情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

7分の2という確率が意味するもの~東京地検の勾留チェックが効かなくなるとき

2010-01-04 16:50:18 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 「7分の2」ってなんだか分かりますか?某有名塾のポスターで四角い頭を丸くするとかいうタイトルで少し変わった入試問題が紹介されていましたが、それに似た感じの問題ですね。

 答えは、1週間のうちの休日(土曜、日曜)の割合です。これと東京地検がどう関係あるかは、一般の方はほとんどご存じないと思います。

 その前に、逮捕、勾留の仕組みを簡単に説明します。

 警察は被疑者を逮捕した後、48時間以内に身柄を検察庁に送らなければならず(いわゆる「ヨンパチ」。送るだけの証拠がないなら釈放)、検察庁は警察から身柄を受けてから24時間以内に勾留(=身柄拘束のこと。この時点では10日間。10日間さらに延長できる)の要否を判断し、必要な場合は24時間以内に裁判所に勾留を請求し、不要であれば釈放しなければならないのです。
 そして、検察庁では、通常、警察から送られた身柄について、担当の検察官を決め、その担当検察官が勾留の要否を判断し、上司の決裁を仰ぐことになります。
 (東京本庁では慣例として、逮捕の翌日に送られて勾留請求がなされ、翌日、裁判所で勾留の要否について判断します。地方では、逮捕の翌々日に検察庁に行った後、裁判所に連れて行かれる)

 で、問題は、土日の休みのときです。東京地検の場合、土日は、担当者制をとらないで、日直担当者が、送られた事件について勾留請求するかどうかを決めます。しかし、基本的に日直担当者にとっては、「他人」の事件ですから、勾留をしないで釈放するという判断をすることが極めてしにくいのです。ですから、金曜日、土曜日に逮捕されて、土曜日や日曜日に検察庁に検察庁に送られた人は、たとえ、少し検察で調べてくれれば、勾留の必要性がないことが分かってもらえるような事案でも、担当ではないことを理由に勾留請求をされてしまうことがあるのです。つまり、本来、警察の捜査の問題点ををチェックすべき検察が、土日には、そのチェック機能を発揮することができにくいのです。

 そうなると、さっき説明したとおり、東京では、検察庁に送られた翌日になってから勾留について裁判所で判断しますから、被疑者は留置場などでもう一泊しなければならないことになります。

 ちょっと考えてみてください。人を理由なく監禁したら大変なことになるはずでしょう(逮捕監禁罪=3か月以上7年未満の懲役)。それは、本来、警察・検察などの捜査機関についても同じことが言えるはずです。

 それにもかかわらず、東京では、検察官の勤務の都合で、不要な一泊が課せられることになりうるのです(個々の検察官の問題ではなく、これは制度や検察官の人数の問題。そして、検察だけの問題ではなく、この問題についてきちんと対処できなかった弁護士会や指摘しなかったマスメディアの問題でもある。また、この記事を読んだあとは、あなたの問題でもあるんですよ~)。

 しかも、問題は、余分な一泊にはとどまらない。裁判所は勾留請求された場合、弁護士がつかなくてきちんとした意見が述べられないと、よほどのことがない限り、勾留請求を認める傾向にあります。したがって、担当検察官が判断すれば、勾留がされないような事件が、土日の場合には、結局、裁判官のチェックもすり抜けて、勾留されてしまうということになりかねないのです。裁判官はその点について一定の考慮をしてくれているのではないかと信じてはいますが、多数の事件を担当するなかでどれだけ丁寧にできるかは心もとない感じもします(ここでも、裁判官の人数の問題があります)。

 つまり、「7分の2」は、天国か地獄かを決める確率でもあるわけですね。

 それから、さらに、恐ろしい話…。警察も「土日問題」を知っているわけだから、危ない事件については、わざと、土曜日、日曜日に検察官に送致するようなスケジュールに持っていく可能性があるってこと。証拠は少々甘いが、つっかまえて口を割らせてやる、っていう意気込みで、7分の2の裏技をつかい、そのまま強引に虚偽自白をさせる…、こういうことが起きているのではないでしょうか。

 そういう意味でも、「7分の2」の制度を変えて、土曜、日曜も担当が出勤できるような人員を東京地検にあててほしい。

 実は、今回の当番弁護でも詳細は書けませんが、改めて同じことを思わされたのです。
 
【補足】
 当番弁護の被疑者は、勾留請求されたものの、裁判所の適切な判断で請求は却下され、無事、外の世界に帰ってくることができましたこの被疑者は外国人でしたが、やっぱり、供述調書が日本語であることについて、「通訳してくれた内容は自分の言ったとおりだったが、本当に日本語でもそうなっているのかは分からない」と話していました。



★冒頭の図はhttp://www.npa.go.jp/syokai/ryuchi/seido.htmlより


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