内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-26 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-26 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-26 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-26 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
ほか建設費790億円
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-26 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-26 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
(All Rights Reserved.)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-26 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
(All Rights Reserved.)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-26 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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