TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

充たされざる者/カズオ・イシグロ

2006年03月25日 | 読書とか
The Unconsoled / Kazuo Ishiguro

とあるヨーロッパの小さな町を訪ねた著名なピアニストのライダー。馴染みの無いその土地では、人々が次々に現れて彼に頼みごとや要求を突きつける。その中には過去においてライダーと関わりがあった者もいるのだが、彼は最初それに気づかない。すべてが唐突に起こり、そして時間や地理も歪んだ脈絡のない展開。決して目的地にたどり着けない夢のようなシュールな物語なのだが、読んでいて飽きることはなかった。

書かれているのは、ある種「まったくのデタラメ」である。しかしそのデタラメが人物の息づかいや匂いを感じさせるような存在感で迫ってくる。醍醐味っていうのか、小説というもののひとつの勝利―そんな印象を持った。こういうの読んじゃうと、速読法で分厚い本を一気に、なんてバカらしくなってくるね。(いつも思うのだけど、それって食べ物の栄養を数粒のサプリメントで摂って得意がってるのに似ている気がする)
コメント
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