていた。

 こうして私は別居した。

非情さと懐柔と

2006-02-23 22:59:32 | モラ脱出への道
 別居のための住まいを決めてきた私に、夫は酷い罵声を浴びせた。
 「おまえのせいで人生がめちゃくちゃになった、どうしてくれるんだっ」「おまえがきちんとしないから、仕事ができないじゃないか」「おまえが俺を怒らせるんだっ」「おまえみたいなでくのぼうには話しても無駄だと思うが」「頭が悪すぎるんだよな」「おまえが俺を病気(鬱)にさせたんだ」「おまえのせいでいつも俺は下痢だ」「よくあんなまずい物作ったな」「おまえは自分のしたことが恥ずかしくないのか、そうか、馬鹿だからな」「想像力のない奴は何話してもわからない」「おまえの親の教育が悪かったんだろうな」「おまえの精神は下劣だ」「おまえ、最低じゃないか、これじゃあ豚以下だろ」…このようなことを「ええっ?」とか「おらぁっ」など挟みながら延々ヤクザ言葉で怒鳴り続け時々テーブルを叩いた。そして昔のことまで掘り起こし、「だいたいおまえのあのときの言葉はなんだ」「あのときおまえは、こんなことしたな。まったく信じられない奴だ」「ああ言ったのに、違うことをした」「おまえはあのとき約束したはずだ。おまえは嘘つきだ」…些細なことをよく記憶して延々と私を責めた。

 私はひたすら下を向いて能面のような表情でいちいちうなずいた。「そうだね」「馬鹿だよね」「私はダメ人間だから」と。夫が怒鳴り始めて2時間近くたっていた。とにかく別居するのだから、夫の気の済むまで言いたいことを言わせればいい、そして私は自分がいかにダメ妻かを夫に納得させよう、これは作戦だ、そう思ってひたすら耐えた。

 そして夫は言った。
 「実は結婚の前からおまえのこと、おかしいと思っていた」「あのとき、おまえは俺の言葉を勘違いしていた」「結婚すべきじゃなかったんだ」「この結婚は間違っていた」と。

 この言葉は私をざっくりと切り裂いた。血の気が引き体中が冷たく震えた。
どうして今更こんなことを言うのか?じゃあ結婚する前に言ってくれればよかったのに。最初から私の勘違いだったの?この時間はあなたにとって何だったの?
 最悪だ。
私の無表情で凍りついた目から涙が流れた。その後も夫が何か言っていたような気がするが、覚えていない。漸く夫が悪態をつきながら部屋に戻っていった。
 その日は眠れなかった。そして次の日、むくんだ顔のまま仕事に出かけた。

 仕事が終わり、私は重い足をひきずるようにして家に帰った。ああ、今日もまた傷口に塩を塗り込まれるような暴言を聞くのか。何とか耐えられるだろうか。突然暴力を振るわれたらどうやって逃げよう…。
 家に帰ると夫が「おかえり」と私を迎えた。テーブルには夫が料理した夕食が並んでいた。私は顔を引きつらせながら「夕飯作ってくれてありがとう」と言った。食欲もないままお箸を手に取ると、夫がしゃべりだした。
「昨日は悪かった。まさか本当に別居しようとするなんて思わなかったんだ」
すかさず私は「でもあなたが別居しようって言ったんだよ」と答えた。「そうだけど、あんなの売り言葉に買い言葉じゃないか」「でも私のせいで人生がめちゃくちゃになるって言ったよね、だからもう私と生活しない方がいいよ。私と一緒にいることであなたの人生を壊したくない」「もっと自分が変わるように努力すればいいんだよ」「もう私はこれ以上変われない。ダメ人間だから」「そう開き直るなよ。俺も変わるように努力するよ」「あなた、私のせいで病気になったって言ったよね。私と生活しているともっと病気が酷くなるよ。もうあなたの病気がこれ以上酷くならないようにしたい」「…。」「私みたいな馬鹿な人間と一緒にいない方がいいよ」「いや、おまえの馬鹿さは仕方ないよ。俺はもう慣れた」
「でももう私、なんかおかしくなりそう。今のままだと自分が壊れるような気がする」「じゃあ一緒に壊れよう、いいじゃないか、それも」(『はぁ~っ??ジョーダンじゃないよ~っ!!壊れてるのはおまえだけだ~っ!!』←私の心の叫び)「そして心新たにやり直そう。俺も反省したよ。愛が足りなかったって」(『はぁ??アイが足りない~??それどういう意味ぃ~?』←私の心の叫び)「でもあなた言ったよね。この結婚は私の勘違いだって。この結婚は間違いだったって」「………。」

 私はいかに自分がダメかを強調し、夫はなぜか優しくフォロー(にはなっていないけど)するような会話が続いた。そして夫は言った。「まあ、今すぐにじゃなくてもいい。明日になればまた心も変わるかもしれないよな、うん」
 その夜はやけに静かだった。

 この夫の変わりようが気持ち悪かった。穏やかな振りを装って、いきなり刺されたらどうしよう…。この日もあまり眠れなかった。

 そして何日か、この暴言と説得?が繰り返された。私の精神状態は極度に張りつめ不眠が続いたが、もう心は決まっていた。夫がいくら優しい言葉を使っても、いくら反省の言葉を並べても、もう何も信じられなかった。私にはわかっていた。もし夫の優しい言葉を鵜呑みにし、別居を取りやめたらどんなことになるか。しばらくは優しいかもしれない。しかし夫が気遣えば気遣うほど、恐ろしい反動がいつかくる。そして言うのだ。「俺がこんなに優しくしてやったのに」と。

 私は目の下に隈を作りながら、仕事の合間に不動産屋へ契約金を振り込み、契約書はもし夫に取り上げられると困るので、事情を話して不動産屋で預かってもらった。そして引越し業者に見積もりを頼んだ。
 
 別居宣言から1週間がたっていた。

別居に向けて

2006-02-19 00:19:18 | モラ脱出への道
 夫が別居宣言をした翌日、私は午前中に掃除洗濯を済ませ、夫と無言の昼食を取った後、家を出た。何度も何度もネットで賃貸情報を検索し、「住むならこの駅周辺がいい」「この不動産屋さんだったら親切そう」などと夢想していた頃の情報収集がこの時役に立った。私は一度かかった心のエンジンが止まらないように、絶えず自分を追い立てながら、迷わずある目的地に向かって電車に乗り込んだ。

 別居の方法については以前からいろいろ考えてはいた。夫には黙って、ある日突然引越しをするか。それとも夫には伝えて出て行くか。
 別居後も私は今の職場で仕事を続けたかった。私の今の職場を夫は知っている。だから黙って出て行ったら職場に連絡される恐れがある。職場に押しかけられて大騒ぎになるのは嫌だった。遠く離れた実家に帰ることも考えたが、今後の生活費のことを考えると、実家の周辺ですぐ仕事が見つかるとも限らず、また親と生活するのも気がすすまなかった。
 なので、私は始めから夫には一応オープンにして別居しようと思っていた。一応私から話しておけば、何かあれば私に対して向かってくるだろうから、職場に迷惑をかけることはないような気がした。ただ、別居をオープンにして進めることはとても恐怖だった。夫に言って、無事に別居ができるのだろうか。妨害されたら、それを振り切って別居できるのだろうか…。不安が募る。いや、とにかく夫が何と言おうと別居するんだ。しかも夫から宣言したではないか。私はひたすら立ち止まりそうになる自分の背中を押していた。

 目的地に着くと、すぐ目指していた不動産屋に入った。そこでは男性スタッフとともに、40代後半かと思われる女性スタッフがにこやかに対応してくれた。私は予算や条件について話しながら、ふと「実は夫との別居で一人暮らしをするんです」と伝えた。すると女性スタッフは「それは大変ですね。いくつかいい物件がありますからすぐ見に行きましょう」と笑顔で立ち上がった。私は少しほっとした。そして、いくつか物件の中に、ちょうど条件のいいものもあった。私は迷った。もう少し他の不動産屋も見た方がいいのかもしれない…でもそんなことしていたら、いつまでたっても決められないかもしれない。そう、私はいつもぐずぐずと悩んでしまう。今はそんな悩むひまはない。思い切って決めてしまおう!
 そして私はその場で即決した。とりあえず手付け金を支払い、敷金などは後日振り込むことになった。女性スタッフは「ご主人は別居することに納得されているのですか?」と聞いた。私は「夫から言い出したんですけどね…どうでしょうね」と答えた。すると「私も元夫と別居した後に離婚したんですよ。こういう時って大変だから、ややこしくなったら遠慮なく相談してくださいね」と言ってくれた。私の目が思わず潤んだ。「その時はよろしくお願いします」と頭を下げ不動産屋を出た。援軍が現われたようで、心強かった。これもきっと縁なんだ。何とかできそうな気がする…私は少し軽やかな気分になった。

 家に帰った後、雑念が湧かないうちにと、すぐ夫に今日仮契約をした賃貸情報のチラシを見せ「別居先を探してきたから…ここにもう決めたから」と話した。夫はちょっとぼんやりし、「ああそう」と言ったきりだった。
 ああ、よかった。夫もきっと納得しているんだ。案外楽に別居できるかもしれない。いや、あまり楽観的にならないほうがいい。突然何言われるかわからないのが常だ。とにかく、何があっても決行しよう。もう部屋も決めたのだから、絶対に引越しをしよう。夕食の支度をしながら思いを巡らせていた。

 夕食の片づけが終わった頃、夫が暗い声で「ちょっとここに座れ」と言った。やっぱりきた…私は身を固くして座った。
 「おまえ、決めてきたってどういうことだ?」「そんなお金どこにあるんだ?」「おまえは非常に勝手なことをしているってわかってんのか?!」夫の声は怒気を帯び、大きくなっていく。
 
 私はうつむき、酷くなっていく夫の罵声を聞きながらせわしなく考えた。
 いっそのこと、私の怒りや憎しみを夫にぶつけてやろうか。夫に思い知らせてやりたい。夫がどれだけ卑劣な人間か、私がどんなに煮えくりかえるような怒りを溜め込んでいるか大声で訴えてやりたい。でも夫には何を言っても通じない相手だということも私は知っているはずだ。自分の感情に駆られて不利な状況を作ってしまったら更にややこしいことになるかもしれない。私の言葉尻を捉えて逆に私を訴える証拠にされても困る。夫は自分を非難するような言葉は細かいことまでよく覚えている奴だ。
 何としてでもこの別居は成功させなければいけない。夫が何と言っても、どんなに脅してもこの計画は決行するんだ。それには、いかに夫が納得するようにし向けるかだ。私といたら、いかに夫が不幸になるかを強調するんだ。そう、私がすべて悪いことにするんだ。
本当は夫が諸悪の根元だと言いたいところだが、黙っておこう。これは作戦だ。そう、夫をやりすごすための演技が必要だ。少しでも別居をスムーズにするため、有利に動けるようになるために。

 夫の罵詈雑言は更に激しくなっていった。

賽は投げられた

2006-02-14 23:03:02 | モラ脱出への道
 夫とは殆ど口もきかない日々。私は別居について、頭の中であれこれとプランを立てていたものの、現実にどうしたらいいのかわからなかった。私から夫に言えば済むことなのだろうが、それがどんな反応を引き起こすのかを想像しただけで、恐ろしくてなかなか言い出せなかった。
 私は家の中でよく大きな溜息をついていた。私は結局ああしようこうしようと思いながら、行動できないで終わるのだろうか。夫がどうなろうと言うだけ言えばいいじゃないか。私はよく自問自答した。そしてまた溜息をついた。

 ある日、夕食後私はお風呂に入った。お風呂に入るといつも緊張する。以前はよく途中で夫が入ってきたからだ。私に言わせれば“汚い好き”(自称きれい好き)の夫は、かけ湯もせずにバスタブに入り、洗い場では泡を飛び散らせる。そして言いたいことを言って、そのままベッドインせざるを得ないようなこともあった。その頃は夫とも家庭内別居状態で殆どそのようなことはなかったが、私はいつも夫が家にいるときにはできるだけはやくお風呂から出るようにしていた。
 しかしなぜかその日、夫が数ヶ月ぶりに私より少し遅れて風呂に入ってきた。嫌な予感がして私は早々に風呂から上がろうとした。すると夫が私の手をつかみ、体を触ってきた。

 私は心底ぞっとした。何ヶ月に渡りお互い口もきかない生活を送り、夫といえば私に対してまったくの無視か冷たく憎々しい目を向けていたのに、どうしてそんな気分になるのか全く理解できなかった。夫にとって私がどんな気持ちでいるか、なんてことは全く眼中にないのだ。きっとどうでもいいのだ。ただ自分の欲求に応えるべき奴隷だと思っているのか?こいつは自分の性欲さえ満たせばいいのか?そうだとしたら相手が人間だろうが、豚だろうが同じことなのではないか?人間の心があるとは思えない…狂ってる!!
 私は思わず夫に向かって「あなた、本当におかしいね。信じられないね。」と言った。夫は無言で手を引っ込め背中を向けた。

 そして夜も遅くなった頃、夫は冷たい声で私をリビングに呼んだ。
「おい、あれはどういう意味だ?俺のことをおかしいといったな。」「だってそうでしょう?どうしてそういう気になるのかわからない。」「夫婦だったら当然だろう?それがなんだ、おかしいってっ!」夫はだんだんドスのきいた声になる。「まあ、夫婦って言ったって、お互い口もきかないわけだし、セックスもしない、これじゃあ夫婦なんていえないよな。ただの同居人だよなっ!」「……。」「こんなんじゃ一緒に暮らしている意味なんてあるのか?おまえはまったく妻の勤めを果たしていないじゃないか。あぁ?」「そうだね。」「そうだねって、おまえ、開き直るんじゃないよっ!何なんだその態度は?えぇっ??」夫の顔が鬼のようになる。
 私は無気力に夫を見ていた。私にはもう夫のご機嫌を取ろうとする気力もなかった。言いたいように言えばいい。もっともっと私を怒鳴り、私を嫌いになってくれればいい。そうすれば夫はどこかに行くかもしれない。願わくば誰かヨソの女のところにでも行ってくれ!そうすれば私は夫にノシつけてその女のところにでも送りつけてやるのにっ!!もうこんな男と暮らすのは限界だ!もうたくさん!!

 私はぼんやりとテーブルを見つめていた。夫がわあわあと喚いている。ああ、もう1時間になる…いつ終わるんだろう。疲れた。本当に疲れた。私はいったいいつ眠りにつけるんだろう…。私はいつまでこんなことを繰り返しているんだろう…。

  夫が叫んだ。「もうおまえとは生活できないっ!!別居だ!もう別居だっ!!」

  私ははっとした。そして即座に言った。「そうだね。別居しよう。そうしましょう。」

 夫は私の返答もそこそこに、ダンダンッと足音荒く自分の部屋に入っていった。


 夫の罵声が終わって床についたときには日付が変わっていた。
 
 突然私の頭が冴えわたった。確かに夫は別居しようと言った!これを逃してはいけない!別居だ、さあ、走り出すんだ、後のことは知らない、先のことも知らない、もう何も考えずに、とにかく走りだそう! 

 私は布団に入りながら暗闇の中で目をぐっと見開いていた。明日は休みだ。朝になったらすぐに住まいを探そう。振り返ってはいけない。後戻りはしない。やるしかない、そう、やるしかない…!心を無にして、別居に集中しよう、そう、2週間だ。2週間でやり遂げなければっ!!!


 賽は投げられた。

脱出に向けて

2006-02-11 19:55:27 | モラ脱出への道
 このまま夫と暮らしていても、何の希望も喜びもない。そう確信した私はとにかく家を出ることをめざした。いずれは離婚ということになるとしても、夫にいきなり離婚の話しを持ち出したら、どんな恐ろしいことが起こるかもしれない。夫をあまり刺激しないようにするには、まず「別居して考えたい」と、間を持たせた方がいいのではないか、と考えた。また、私にとっても離婚という選択は非常に重大な決断だったので、まずは夫から脅かされている日常から離れ、ひとりで心落ち着けたかった。

 夫との生活に絶望を感じ始め、また経済的な支配を受け続けた後、私はある時からこっそり通帳を作りわずかずつでもお金を貯めていた。当時は、我慢できずに家を飛び出したときや、どうしても自分にとって必要なものを買いたいときのための貯金だったが、既に脱出資金という明確な目的をもって貯めた。ラッキーなことに、会社の取引関係者からイベントの手伝いなど、たまにアルバイトを頼まれることが時々あり、そんな時は臨時収入として欠かさず貯金をした。また、いつも通帳を入れている引き出しには入れずに、絶対見つからないよう会社のロッカーに入れておいた。夫は時々私の通帳を覗き、いくら残っているかチェックしていたのだ。
 そして、別居するためにはどのような準備や手続きが必要なのかをネットで調べた。また職場に通いやすい地域を調べ、街の周辺情報を収集し、安心して相談できそうな不動産屋を探した。自分の収入で生活できそうな賃貸住宅も調べた。

 その間、モラハラ被害者同盟はもちろん、関連のサイトで別居体験談をひたすら検索して読みまくった。皆、必死の思いで別居に踏み切ったんだ…そう思うと涙が出そうだった。ある掲示板である女性が別居体験についてコメントしていた。「別居を決めたら、ぐずぐずしないほうがいい。準備に時間がかかると夫からの嫌がらせを受けたりして、スムーズにいかなくなる。私は別居を決めてから2週間で家を出ました」と。その通りだ。とにかく決めたら一気に事を運ばなければ、うまく家を出られなくなるかもしれない。決めたら躊躇しないで一気に行かなければ…!

 しかし、そうやって密かに情報収集したり、貯金や心の準備をしてはいたが、果たして自分自身が本当に別居できるのか疑問を感じていた。私が心に思い描いているものは、まったくの絵空事かもしれない。本当にこの生活を変えることができるのだろうか。私は夫との日常から離れることができるのだろうか。私が今していることは、精神安定のための、おままごとみたいなものかもしれないのだ。私はただ、こうして別居をイメージして計画を立てていることで満足しているだけかもしれない。
 
 そして私の中で堂々巡りが始まる。
 別居のエネルギーがあるのなら、もう少し夫にぶつけてみてもいいかもしれない。もう少し努力してみてから考えてもいいかもしれない…。夫は私が別居すると言ったらどう思うのだろうか。激怒するのか、冷たく突き放すのか、無視を決め込むのか。暴力を振るわれたらどうなるのだろう。私は殺されるかもしれない…でも夫も自分の世間体を気にするたちだから、そこまではしないだろう。しかし夫の反応が怖い。そう、私はいつもそうやって夫を恐れて暮らしてきた。なぜもっと言いたいことがいえなかったのか。夫を恐れず、喧嘩ができれば違っていたのか…。いや、無理だ。何度も何度も私は夫と話そうと努力した。笑いかけたり、夫にいろいろ尋ねたり、手紙を書いて渡したり。無視が酷かったときには夫のパソコンにメールまで送ったではないか。それでも夫とは話し合いができなかった。夫とは、ほんとうに分かり合えないと痛感したではないか。そして私はいつもびくびくしながら怯えていた。私はこんなに惨めな人間だったかと徹底して思い知らされたじゃないか。私はこのままでいいのか?私はもっと違う人生を送りたいと願っているんじゃないの?

 私は別居に備えながらも、どのようなタイミングでそれが実現できるのか、見当がつかなかった。別居を決意してから数ヶ月がたっていた。

 しかしある日、その機会は突然やってきた。夫のお陰で。