今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「いま電話もファクスも時空をこえて欧米に直ちに通じる。」
「ファクスはその時間と空間を一挙に無きものにした。一人一日三時間一社で何千時間、日本中で何千何百万時間トクしたが、そのおかげでヒマになった者は一人もない、給料があがった者も一人もない。ただそのぶん忙しくなっただけだ。
結局人間は時間と空間を限りなく『無』にしたくて、まず電話で成功した。鉄道がまだなら飛行機に乗る。どんなに時空を征伐したつもりでも紙一重の時空は残る、人は勝味のない戦いを挑んで勝ったつもりでいる、それに従っている科学技術者はよいことをしているつもりで、つゆ疑ってない。
『機械アル者ハ必ズ機事アリ 機事アル者ハ必ズ機心アリ』と荘子は二千何百年前に言っている。」
「けれども便利というものの誘惑には勝てない。」
(山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫 所収)
「いま電話もファクスも時空をこえて欧米に直ちに通じる。」
「ファクスはその時間と空間を一挙に無きものにした。一人一日三時間一社で何千時間、日本中で何千何百万時間トクしたが、そのおかげでヒマになった者は一人もない、給料があがった者も一人もない。ただそのぶん忙しくなっただけだ。
結局人間は時間と空間を限りなく『無』にしたくて、まず電話で成功した。鉄道がまだなら飛行機に乗る。どんなに時空を征伐したつもりでも紙一重の時空は残る、人は勝味のない戦いを挑んで勝ったつもりでいる、それに従っている科学技術者はよいことをしているつもりで、つゆ疑ってない。
『機械アル者ハ必ズ機事アリ 機事アル者ハ必ズ機心アリ』と荘子は二千何百年前に言っている。」
「けれども便利というものの誘惑には勝てない。」
(山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫 所収)