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人と「機械」をつなぐデザイン/佐倉統(編)

2017年01月19日 | 読書とか
人と「機械」をつなぐデザイン
佐倉統(編)
東京大学出版会

人間と機械のあり方をついての、示唆に富んだ刺激的な記述の数々。この「テクノロジーの時代」に読まれるべき一冊だと思う。母体となっているのはオムロン・グループ系のシンクタンクと佐倉氏の研究室の共同研究で、三部構成全14の記事からなっている。『内容も、形式も、きわめて雑多で多様(佐倉氏)』かもしれないが、さまざまな分野における人と機械の関係性の「肝」があざやかに示されていて、冗長さはない。

もしかしたらそれは、編集的な巧さもあるのかもしれない。例えば最初の暦本純一氏の章は、「笑わないと開かない冷蔵庫」という掴みのあるトピックから入りつつ、着地はしっかりと学際的。同氏の『マクルーハンの非常に先駆的なところは、メディアをコミュニケーションやインタラクションの手段というよりも、第一義的には人間のエクステンション=拡張だととらえたところだと思います』というコメントは、「冷蔵庫」とメディア論をきちんと結びつけている。こういったオムニバス的著作としては、強力なトップバッターだ。

こういったカジュアルな学術本(?)のおいしいところは、送り手がふと漏らす、物ごとに深く関わった人ならではの知恵みたいなものに触れられることだろう。例えば「03 サイエンス・エンジニアリング・デザイン・アートの行方」での八谷和彦氏のひと言『浅いレイヤーと深いレイヤーの話も同じで、大将に応じて対応を変える必要があるんじゃないかなと思います』は、メディアーティストや研究者であると同時に「ポストペット」や「オープンスカイ」などのプロダクト化を実現した人ならではの知見だ。思わずメモってしまった。

また門外漢にはあまり馴染みがない、しかし思考の盲点を気づかせてくれるような知識を得られるのもありがたい。「07 歩きやすさと都市環境の行方」で述べられている、人間の健康と環境との関連性を扱う「医療地理学」の存在などは、この時代にもっと知られるべきなのでは。

こういった、リラックスして語られる質の高い記事の数々は、ある意味で「知のお宝」と言ってよいだろう。その幾つかは、今後の私たちの物差しとしても機能する。「12 ロボットと心/身体の行方」冒頭の『ヒューマノイドなどのロボットは、人間が人間を理解するための新たなプラットフォームとなっているのである』という一文などは、我々はロボットを創る理由と目的を見失わないための的確な問いとなっているのではないか。

いやホント、響いた一節を抜き書きして紹介していったらキリがない。テーマが幅広い分、読み手の興味関心に合わせて得るものがあるはずだ。随所に出てくる佐倉氏の文章はスムーズで、センスの良さを感じる。読みやすいこともお薦めの理由だが、ただそれだけではない。

冒頭の『はじめに:人と機械の関係とは』には、こんな一文がある。
 
潜在的に大きな力をもつものには、なんであれ、事前の準備が必要だ。その備えを怠ったことの悲劇を、福島第一原発事故で、ぼくたちは嫌というほど突きつけられたではないか。

タイトルには「デザイン」とあるが、それは私には「覚悟」を意味しているようにも思えた。折を見て、再読したい一冊だ。
コメント
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