ときわの広場

ときわ動物病院のコミュニティ。診療のお話やしつけ教室の様子など、ざっくばらんに綴っています。

ウサギ専門診療科66 二葉の肝葉捻転のウサギの治療

2016-07-01 16:40:17 | 院長のつぶやき
こんにちは、岡村です
ウサギの肝疾患は、稀とは言わない程度に発生します。
中でも、肝葉捻転は、ここ数年で診断されるようになり、
当院でも2013年に症例報告として、学会で報告しました
肝臓は一塊の臓器ではなく、「葉」と呼ばれる単位で複数に分節されていて、
それぞれの葉には血管が出入りしています。
葉が捻転すればこの血管がよじれて虚血・うっ血状態、様々な程度の痛みを生じます
葉全体の肝細胞の広範囲な壊死を伴う重篤で致死的疾患であるこの病態は、
かっては診断・治療の難しい疾患であり、
実際に助けられなかったウサギさんもいて、悔しい思いを噛み締めてやってきました。
今では診断・治療に関わるウサギ獣医学の日々の進歩によって、
学会での報告をみても診断件数・治療成功件数が上昇してきました

肝葉が捻転したウサギは、
胃腸運動が低下から停止することが多く、食欲・排便は低下から廃絶に至ります。
一見、肝障害を併発した中等度の胃拡張を伴う胃腸運動鬱滞と
診断されがちな点に注意が必要です。
診断には、画像診断と血液検査の併用が必要です。
ダイレクトに確定診断することはまだ困難であり、他の病態の除外診断が必要です。
CT検査が有用とした報告もありますが、CTを設備していない施設も多く、
個人的には、エコー検査が大変有用で必須な検査である印象があります。
肝葉捻転が診断リストに強力に残れば、
勇気を持って早期の開腹による外科治療が救命への道です

食欲がないとのことで来院したルーちゃん
なんと二つの肝葉が同時に捻転していました
外科治療の2週間後にはすっかり元気になりました



肝葉捻転による肝細胞壊死や疼痛は、
ウサギの生活の質を致死的に大きくおとしめてしまいます。
ウサギの肝疾患を診断する際には、捻転を頭に入れ続けておくこと、この疾患を広く獣医師に知ってもらうことが、
助けられなかった子たちへのせめてもの報いかとそういう想いでいます。
命に関わるような助けられないとされてきた疾患、原因不明の死とされてきた疾患を一つでも助けられるようにし、
かわいいウサギが病による苦痛から早く快方させられるよう、当院は頑張ってまいります



熊本の地震災害

2016-04-18 13:46:55 | 院長のつぶやき
こんにちは、岡村です。
熊本で大地震が発生して、数日が経ちました。
余震が現在まで多く発生していますが、
経験的に、大地震後の余震は決して慣れるようなものでなく、
そのたびに恐怖が襲ってくるものでした。
実に400回以上もその恐怖が襲ってきていることを思うと、
被災された方々の疲れがいかばかりかと感じ、胸がいたみます。

自分自身、一個人、一職業人として何ができるか考えさせられました。

九州地方の獣医師会では、避難所に連れて行けない被災した動物を
会員病院で一時的に受け入れることにしたようです。
動物たちの災害支援物資に関する情報は少し錯乱しています。
情報の統制をとることは現場を混乱させない、とても大切なことだと思います。
一個人では非力であっても、団体になれば、
被災動物の受け入れ頭数の増加や生活・外傷・心のケアの面など可能なことも増えます。
一職業人として、社会における役割を担うには
獣医師会の存在が大切だと改めて感じました。

個人的には、当院に災害救助犬育成施設への募金箱を設置しています。
また、動物用生活支援物資提供に関する情報を院内に貼り出し、随時更新していく予定です。

犬や猫の支援物資は全国から集まると思いますが(一部情報ではそれでも足りていない(届けられない?)ようです)
ウサギ、鳥、ハムスターなど小動物たちは避難できていて、
支援物資は足りているのかということは気がかりです。
現在は、宅配できない状況で、現場を混乱させてもいけませんので、
大阪府獣医師会や日本獣医師会からの確かな情報を集め、指示を待ち、
動物用生活支援物資の要請があれば、いつでも送ろうと思います。
個人で物資を送ろうと思っておられた方がいらしたら、現場での混乱を防ぐため、
ちょっとお待ちいただき、最寄りの動物病院の先生にまずは相談してみてください。

一人一人が、できることを考えて復興への道のりを歩んで行くしかないですし、
支援するとともに、次の災害への準備をして備えることも忘れてはならないと感じた数日でした。
みんなで災害から復興しましょう、がんばろう。

当院が学会のエキゾチック分科会賞を受賞しました!

2015-11-24 20:00:40 | 院長のつぶやき
こんにちは、岡村です
この週末、動物臨床医学会年次大会に参加してきました。
2日間病院を休んで参加しましたので、担当の患者様にはご迷惑をおかけいたしました
この大会は、学会の会員、非会員を問わず、日本全国から獣医師が参加する
大きな大会で今年で36回目になります

近頃はウエブセミナーなどで、いつでも簡単に勉強する機会が増えたためか、
参加者は過去に比べて少なかったように思います。
しかし参加されている先生の顔ぶれをみてみますと、
各分野のスペシャリストの先生をはじめ、熱い先生方が多く、
そういった先生とお知り合いになるチャンスもあることが
参加型の学会のメリットのひとつだと思います

いろんなテーマが講演されていますが、
私は今回は、動物における脳外科や神経系のこと、
エキゾチックペット(ウサギ、鳥、ハムスター、チンチラなど犬猫以外のペット)、行動診療、運動器などの見聞を広げてきました
また、私自身も、症例検討においてウサギの虫垂炎に関する知見を発表してきました
ウサギのいわゆる「盲腸」とはどんな病態なのか。

昨年度の大会でも発表を行い、それはウサギの胃拡張に関する演題でした。
そしてこの発表で、エキゾチック分科会Awardである奨励賞を受賞することができました


発表の中では、致死的な経過をとるような病態で来院した
ウサギさんを助けられるようになるために、
状態評価方法やそこから得られる合理的で効果的な治療方法を検討しています。
この疾患で命を落とすウサギがいなくなればいいなと思います


今回の大会の中で行われた授賞式に参加できなかったことが非常に残念ですが、
受賞することが動物病院としての目標ではないのですが、当院の動物医療に対する考え方が報われた気がして、嬉しく感じました
いつも私を支えてくれている病院の仲間をはじめ、
私たちを信頼くださる飼い主様、
同じくご紹介くださる獣医師会支部の先生方など諸々の関係者様にも
感謝申し上げます

また、これからも犬猫はもちろん、
動物臨床医学、ウサギや鳥、ハムスターなどのエキゾチックペット医学の発展にも
寄与できますよう病院スタッフ一同、励んでまいります

エキゾチックアニマル診療科14  コザクラインコの血尿(重金属中毒)

2015-11-02 14:30:12 | 院長のつぶやき
こんにちは、岡村です
愛情豊かなコザクラインコさん。
血尿をしているとのことで来院されました
写真のように赤い尿があればすぐに病院に連れて行ってあげてください。



なんとか元気になってくれるためには、
泌尿器系疾患や中毒、生殖器疾患など様々な疾患を鑑別し正しく治療する必要があります。
血液検査やエックス線検査の結果、
重金属中毒と診断し、
キレート剤といわれる薬を用いて治療をしてくこととなりました。
重金属中毒では鉛や亜鉛、銅などが体に入ってしまい障害を及ぼします
またこれらを用いている合金にも注意が必要でしょう。
病態は貧血のほか腎障害、肝障害をおよぼし、
けいれんや脚麻痺などの神経症状や血液にも変化がみられます。



とにかく、進行も早く立ち上がれなくなるなど、かなりしんどい状況になり、残念ながら命のリスクも伴います。
この後、血尿も治まりなんとか一命はとりとめましたが、
脚麻痺は残り、現在も治療と看護を頑張っています


日本の室内で飼育しているのに、なぜ重金属中毒?と思われるかもしれません
ですが、そこが盲点で、室内にも危険があります。
銃弾に重金属が使われていることは有名ですが、日本の家庭ではこれは非日常的です。
意外に日常的に潜んでいる重金属は、
ゴルフボール、ゴルフクラブのヘッド、重めのインテリア、
網戸などの金網や器、釣り道具やカーテンのおもり、鋼線や電線、カナダワシ、
塗料、コインなどです。
愛鳥家のみなさんも一度、室内をチェックしてみてください

美しいさえずりや色調を鳥かご内のみで楽しむというよりも、
コザクラインコやセキセイインコ、オカメインコなどは
愛玩動物として室内で自由に飛ばす時間を作ってあげて触れあっていることが多いため、
上記のようなものを興味ふかくかじっているうちに体内にいれてしまうのでしょう
こういった異物はソノウを刺激し、ソノウ鬱滞や炎症をおこし、
よりいっそう食欲回復を難しくさせます。

また重金属中毒は鳥に限ったことではありません。
ウサギさんでも報告がありますし、実際に診療にあたったこともあります
体格の小さな動物では体重あたりの摂取量が増えるため、中毒になりやすく発症しやすいのです。
もちろん、わんちゃんや猫ちゃんも注意が必要です。
動物たちには、齧ってもよいものなのかどうかは、なかなかわかりません。
室内を自由にさせるなら、取り返しのつかないことになる前に
危険なものがないかどうか、人が管理してあげてください

消化器科4 猫の肝外胆管閉塞に伴う黄疸の治療(胆嚢切除、胆道変更術)

2015-10-26 19:24:43 | 院長のつぶやき
こんにちは、岡村です
猫ちゃんも人と同じように、黄疸を発症することがあります
症状は食欲不振、元気消失、嘔吐などで、耳が黄色いことで気付かれることもあります。


尿も黄色いです。白い猫砂は色の変化がわかりやすくてよいですね。


黄疸が出る理由は様々ですが、結局、肝胆管の炎症と胆汁の鬱滞が関係すると考えます。
いずれの原因であっても、難しい疾患です
また、胆石は人も含め、犬でも猫でも発生しうります。
この場合、細菌感染を伴っていることがあり、化膿性胆管炎・胆嚢炎を念頭にいれて治療する必要があります

診断は血液検査やエックス線検査で状態を確認しつつ、エコー検査が欠かせません。
胆嚢から十二指腸へとつづく胆汁の排泄路は総胆管と呼ばれ、胆嚢管や肝管が合流しています。
この総胆管が閉塞している場合、拡張し蛇行した様子がエコーで確認できます
疎通があれば、内科治療によって、抗菌剤や利胆剤などを用いて治療していけますが、
疎通がない場合は、外科的に治療を行います。
上からも下からも総胆管の疎通ができない場合、胆汁の排泄路を確保する必要があり、
この時には胆道変更術を行います。

黄疸を呈していたフクちゃん。
内科治療で一旦はよくなったのですが、程なくして再発。
胆嚢炎と胆石、総胆管の拡張・蛇行をエコーで確認し、
胆石による肝外胆管閉塞と急性胆嚢炎と診断しました。
急性化膿性胆嚢炎を起こしていた胆嚢を切除し、
胆道変更術により、胆汁の排泄路を確保した結果、黄疸はなくなっていきました。
今では以前と変わらず食べて、元気にすごしているとのことです
生検結果も悪くなく、よい術後経過でほっとしています


胆石、腫瘍、膵炎や腸炎などが肝外胆管閉塞の原因になり、
膵炎などをおこしてしまう基礎疾患がある場合もあります。
上記のように、原因疾患が複雑で重篤なものである場合も少なくなく、
また膵臓癌のように原因疾患の事前診断が難しい場合もあることから、
肝外胆管閉塞の手術は術後経過が必ずしも良いわけではありません
それでも、内科治療に反応がない閉塞性疾患なら、外科手術を行い、
黄疸を解除させ、生検なども同時に行って正しく診断していかなくては、治る希望もありません。
外科治療にふみきった飼い主さんの決断は称賛されます

難しい疾患でも、飼い主さんが希望を見出せるような治療を提案できるように、
世の中で、どんな治療が行われているのかを知ること、
そのために考えること、読むこと、学ぶこと、足を運ぶことが大事です。
飼い主さんが動物治療に真剣であることに対して真摯に対応していきたいと常々考えています