内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-29 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-29 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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2008-12-29 | Weblog
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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-28 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-28 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-28 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-28 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-28 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-27 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-27 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-27 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-27 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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問われる景気対策の中身(全編)

2008-12-27 | Weblog
問われる景気対策の中身(全編)

 米国発の金融危機を背景とする内外景気の悪化を受けて、政府は、総合的景気対策の一環として9月29日、総額1.8兆円規模の補正予算を決定し、臨時国会で迅速に採択された。更に麻生首相は、予想以上に広がりを見せている世界経済の後退に対応すべく、10月30日、5兆円規模の第2次補正予算など追加的景気対策を発表した。
 第2次補正予算の柱は、2兆円規模の「定額給付金」、有料高速道路の地方区間の料金引き下げや地方支援などであるが、「定額給付金」の給付基準や地方へ振り向ける「1兆円」の取り扱いなどを巡り与党内での意見の集約に時間を要し、今次臨時国会での提出を見送り、09年1月の通常国会での提出となった。
 追加的景気対策の骨子は次の通りとなる。
 (1)生活者対策
「定額給付金」の他、雇用保険料の引き下げ、フリーター・派遣労働者等への正規雇用支援、介護・子育て支援と住宅ローン減税など。
 (2)中小企業に対する金融支援を含む対策
 緊急信用保証枠を第1次補正の6兆円から20兆円まで拡大。また、政府系金融による緊急融資枠を第1次補正の3兆円から10兆円まで拡大。
 (3)地方対策
 有料高速道路料金の地方区間や休日料金の大幅値下げ。
 道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方に振り向けなど。

 この他、銀行が債務超過などに陥った場合に支援する金融機能強化法改正案が国会に提出され、衆議院で採決の後参議院で審議されている。

 これらの支援策の内、中小企業に対する金融支援や金融機能強化法改正案などについては評価される。もっともその際経営改善を促すなど、放漫な貸し出しとならないよう運用上の規律を維持する必要があろう。
 しかし、国際金融危機の実物経済への影響から、欧米諸国を中心として景気が後退しており、主要先進工業国においても09年にはマイナス成長も予想されている。一方、国際的な消費節約、需要減のもう一つの要因である石油、資源等の高騰については、原油先物が1バーレル147米ドル水準から11月20日には50ドルを割り込む大幅な下落となっており、「石油、物価高対策」の必要性が小さくなっている。更に、ドル、ユーロが下落する一方、円高となっているので、輸出の減少が予想されるものの、輸入代金の減少と輸入品価格の下落が予想されるなど、08年第3四半期までとそれ以降で日本の経済情勢は大きく変化している。
 従って、必要とされる景気対策の対象や内容も変化しており、また2次補正予算提出が年を越すことになったので、景気対策の内容を改めて点検することも意義があろう。
 1、世界経済が直面する3つの危機
 今回の国際金融危機は、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の行き過ぎた拡大がバブル化し不良債権を生み易くした上、その金融証券化の際限ない拡大により、バブル崩壊の影響が米国内だけでなく、世界に飛び散ったものである。しかし、現在世界経済は、その他にも石油エネルギー、食料・資源危機と地球温暖化に伴う生産モデルの危機に直面していることを見逃してはならない。
(1)米国発の国際金融危機
 2007年秋頃から表面化した米国のサブプライム・ローン破綻は、米国のみならず国際的な金融危機をもたらしたが、国際通貨基金(IMF)が10月7日に公表した世界金融安定報告によると、世界の金融機関が抱える損失は1.4兆ドル(約143兆円)に達する。本年4月時点での金融証券調査機関の予想値から試算すると、その被害のおおよそ60%から65%前後が米国であり、次いで20%から25%が信託投資ファンドの乱立する欧州が蒙っていることになる。日本を含むアジア等の被害は15%前後であり相対的に被害は局部的、限定的と見られる。
 特に日本は、2001年4月に成立した小泉政権下で都市銀行に対する本格的な公的資金の注入が開始され、05年9月頃までにほぼ不良債権処理の見通しが立ったところである。しかし、この経験から日本の金融・投資機関の投融資姿勢は慎重であると共に、特別償却などにより迅速に損失を処理する傾向にあり、個別企業により差はあるもののサブプライム・ローン関連商品による被害は局部的、限定的になっていると見られる。未だに超低金利が継続していながら円高になっているのは、国際金融界がそのような状況を読み取っているからでもあろう。金融面では日本はもっと自信を持っても良いと言える。
 しかし、米国での金融危機は、株価の暴落や貸し出し姿勢の厳しさなどから経済が収縮し、消費需要が低下したことから、日本の対米輸出が減少するなど、経済的な第2次被害が出始めており、自動車や電気・電子産業など輸出産業に影響を与始めている。
 他方、ドルやユーロが低下する中で円高が進み、中間財を含む輸入品のコスト減となると共に輸入品価格が低下し、物価高騰を和らげ、円高メリットが出始めている。
 従って、固定収入のある消費者の立場からは、08年前半での石油、食料品等を中心とする物価高からの生活難は緩和される一方、輸入品への円高メリット、割安感が出てきていると言えよう。
 他方、生産者側としては、中間財を含む輸入原材料のコストが低下する一方、欧米などを中心として輸出が減少することから、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の業績の悪化と自動車産業などについては生産縮小などが予想される。
(2) 石油エネルギー、食料・資源危機
 原油先物は1バーレル50から40ドル台となり、3年半振りの安値となり、バイオ・エタノール生産の動きなどで影響を受けていた穀物や銅などの国際商品相場も急落し、国際的商品指数ロイター・ジェフリーズが11月20日に5年振りの安値水準となった。
 先物相場の下落であり、消費者物価の下落には若干の時差があろうが、円高メリットも加わり、穀類や金属資源の価格もいずれ低下することになろう。事実ガソリン価格はリッター120円台前後に低下している。
 従って、夏前の石油高、物価高からの生活難や燃料・原材料代等からの経営難は大幅に緩和されることが期待される。
(3) 地球温暖化に伴う生産モデルの危機
 08年前半の原油高、石油高は自動車、特に燃費の悪い大型車離れを誘った。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなどの米国を代表してきた自動車産業が大幅な売り上げの低下、純損失を出し、米国政府、議会に対してつなぎ融資などの救済策を訴えており、大幅な一時帰休・解雇を実施予定の中で今後の帰趨が注目される。
 米国の新車販売台数は、11ケ月連続で減少し、10月現在で年換算1,100万台とほぼ25年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ニューヨークなどの都市部では通勤・通学に電車などの大量交通手段や自転車などを使い始めている。
 日本においても、新車販売台数は減少傾向であり、08年度上期(4-9月)には前年同期比で2.4%減の240万台弱と上期としては3年連続の減少、軽自動車以外の「登録台数」は34年振りの低水準と言われている。軽自動車の売り上げも鈍化している。また、日本車が人気の北米での販売台数も前期比で約54万台減少するものと予想されている。
 自動車に依存するライフ・スタイルが定着している米国での急速な自動車離れは、石油価格が低下しているにも拘わらず継続しており、サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機だけでは説明し切れるものではない。
 恐らくは、米国において民主党支持層、若年層を中心として地球温暖化への関心と危機感が高まっており、高エネルギー消費型、高排気ガス型の自動車依存からを環境重視にライフ・スタイルが変化しつつあるのではなかろうか。
 8月にデンバーで開催された民主党の党大会のテーマの一つが環境であった。オバマ次期大統領は、11月18日、カリフォルニア州で開催された環境問題の国際会合でビデオ演説を行い、大統領に就任後、温室効果ガスの削減に向けて「米国が積極的に交渉に参加し、国際協調への新しい時代へ世界を導く」ことを確約したと伝えられている。この問題は、先進工業国のみでなく、急速な成長を遂げている中国やインドなどの新興国の理解と協力を必要とするだけに容易な問題ではないが、09年1月20日よりオバマ政権が発足すれば明確に環境重視の政策に転換することが予想される。アル・ゴア元副大統領(民主党)が世界に提起した地球環境悪化に関する「不都合な真実」は、正に戦後の大量生産・大量消費と言う米国型の生産モデルやライフ・スタイルには「不都合」であっても、地球の将来にとっては危機として米国民に広く受け入れられ始めていると言えよう。
 日本を含む各国の景気対策も、このように複合する3つの危機を認識して対応して行くことが望まれる。

2、日本の「景気対策」として何が必要か
 現在の国際金融危機への対応については、まずその震源地である米国が政治、行政、経済各分野の総力を結集して克服する努力に期待されるところが大きい。米国の問題であるので詳述は避けるが、低所得層高金利住宅ローンと住宅居住者への金利引き下げや超低利での借り換え、返済期間長期化などの救済策、金融・保険機関等への救済策や景気拡大策などと共に、バブル化した金融・派生商品や実体の伴わない空取引などへの秩序強化策が含まれよう。
 同時に、国際基軸通貨であるドル体制の安定化のために各国金融機関との協調や国際通貨基金(IMF)や世銀等の支援活動などが不可欠である。
 また、世界の総生産(GNP)の27%強を占めている米国経済の早期の健全化は、日本を含め各国経済にとって重要であるので、11月中旬にワシントンで開催された20カ国金融サミットの声明(11月15日)で明らかにされている通り、各国が「状況に応じ、即効的な内需刺激の財政政策を活用する」など、日本経済の後退を下支えする政策を取ることが望まれる。しかし、そのような財政政策を実施するに当たっては「財政の持続可能性の維持」に役立つ政策枠組みを確保することとの留保が付されているので、日本が赤字公債や建設国債を増発することが容認されているわけではない。
 このような政府レベルの財政政策と共に、と共に、国民レベルで可能な限り米国製品の輸入や米国への観光促進など米国経済の回復努力に協力して行くことも歓迎されよう。
 更に、米国の金融危機とドル安、円高は、日本が米国や欧州等の世界の金融・投資市場と協調すると共に、より強固な足場を築くチャンスでもあるので、財務状況に余力がある場合には、中・長期の世界戦略から海外に投・融資を実施することも歓迎されるであろう。
 このような観点から、現在の日本に望まれる経済・財政政策はどのようなものが考えられるのであろうか。
(1) 予防的な金融強化改正法案
 大手銀行6グループの08年9月期中間決算での最終利益は、不良債権処理費用や株価下落に伴う含み損などが膨らんだことにより、「従来予想の9,550億円から58%減の4,010億円」となり、通年ベースでも減益が予想されるが、一定の利益が確保されている。また地方銀行についても、株式上場87地銀の内、赤字を計上しているのは27行ほか2行であり、損出は局部的、限定的となっている。
 政府は、金融機能強化法改正案を国会に提出し、既に衆議院で採択され、参議院での審議に移っているが、サブプライム・ローン関連の損失などで破綻状態に直面している銀行は目下のところ見られないので、同法案はいわば予防的な措置と言えよう。同法案はいずれ採択され、万一の場合の銀行救済手段となろうが、国民の負担を強いるものであるので、経営体制や貸付基準等において不適切な銀行を安易に救済すべきでないことは言うまでもない。
 (2) 望まれる中小企業への経営健全化融資
 日本の場合、サブプライム・ローン問題の直接的な被害よりは、むしろ防御的な銀行の貸し渋りや海外市場の停滞や円高による輸出産業への打撃など、いわば2次的経済被害による輸出関連産業、特に中小企業への影響が大きいと予想されるので、中小企業への融資を中心とする支援策は不可欠であろう。
 しかし、中小企業への融資が目先の運転資金の穴埋め等のためのもので、回収の可能性の低い融資であれば安易に行われるべきではないであろう。経営改善や再建、新規起業等に対する融資を中心とし、経営者の再建努力、企業家努力を支援するような将来に繋がる支援策とすることが望ましい。
 また「景気対策」は政府にのみに任せて置けば良いということでもない。企業レベルの再建、再編努力や新規商品の展開、新規市場の開拓など企業レベルの努力があってはじめて危機の克服が可能になり、将来が開けて来るのであろう。
(3)薄れた石油高、物価高対策の必要性
 上述の通り、原油価格は夏過ぎから軟化し、一時の3分の1程度に下落している。日本でのガソリン価格もリッター120円前後から更に下げる見通しとなっており、今後の欧米の経済後退から当面高騰することは予想されない。バイオエタノール熱も沈静化し、穀物等の商品先物価格も下落している。また、中国などの新興国経済の過熱も沈静化しており、原油や金属類への需用の他、穀物や高級魚類、高級食品への需要も落ち着いて来ているので、石油高、物価高対策の必要性は当面薄れていると言えよう。逆に、円高還元セールなど、低価格により差別化を図り、ビジネス・チャンスとしている企業も出てきている。

 従って、定職を持つ世帯への生活支援の必要性は低下していると共に、有料高速道路の地方区間等の値下げなども必要性が薄れている。逆に、その値下げ分を公費で高速道路会社に補助、補填するのであれば、財源難にあるだけに公費の使い方を再検討する必要も出て来よう。景気刺激策としては、道路会社による自主的な有料高速道路料金の一律引き下げやガソリン税暫定税率の一部引き下げなどがより公平且つ効果的であろう。
 原油高騰に伴い航空料金に燃料費の追徴(サーチャージ)が行われているが、明年1月より引き下げられる見通しであり、円高と相俟って海外旅行需要を喚起するチャンスになろう。それをクリスマス前に前倒し実施すれば年末年始の海外脱出組みを取り込むことも可能になろう。
 原油価格の大幅下落により、値下げ出来る産業は航空産業だけではない。電気、ガス料金や政府が管理している麦価など公共的な料金を速やかに元に戻すことが望まれる。
 現在の国民の将来不安の根底の原因であり、節約マインドの原因は、年金への不安である。年金記録漏れ問題への対応も2年を経過しており、これ以上の先送りは年金不信を増幅させる恐れもある。1億人以上に出した年金特急便で異議のある者については速やかに記録を訂正等すると共に、今回異議申し立てをしなかった者についても将来門戸を開いて置くこととするなど、政府としての結論を速やかに出すべきであろう。1億人以上に特別便を出し、異議が示されなければ、当局の責任であるので異議申し立ての門戸は開いておくべきであろうが、自己責任でもある。
(4)強まる失業者対策とフリーター、派遣など非正規雇用者対策の必要性
 外資系金融・投資会社や輸出関連産業など、金融危機に影響を受けている分野での人員整理が進み、失業が増加することが予想される。また、09年の新卒者の内定取り消しなど、新卒者が定職を得れない可能性が出て来ている。
 自動車産業6社合計で派遣社員を中心として1万人規模の人員整理が行われる予定であり、派遣などの非正規雇用者対策の必要性も高まっている。
 更に、バブル経済崩壊時に新卒者が定職を得れず、フリーターやアルバイト、派遣などの非正規雇用を強いられ、今回の金融危機で更に不安定な雇用が継続する可能性が強くなってきている。
 これらの失業者に対する当面の救済策と共に、非正規雇用者に対する正規雇用化や転職のための指導、訓練などを行うなどの必要性が高まっている。
 また、経済後退期に影響を受け易い生活困窮者の救済や交通遺児・犯罪被害者子弟の就学・進学支援など、社会的弱者支援が必要となっている。これを誤ると、社会的荒廃を招く恐れがあると共に、たまたまこの時期に居合わせた若年層に適正な教育や就職の機会を与えない結果となり、健全な人材育成と社会造りを阻害することにもなろう。その上、日本では「新卒者」の終身雇用制が支配的となっているので、たまたま不況期で就職出来なかった者は長期に定職を得れず、不遇な時期が長期化する可能性があるので、衡平の観点と社会的不満の軽減等の観点から、これらの者に再チャレンジの機会を与えるシステムを制度として構築して行くことが重要となっている。
 金融危機の中で生き残らなければならない企業としても、人材の確保と社会的責任の観点からこの分野で果たす役割は大きい。派遣制度やフリーター現象はバブル崩壊期の産物と言えるが、この時期においても、労働者側とも協議し、人員整理を原則行わない、或いは最小限に止め、企業としての団結を保つ一方、賃金水準を下げることで対応した企業もある。
(5)地球温暖化時代に即応した公共事業
 地球温暖化防止への取り組みを強化しなくてはならない今日、大量に運搬が出来る鉄道や高速船舶など、大量運搬手段や自転車などの促進を図るなど、公共事業の優先分野の検討が必要になっている。また、集中豪雨や旱魃などの異常気象を勘案してダムや貯水池などのあり方の見直しや、太陽電池の促進など、新たな社会的なニーズやライフ・スタイルに沿った公共事業に重点を移して行くことが望まれる。そこにまた大きなビジネス・チャンスが生まれて来よう。
 また、途上国への政府開発援助においても、環境評価を充実させ、地球温暖化防止の目標に合致するプロジェクトを優先するなど、援助内容の転換が望まれる。(08.12.01.)(Copy Right Reserved.)
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