情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

受刑者TOの悲劇~こんな証拠を出されても、あなたは無実の者を刑務所に送らない自信があるのか!

2008-04-16 01:04:28 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 ある強盗事件で、現場近くに車を止めて待っていて「実行」犯らとともに逃走したという疑いをかけられて有罪となった外国人T.Oは、前の弁護人が病気になったため、新しく選任された弁護人と出会ったとき、悲しい目をしていた。いま、思えば、それは、日本の司法システムに対する絶望のまなざしだった。

 T.Oは、強盗の現場に行ったとはされていないため、被害者の目撃証言はなく、ただ共犯者の証言のみが証拠だった。それ以外に証拠は全くなかった。しかも、共犯者の証言はその証言に至る経過から必ずしも信用できなかった。むしろ、もっと疑わしい人物がその共犯者の身近にいた。T.Oは、警察がT.Oの無実を知りつつ、何らかの理由で自分を捕まえたと考えていた。

 そもそも、T.Oは、日本の永住権を取得したばかりで、ほかの共犯者とは違い危ない橋をわたる必要はなかったし、捜査段階(起訴前)で中古車を母国に輸出するという仕事もしていると主張しており、強盗の動機は必ずしも明確ではなかった。

 そこで、作成されたのが、T.Oが説明しているような輸出業の実態はない、という警察の捜査報告書だった。そのうちの3つについて、検察官が裁判が始まってから提出した証拠等関係カードには次のように書かれていた。

甲74 被疑者の供述裏付け捜査報告書
(立証趣旨)被告人が供述した自動車販売部品取引先と称する業者には、被告人が来店した事実はないことなど
(作成日)平成●年4月8日

甲78 輸出入の実態捜査報告書
(立証趣旨)被告人の主張する仕事内容の輸出には該当する取引や輸出の事実がないことなど
(作成日)平成●年4月16日

甲79 輸出入の実態捜査報告書
(立証趣旨)被告人の主張する仕事内容の輸出に関し、輸出の際に使ったと称する通関代理店には該当する会社が無かった事実など
(作成日)平成●年4月16日

甲78は、「T.Oが車や部品を買ったと称する会社を探してみたが存在していなかった」という内容のものだが、実際にはT.Oを会社付近に連れて行って探したのではなく、口頭である程度の場所を聞いたうえで、警察のみが捜しにいったものだった。T.Oは、海外で半年近く過ごして帰国したところを逮捕されたばかりで記憶があいまいになっているうえ、そもそも日本人ではないため、地図の感覚がなく、うまく説明ができなかった。なぜ、警察はいわゆる引き当たり捜査(被疑者をつれて調べに行くこと)をしなかったのか?

その答えはあなたに委ねます。しかし、弁護人がT.Oから、輸出をするつもりで用意していた車の保管場所の説明を受け、そこに行ったところ、彼が言うとおりの車があったというのが実態です。

警察は、輸出の実態調査などと言いながら、彼が説明した車については一切捜査報告書を作成していなかった。つまり、現にある車を無視したわけだ。T.Oは警察にも車の存在について話したと述べており、警察は故意に車の存在を隠したと言われても仕方がない。この車には宛先の書かれた荷物が満載され、輸出の準備がほぼ整っていた。その車の存在は、T.Oが輸出業を行っていたことを明確に示していた。

甲78は、T.Oが輸出をする際に使った業者名(A、B、C、D)について、税関に電話で照会し、税関が検索したところ、ヒットしなかったというものだ。しかし、税関は、全ての業者を検索できるシステムはもっておらず、これだけで輸出入の実態がないとは言いきれない。

甲79は、T.Oが輸出する際に取引した荷物検査会社に関する調査報告書だった。この報告書には、税関から聞き取りをした結果として、T.Oが説明した業者名と類似の会社が2つあるが、いずれも業種が違うという記載がされていた。
 しかし、実際には、2つのうちの1つはまさにT.Oが説明したとおりの業者だった。
 しかも、なぜか、その業者(「X」とする)の住所は、●●▲町15-◆であるにもかかわらず、非常に類似した●●□町15-◆とされていたうえ、電話番号の記載はなかった。したがっって、これを受け取った検察官は、自らこの捜査報告書が正しいかどうかの裏付け調査をすることができなかった。そして、検察官は、甲79をT.Oには収入がないことを立証するものとして証拠にしたのだった。
 しかし、弁護人が後ほど調べたところ、実際には、T.Oが言うとおりの業者「X」が存在し、しかも、T.Oが言うとおり、Dという会社(彼は、Xとの関係では、Dを使ったと明言していた)での取引がその業者「X」との間であったのだった。
 それにもかかわらず、甲79は、裁判で、「被告人の主張する仕事内容の輸出に関し、輸出の際に使ったと称する通関代理店には該当する会社が無かった事実など」という立証趣旨で提出されたのだった。
 本来、T.Oが説明したとおりの業者が、●●▲町15-◆に存在したにもかかわらず、●●□町15-◆に類似の会社があるがT.Oの説明とは違うという報告書が作成されたのであり、この報告書は故意に内容を変えて作成された可能性が高といわざるを得ない。
 


 T.Oは、甲78と甲79が作成された日である平成●年4月16日に起訴され、結果的に有罪が確定した。


 T.Oは、甲74,甲78や甲79のような一方的な調書を作成するなどした警察に対し怒りをあらわにした。そして、その嘘を見抜けない検察、裁判所に対しても不満を述べた。


 弁護人は、T.Oが二度と不当な捜査報告書が提出されないようにしてほしいと頼むので、最も不当性が明確な甲79について、虚偽内容の捜査報告書を提出されたことを理由に警察(正確には、都)に対し慰謝料請求を求める訴訟を提起した。

 この訴訟は一審は敗訴した。T.Oは控訴した。そして、一審、二審を通した審理の結果、警察は、甲79については、T.Oの説明が違うという内容のものではなく、捜査の途中の報告書であり、平成●年4月16日の後も捜査を続け、まもなく、「X」の存在を確認したということを明らかにした。しかも、「X」についてT.Oが主張する業者名(A、B)での取引はないことを確認していたというのだ。

 これまた仰天するような言い分だ。この言い分は二つの点で、非常におかしい。

 一つは、「X」の存在を確認し、追加捜査をしているのであれば、その捜査結果を検察官に報告しなければならないはずなのにしていないことだ。すなわち、甲79の内容と異なり、実際にT.Oが説明するとおりの会社「X」が存在した以上、甲79が間違っていた旨検察に報告するのが当たり前だ。ところが、警察は新たな報告書はつくらなかったというのだ。その結果、検察官は、甲79について、「被告人の主張する仕事内容の輸出に関し、輸出の際に使ったと称する通関代理店には該当する会社が無かった事実など」という(虚偽の)立証趣旨で提出することになったのだ。

 もう一つは、警察は、甲78では、T.Oが利用した業者名である主張するA,B,C,Dの4つについて調査したが、「X」に対する追加調査の際には、A,Bでしか調べなかったというのだ。T.Oは、「X」との関係では、Dで取引したと明言しており、もし、警察がDの名前で調べたら、T.Oが主張するとおり、「X」との間で取引があることが判明したはずなのだ。

 以上の経過は、少しややこしいので、何度か読み返してほしい。

 この慰謝料請求訴訟は、警察官の証人尋問をしないまま結審し、まもなく判決を迎える。もし、裁判所がこのような警察の捜査手法を指弾しなかったら、警察はこれからも、自分に不利な証拠は隠し、報告内容をごまかしつづける恐れがある。そう思いませんか?


 警察は、拳銃を持ち歩いています。私たち普通の市民はキャンプで使ったスイスアーミーナイフをバッグから出し忘れて持ち歩いていただけで検挙されるというのに…。

 なぜ、警察にはそのような特権があるのでしょうか。それは、そのような強大な力がないと犯罪を犯した者を逮捕できないからです。

 しかし、一歩間違えば、その力は濫用されてしまいます。少し行き過ぎたかなっていう程度の捜査と違法な捜査の境はきわめて曖昧です。
 
 だからこそ、警察官は厳格なルールのもとでその強大な力を発揮するべきなのです。適正な手続きを踏まなければならないのです。

 

 ところが、実は、今回のような捜査報告書は、裁判員になっても出てくる可能性は大きいのです。

 なぜなら、警察は自分が調べた結果を全て検察官に送る必要はないし、検察も手持ちの全ての資料を弁護人に見せる必要がないからです。

 今後も警察は自分に不利な証拠は隠し、ごまかすでしょう。

 だからこそ、そういう問題が表沙汰になったときには、それだけで「無罪とする」くらいのペナルティが必要でしょう。そのようなペナルティがあって初めて、署長などの上司から「どうしてもこの犯罪の犯人を検挙しろ」と言われたような場合に、少し怪しそうな人物をどうにかして犯人にしてしまおう、という誘惑から逃れることができるのだと思う。

 裁判員制度はそういうペナルティがないまま、スタートしようとしています。

 あなたは、そのような制度のもとで、無実の人を刑務所に送らない、あるいは、絞首台に上らせない自信がありますか?

 …私にはありません。幸か不幸か、弁護士は裁判員にはなれませんが…。

 最後に、お願いです。T.Oに励ましの言葉を送ってやってください。日本の市民はあなたを見捨てないと…。判決は今月24日です。





 

 
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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5 コメント

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Hung on and never give up! あきらめないで、希望を捨てないで! (Sarah Y)
2008-04-17 08:55:52
受刑者T・Oさんへ送る、励ましのエール

警察や検察にとって「裁判は勝つため」の場であって、真実解明にはそもそも関心がない、という悲しく絶望的な現実は国境を越えたUniversal Problemです。国家権力は予断を持って、「落とせる」ためには何でもします。調書や証拠を捏造し、被告に不利な証言を引き出す。他方、被告を益する証拠は破棄され、故意に「紛失」され、無実を証明する証拠証人は隠蔽される。これでは、裁判に行けない。無実を証明したいのに、裁判資料が盗られて手元にない。本来なら「公訴棄却」を申請すべきところを、アメリカの弁護士は「有罪取引」の答弁をするようにと説得・強要する。これが実際、アメリカで私の身に起きたことです。私は元被告として、アメリカの司法・裁判制度を通してT・O氏と似た経験をしました。幻滅と落胆、絶望をイヤというほど、とことん体験しました。ですから、あなたに今、起きている同種の不義・不正を知り、義憤を覚えました。心から怒りと悲しみを覚えます。無実の長期勾留で受ける心身のストレスがどれほど辛く激しいものかも、よくわかります。さぞ無念なことでしょう。私も同じ、無念と怒りを抱く「冤罪被害者」です。社会正義を求め、刑の執行が終わった服役後の今こそ、冤罪を晴らそうと弁護士たちから支援を受けています。外国人として、日本の司法に絶望していることでしょう。その同じ気持ちを、私はアメリカ司法に抱いています。しかし、国家権力としての司法・裁判制度に正義がなくても、日本人の中には正義のために闘ってくれる「良心の人々」も大勢います。私もその一人として、あなたを応援します。決して、あきらめず、自暴自棄になることなく、希望をもち、耐え抜いてください。24日の判決がいかなるものであろうと、真実解明の闘いを続けてください。日本にも、あなたの理解者はいます。私との違いは、今のあなたには少なくとも親身になってくれる弁護士さんがおられるということ。勾留され無力化されているご本人は無力感でいっぱいでしょうが、弁護士さんと外部世界に、自分の思いと考えを発信し続けてください。仮に司法・裁判制度の不備により正義と真実が通らなくても、あなたご自身と、あなたのご家族、弁護士さんと神様は真実と無実をご存知のはずです。希望を持って、何があっても、生き抜いてください。God bless you!神のご加護がありますように。-あなたを案じ、見捨てない、日本人のひとりより。
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Sarah Yさんのエールに賛同です。 (東西南北)
2008-04-18 03:36:12
 特には、次の部分です。

「国家権力としての司法・裁判制度に正義がなくても、日本人の中には正義のために闘ってくれる「良心の人々」も大勢います。私もその一人として、あなたを応援します。決して、あきらめず、自暴自棄になることなく、希望をもち、耐え抜いてください。

 24日の判決がいかなるものであろうと、真実解明の闘いを続けてください。日本にも、あなたの理解者はいます。私との違いは、今のあなたには少なくとも親身になってくれる弁護士さんがおられるということ。

 勾留され無力化されているご本人は無力感でいっぱいでしょうが、弁護士さんと外部世界に、自分の思いと考えを発信し続けてください。仮に司法・裁判制度の不備により正義と真実が通らなくても、あなたご自身と、あなたのご家族、弁護士さんと神様は真実と無実をご存知のはずです。希望を持って、何があっても、生き抜いてください。

 God bless you!神のご加護がありますように。

-あなたを案じ、見捨てない、日本人のひとりより。」
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日弁連のありかた (伊賀 敏)
2008-04-18 11:29:30
裁判がインチキであるということは、国民は皆知ってます。 マスコミ関係者も皆知ってます。 弁護士はどうなんでしょう? 裁判はインチキでないとお考えですか? 訴えても勝てないですよ、99.9%負けるんですよ、お金と時間の無駄でしょう。 何故日弁連は最高裁判所長官に抗議しないんですか? 弁護士全員で刑事弁護を拒否してストライキをおこせばいいじゃないですか。 行動を起こしてください。 それは日弁連が国民に対する責任ですよ。 
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エリートコース? (伊賀 敏)
2008-04-20 14:09:51
日弁連の役職をかさねて最後は最高裁判所の裁判官になるのがエリートコースなんでしょうか? 弁護士って裁判官志望なんですか? わわわわわからん~~
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最高検検事のイカサマ法定手続 (遂犯無罪)
2008-04-28 23:42:27
起訴後の接見前に事件内容・経過を手紙にして津山弁護士に訴えたが全く聞き入れない 「誣告がされた」 津山弁護士は「冗談じゃない そんな面倒な事件は国選ではできない」 即決・嘆願弁護にすべく起訴状をそのまま丸写しにされた 自己弁護できるならそうしたかった
津山弁護士の本業は流暢な英語での国際[弁理士]なのだ 精神科医から外科手術を受けたようなもの 
このような専門外に刑事弁護を選任した裁判所の意図は拙速・手抜き法定手続にある

判決から今夏で12年となる今も不審の数々の中に二つの事件番号がある 追起訴された故であろうがこれは「第750号事件」の弁論要旨だ 
ところが判決書では「第803号事件」が加えられている やはり急遽に法廷で訴因変更をしたのだろう ならばこの弁論要旨はどうなるのか 
全く油断ならぬイカサマ法曹業界だ

http://suihanmuzai.web.infoseek.co.jp/turutahimen001.jpg.html
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