情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

裁判員制度は何を実現するためのものなのか~陪審の無条件忌避の起源を考える

2007-05-29 05:06:37 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 裁判員に対する無条件忌避の問題について昨日取り上げたが、少々、興奮したまま書いており、少し筆が滑っているところもあるので、一部訂正しつつ、しかし、日本で採用する場合、やはり、警察を信用できるのか、死刑を容認するのかという質問を避けるべきだという理由について少し書いてみたい。

 まず、米国では、各州において、陪審員制度に違いがあり、一般的に警察官を信用するか否かという質問をすることが許されているところもあるのは事実だ。この点、そういう州がないかのように書いたことは、間違いであり、怒りに任せて筆が滑ったところです。

 しかし、この点について、マンスターマン陪審研究所長は、次のように言う(「陪審制度」第一法規)。

 「無条件忌避の起源は、イギリス法にありますが、事実植民地時代のアメリカにおいてそうだったように、被告人のみが無条件忌避の権利を有するという考え方があります。それはこういうことです。ある陪審員が被告人である私に有罪判決を下そうとしているとします。私が陪審員の選定に何らかの発言権を有していて、そして、私が陪審員のある人が過去における何らかの事実により良い陪審員ではないと事前に知ることができるならば、その陪審員選定は私にとってより納得できるものとなるでしょう。そこで、被告人である、私はあの人又はこの人は私にとって良い裁判員ではないと忌避申立権を与えられるのです。」

 そして、それを裏付けるように、現在の制度においても、無条件忌避できる人数について、被告人の方が、検察官よりも多い州が結構残っている。

 この歴史的経過は、無視できない。日本では、現状は、①逮捕後も長期間、警察の留置場に身柄を拘束されて長時間取調が行われる(自白強要)、②取調が可視化されておらず、強圧的な取調が頻繁に行われている(自白強要)、③勾留の要件が甘く、不必要と思われる被疑者が身柄を拘束されて取調を受ける(自白強要)、④検察官は全ての捜査証拠を開示する義務を負わない(無罪方向での証拠の隠蔽)、という非常に被告人にとって不利なシステムが採用されている。

 この不利なシステムのもとで、裁判員制度が運用される。もともとのハンディを負っている被告人をさらに不利にするような質問を認めることに正義があるだろうか。

 しかも、裁判員制度は、米国の陪審制度と違って、全員一致ではなく、多数決による。そうだとすると、仮に死刑廃止論者が入っていたとしてもそれがどれほどの影響があるだろうか。警察官の取調に疑義を持っていることがいかほどの影響力を有するだろうか。

 具体的場面を思い浮かべてほしい。「警察の捜査は特に信用できると思うような事情、あるいは逆に、特に信用できないと思うような事情がありますか」という質問に対し、「ありません」と答えた人が、「やはり、この事件を捜査した警察官Aが言っていることはおかしいと思う。最近、警察官の取調が酷くて無罪になった事件があったではないですか。あれに似ていませんか」と言ったとする。裁判官からは、「あなたは、特に信用できないとは思わないと答えたからこの場にいるのではないか。他の事件はともかく、この事件についてのみ冷静に判断しましょう。警察が怪しいという偏見を除いてよく検討してみましょう」という発言がなされるかもしれない。

 「起訴されてる●●罪について法律は、『死刑または無期懲役または●年以上の懲役に処す』と定めています。今回の事件で有罪とされた場合は、この刑を前提に量刑を判断できますか」との質問にイエスと答えた人が、「死刑はできるだけ避けた方がいいのではないか」という発言をしたら、裁判官から、「死刑の適用があることを前提としてあなたはこの場にいるのですよ」と注意されるかもしれない。

 そして、これらの質問に「ありません」(上の質問)、「イエス」(下の質問)と答えたことをもって、被告人に有利に働くことは考えにくい。

 日本の現在の刑事システムでは、無罪の発見、冤罪を防ぐことは、判断者に求められる重大な任務なのだと思う。

 12人は何に対して怒ったのかを想起したい…。加害者に怒りを感じるのは至極当然のことであるが、それだけでは単なる合法的リンチに過ぎない…。










★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
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1 コメント

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住基ネットが…。 (田仁)
2007-05-30 13:24:34
裏運用されていて、要らんデータが書き込まれ、尚且つ忌避に使われたら、嫌だなあと思います。
せめて、もう少し検察に信用性が有ればいいのに、松岡大臣に捜査予定は無いと聞いている、だから。
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