情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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中国人に対するこの警官発砲は限度を超えている~最高裁の基準は厳格

2007-09-01 09:37:46 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 

 栃木県西方町で、職務質問を受けて逃げようとした中国人を警官が発砲し、中国人が死亡した事件について、中国人の妻ら遺族が、栃木県に約5000万円の損害賠償を求めて提訴し、警察官を特別公務員暴行陵虐致死容疑で宇都宮地検に刑事告訴したケースについて、警察官の行為は適切かどうか最高裁判例と比較してみよう。まず、本件について、毎日新聞(※1)は、次のように伝えている。

■■引用開始■■

 西方町真名子で06年6月、鹿沼署真名子駐在所の巡査が職務質問に抵抗した中国人男性(当時38歳)に拳銃を発砲し、死亡させた事件をめぐり、中国・四川省楽山市に住む男性の妻張琴さん(37)ら遺族が30日、県に約5000万円の損害賠償を求める訴訟を宇都宮地裁に起こした。また、巡査を特別公務員暴行陵虐致死容疑で宇都宮地検に刑事告訴した。【山下俊輔、中村藍】

 原告は張さんのほか、男性の母親(73)と長男(14)、次男(7)の計4人。

 訴状によると、巡査は06年6月23日午後4時45分ごろ、同駐在所前で男性ら中国人2人を発見、職務質問のため近付いたが、2人は逃走した。巡査が追い付くと、男性は竹の棒を振り回して抵抗したため、約5メートルの距離から巡査が男性に発砲した。腹部を撃たれた男性は約1時間15分後、搬送先の病院で死亡した。

 原告側は「(男性は)竹の棒を振り回していたに過ぎず、正当防衛でも緊急避難でもないので、巡査の発砲は警察官職務執行法に違反する」「急迫不正の侵害があったとしても、警棒による対処や威嚇射撃をせず、身体の枢要部に発砲したのは過剰防衛であり違法」と主張している。

 一方、これまでの県警の調べでは、死亡した男性は拳銃を奪おうとしたり、突き飛ばすなどして巡査に約2週間のけがを負わせたうえ、石灯ろうの一部(重さ約3キロ)を振りかざし、殴りかかろうとしたとされる。県警は06年7月、実況見分や目撃した住民から事情を聴いた結果、「拳銃使用は正当防衛」とする最終判断を下した。

 30日、提訴のため来日した張さんは、宇都宮市の県弁護士会館で開かれた会見で「なぜ発砲したのか疑問。夫の死は私の家庭に災難をもたらした」と訴え、「日本の法律の公正性を信じている」と述べた。会見後には、代理人と共に男性が死亡した壬生町の病院を訪れ、遺体と遺品を受け取った。同市の斎場で遺体を火葬した後、鹿沼署を訪れ、「事実は何なのか。なぜ発砲したのかを知りたい。もう一度調べ直してほしい」と金田一郎副署長に口頭で申し入れた。

 ◇拳銃使用は適正--野村護・県警警務部長の話

 拳銃の使用は正当防衛に該当する適正なものだったと考えている。

■■引用終了■■


次に拳銃使用の限界について判示した最高裁判例を引用する。
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/平成7年(あ)第463号
【判決日付】 平成11年2月17日

■■引用開始■■

なお、被告人による発砲の適法性について、職権により判断する。
 一 原判決の認定及び記録によれば、本件事件の概要は、次のとおりである。
 1 被告人は、本件当時、広島県巡査部長として、同県尾道警察署美ノ郷警察官駐在所に勤務していた。
 2 被害者A(当時二四歳)は、大学在学中に「てんかん、頭頂部陳旧性陥没骨折、大後頭・三叉神経症候群」と診断され、大学を中退してビル清掃会社や海運会社で勤務していたが、仕事の内容が性格に合わなかったことなどから、その後、職に就かず、本件の一箇月ほど前から、画題や風景を求めて、同県尾道市a町b地区等を散策するのを日課としていた。他方、b地区の住人らは、Aが歩き回る姿を毎日のように見掛けるようになったが、その目的が分からない上、無愛想で目つきが鋭く、自動車等による騒音に対し両手で両耳を押さえるような奇妙な仕草をするところからAに警戒の念を強め、警察に警戒を要請していた。
 3 昭和五四年一〇月二二日、前記駐在所で勤務していた被告人は、右住人から、Aがb地区を歩いているとして警戒の要請を受けたことから、その身元を確かめ、場合によっては駐在所に同行して家族の者に連絡し、b地区方面を歩き回らせないようにする必要があると考え、相勤の警察官とともにb地区に向かい、午前一一時四五分ころ、同町ab番地のc所在のB農業協同組合元中野出張所前交差点付近(原判決にいう第一現場)でAを発見し、Aに対し、その住所等を尋ね始めたところ、Aが急に逃走した。被告人らは、一時その行方を見失ったものの、相勤の警察官が、同町ad番地所在のC寺の前の小道(同第二現場)にいるAを発見し、Aに接近すると、Aは折り畳み式果物ナイフ(刃体の長さ約七・四センチメートル、刃体の最大幅約一・五八センチメートル、刃体の最大厚み約〇・二センチメートル)を、刃先を前に向けて右手に持っていた。相勤の警察官は、たまたま警棒を所持していなかったため、けん銃を取り出し、これをAへ向けて右腰の前に構え、「ナイフを捨て。はむかうと撃つぞ。」などと言ったところ、Aは、右ナイフを数回振り下ろして反撃の姿勢を示した後、同所から逃走した。
 4 その後、間もなく、被告人はAが逃走する姿を認め、同人を銃砲刀劔類所持等取締法違反及び公務執行妨害の現行犯人として逮捕すべく追跡し、正午前ころ、同町ae番地所在のD方北西角から北西方約一五メートルの路上(同第三現場)でAに追い付き、「ナイフを捨てえ。」と叫んだところ、Aが振り向いて、右手に持った前記ナイフと左手に持ったナイロン布製手提げ袋(内容物を含む重量約一三六一グラム)を交互に振り回すようにして反抗したため、けん銃を取り出して弾丸一発を発射し、その弾丸がAの左手小指及び左手掌に射入する暴行を加え、よって、Aに左手小指、左手掌及び左前腕手根部貫通銃創の傷害を負わせた。右路上で被告人がAに追い付いてから発砲するまでの時間は約二〇秒であった。
 5 被告人は、けん銃をいつたんケースに収めた上、さらに、逃げるAを追って右D方庭先の同町af番地所在の田(稲の刈り取り跡。同第四現場)に至ったところ、Aは、「すなや、すなや(するなの意)。」と言って後ずさりしながら、右手に持った前記ナイフを二、三度振り下ろし、さらにその場にあったはで杭(長さ約一七一・五センチメートル、重量約五〇〇グラム、直径の最大部分約三・二センチメートル、最小部分約二・二センチメートル)一本を拾い上げてこれを両手に持ち、特殊警棒で応戦する被告人目掛けて振り下ろしたり振り回したりして殴り掛かり、被告人が特殊警棒を落とすや、なおも前進しながら、右はで杭で被告人に対し同様に所構わず殴り掛かる攻撃を加え、これに対し、被告人は後退しながら腕で頭部を守るなどしてAの攻撃を防いでいたが、安静加療約三週間を要する両前腕打撲、右大腿・下腿打撲擦過傷、両肩打撲の傷害を負い、その場に積んであったはで杭の山に追い詰めちれた形となったため、午後零時五分ころ、前記けん銃を取り出してAの左大腿部をねらって弾丸一発を発射し、その弾丸がAの左胸部に射入する暴行を加え、よって、Aに左乳房部銃創の傷害を負わせ、右銃創による心臓及び肝臓貫通、右腎臓損傷に基づく失血のためその場で死亡させた。なお、前記はで杭の山の左右は開かれており、被告人において左右に転進することは地理的にも物理的にも十分可能であり、また、右田に入ってから被告人が発砲するまでの時間は約三〇秒であった。
 二 以上の事実関係によれば、Aが第二現場以降前記ナイフを不法に携帯していたことが明らかであり、また、少なくとも第三、第四現場におけるAの行為が公務執行妨害罪を構成することも明らかであるから、被告人の二回にわたる発砲行為は、銃砲刀剣類所持等取締法違反及び公務執行妨害の犯人を逮捕し、自己を防護するために行われたものと認められる。しかしながら、Aが所持していた前記ナイフは比較的小型である上、Aの抵抗の態様は、相当強度のものであったとはいえ、一貫して、被告人の接近を阻もうとするにとどまり、被告人が接近しない限りは積極的加害が為に出たり、付近住民に危害を加えるなど他の犯罪行為に出ることをうかがわせるような客観的状况は全くなく、被告人が性急にAを逮捕しようとしなければ、そのような抵抗に遭うことはなかったものと認められ、その罪質、抵抗の態様等に照らすと、被告人としては、逮捕行為を一時中断し、相勤の警察官の到を待ってその協力を得て逮捕行為に出るなど他の手段を採ることも十分可能であって、いまだ、Aに対しけん銃の発砲により危害を加えることが許容される状况にあったと認めることはできない、そうすると、被告人の各発砲行為は、いずれも、警察官職務執行法七条に定める必要であると認める相当な理由のある場合」に当たらず、かつ、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」を逸脱したものというべきであって(なお、仮に所論のように、第三現場におけるけん銃の発砲が威嚇の意図によるものであったとしても、右判断を左右するものではない。)、本件各発砲を違法と認め、被告人に特別公務員暴行陵虐致死罪の成立を認めた原判断は、正当である。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
  平成一一年二月一七日
     最高裁判所第一小法廷

■■引用終了■■


最高裁は、拳銃使用を最終手段と考え、ほかに手段がないことを基準としている。

本件では、拳銃を発射した直前の場面では、撃たれた中国人男性は、新聞によると、【石灯ろうの一部(重さ約3キロ)を振りかざし、殴りかかろうとしたとされる】という。

重さ3キロの石をもって振りかざしてきたら、警官は少し逃げればよいだろう。重い石を持っていつまでも追いかけてくることはできないから、少し逃げれば距離をとることができる。距離をとったうえで、逃走をしないように見張りをし、応援が駆け付けるのを待てばいいのだ。

どう考えても、本件発砲が適切だとは思えない。


ちなみに、警察が使用していた拳銃「ニューナンブ」については、【また完全官給品なので、正確なスペックはもちろんのこと、生産情報も含め一貫して全て機密事項となっている(M37の配備開始に伴い生産は終了したものと推測される)。情報公開法によりニューナンブの警察納入価格は公開対象となるはずだったが、警察庁の「公開3年間猶予」のため直ちにニューナンブは生産停止となってS&Wリボルバーが採用されて3年が経ち、今では価格も公式にはわからなくなっている】(ウィキペディア)という問題があるという。

※1:http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/tochigi/news/20070831ddlk09040308000c.html







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4 コメント

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なるほど! (田仁)
2007-09-01 12:08:55
過剰防衛としか思われないですね。
そんな相手の抵抗に「頭に血が上る」事が無いよう、冷静さを保つのは、職業訓練の内ですしね、警官って特殊な職業だから。
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以前は (imacoco)
2007-09-01 13:13:30
滅多に警官の発泡事件は無かった様に思いますが。

もしかすると、社会の右傾化と関係あるのかも知れません。

そういえば、ロシアン・マフィアから拳銃を仕入れて暴力団に流して裏金を作っていると云う日本警察の真相、どうなんでしょうか。
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誤字訂正「発砲」でした。 (imacoco)
2007-09-01 16:45:38
発泡酒 ではありません。
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拳銃ねぇ。如何ですかねぇ。 (田仁)
2007-09-02 13:05:57
「米軍由来の2連発速射」の件で、米国の裏社会と日本のヤクザの接点とか探してると、すげーヤバいキッド・ナップの少女暴行や殺人の裏フィルム売買とかに突き当たって、うわー!ヤッベー!と思いましたが。
日本の役人根性は基本的に、自分は一切手を汚さず、汚い事をヤラセた民間の上前を撥ねて、オイシイ目を見る事!ですから、警察もその例外ではなく、稀に有ったとしても大規模じゃないのでは?と感じますが?
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