情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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日弁連会誌に共謀罪に関する批判論文掲載1~立法事実がない

2006-08-14 18:32:52 | 共謀罪
日弁連会誌である「自由と正義」8月号に,【「治安国家」の代償~自由と社会を破壊する共謀罪】と題する論文が掲載されている。松原祐紀弁護士(大阪弁護士会)の筆になる。問題点が分かりやすく書かれているので一部分を2つに分けて引用したい。
 
■■引用開始■■

二 立法事実の不存在


1 国内における立法事実の不存在
 第一に問題と思われるのは、我が国において共謀罪を必要とする立法事実が存在しないことである。このことは、法案に付された提案理由からも一目瞭然であるし、法務省もそれを認めている。

 もっとも、審議の過程では、「組織暴力団」や、いわゆる「振り込め詐欺」を例として取り上げ、これらの犯罪に対処するために、共謀罪が必要であるかのごとき説明がされている。しかし、これまで、共謀罪を必要とする組織暴力団、振り込め詐欺に関する事件は報告されていない。しかも、殺人、放火、強盗などの重大犯罪については、既に予備罪が存在している上、「組織犯罪対策法」、「携帯電話不正利用防止法」、「本人確認法」等の各種立法も既に存在しているところである。すなわち、上記の説明には、なぜ既存の刑罰や刑罰以外の社会システムでこれらの犯罪に対応できないのか、という説明が欠けているのである。それどころか、この点を真剣に検討したことすらなく、上記の説明が後付にすぎないことを如実に物語っているのである。

 このように、立法事実の厳密な検討なくして、安易に処罰の(広範囲にわたる)早期化をはかることは、刑法の補充性の原則からしても、問題があると言わざるを得ない。

2 「グローバリゼーション」の問題点
 それにもかかわらず、政府が共謀罪の成立を急いだのは、いわゆる国際組織犯罪防止条約の締結を急ぐためである。とりわけ、念頭に置かれているのは、組織犯罪対策に共謀罪を多用するアメリカからの犯罪人引波要求に応じられるようにすることである。しかしながら、これにも問題がある。

 一つは、犯罪人引渡のために、本当に共謀罪が必要なのかという問題である。これについては、そもそも、共謀罪を組織犯罪対策に利用すること自体に問題があるが、そのことをおくとしても、具体的に、共謀罪がなかったために、犯罪人引渡に応じられなかったとする事例は明らかにされていない。周知のとおり、犯罪人引渡に応じるためには、我が国においてもその行為が犯罪とされていること(双罰性)が必要であるが、現行法の共犯規定による処罰可能性を理由に「双罰性」要件を肯定した高裁判例(東京高決平成3年3月30日判例時報1305号150頁)に鑑みると、共謀罪がなければおよそ犯罪人の引渡が不可能となる事態は考えにくいように思われる。

 もう一つは、仮に、犯罪人引獲のために共謀罪新設が必要であるとしても、そのために、「我が国の法原則と両立しない」共謀罪を新設することが妥当なのかという疑問である。共謀罪の新設は、しばしば「グローバリゼーション」という美名のもとで推進されているのであるが、実態は、我が国に対し、外国(とりわけアメリカ)の法規範、文化規範が適用されることにほかならない。これは、我が国の法規範、文化規範が外国のそれに従属することを意味する。しかし、これは、各国に共通の「ミニマム・スタンダード(最低基準)」を設定すべき条約の役割を逸脱し、事実上、我が国の有限の捜査・司法の資源(リソース)をアメリカに贈与したに等しいものと言わざるを得ない。

 さらに、三つ目として、共謀罪の保護法益との関係が挙げられる。すなわち、法務省は、共謀罪の保護法益としては、共謀罪固有のものは想定しておらず、共謀に係る犯罪により保護される法益の保護に資するものと説明しているが、上記のような真の目的と保護法益の説明が整合していないと言わざるを得ない。

■■引用終了■■





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