内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-14 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
                    (不許無断掲載)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-14 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-13 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-12 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-12 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-12 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
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北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)

2009-12-12 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス -温暖化の恩恵か、警鐘かー(総集編)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
 1、期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。<参考:北極海氷海の動き>
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。
 2、豊富な天然ガス・石油、その他鉱物資源
 北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 石油については、世界の石油生産の約10%、天然ガスについては25%の供給源になっており、現在ロシアが最大の生産者だ。更に、米国地質サーベイの調査結果(08年6月23日公表)によると、未開発埋蔵量では石油が約13%、天然ガスでは約30%に相当する。そして、特にボーフォート海盆やロシアの大陸棚など、北極圏には世界のこれら未開発資源の約22%が眠っていると見られている。
 現在、北極海の大陸棚への沿岸諸国の関心は高まっており、カナダ、デンマーク、ロシア、及びノルウエーが国連海洋法条約に基づき大陸棚の線引きを行っていると伝えられている。最終的な線引きにはなお時間が掛かろうが、ロシアはロモノソフ海嶺をシベリア大陸の自然の延長としている。ロシアの専門家は、この海嶺周辺に北極圏の炭化水素資源の約3分の2が存在すると推定している。
 3、必要な温暖化への影響回避と環境保全措置
 このように北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。しかしそれにより北極圏の気象環境や自然環境を悪化させ、地球温暖化を加速させる結果とならないよう配慮し、中・長期に持続可能なるよう開発と環境保全との調和を図って行くことが不可欠と言えよう。
 北極評議会の開催前日の4月28日には、アル・ゴアー元米国副大統領と議長国ノルウェーの外相が共同議長となって「融ける氷海」に関する国際会議を開催し議長サマリーを出した。同サマリーでは氷海の融解が加速すると共に、グリーンランド、その他周辺諸島の氷河等も融け出しており、2100年までには世界の海の水位が1m程上昇するであろうと警告している。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。
 同時に忘れてはならないのは、北極での氷海や陸地の氷河が融けているということは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。また、ヒマラヤやアルプス等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 特に北極の氷海縮小は、気流や海流によるクーリング効果を失わせ、地球温暖化の過程を早める恐れもある。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えていると言えよう。
 従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、それが北極圏の開発を「持続可能」にすることにもなるので、この観点から次の点を提案したい。
 (1)北極海での経済活動の秩序維持に関する国際的ガイドラインの作成
北極海が夏の期間を中心として運行や観光等に使用出来るようになることは、いわ
ば10万年来の人類にとっての恩恵であるので、沿岸国だけでなく世界の海洋国にも使用出来るようにすべきであろう。周辺国の領海の外は公海であり、その部分が使用可能になれば当然であろうが、氷海部分を可能な限り維持、保全し、秩序を維持することが重要だ。その観点から、国際航路として使用出来る航路や期間、及び砕氷船の使用基準などを定め、秩序を維持しつつ国際的に使用出来るようにすることが望ましく、公海部分を含め何らかの国際取り決めが必要であろう。また安全な航行を確保するため、北極海の航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
カナダ領の島嶼を縫って航行する「北西航路」についても同様であり、国際水路として使用出来るような基準が検討されるべきであろう。また、海洋投棄の禁止や汚染者責任の原則など、汚染防止の側面を明確にして置く必要があろう。
 (2)北極海大陸棚の領有権や「線引き」の凍結
2008年5月28日、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、デンマーク領グリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の開発を巡る5か国間の競争過熱が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
しかし、これを一歩進めて北極海の氷海の縮小と温暖化の相互関係が明確にされる
までの間、北極海の大陸棚や領海の外の海底の領有権の主張や「線引き」に基づく開発の実施を凍結することが強く望まれる。
 (3)北極圏のユネスコ世界遺産への指定
原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体を、氷海、島嶼、雪原や氷河に覆われ
た沿岸の陸地を含め、ユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
 (4)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出
を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた領土、及び領海、排他的経済水域で2000年時点において氷結していた区域について、調査・研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを検討することが望まれる。そのような使用凍結、制限は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
 また関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
 08年7月27日付AP電は、温暖化により、カナダの北極圏にあるエルメ-ル島に接続していた広大な氷の棚が折れ、漂流し始めたと伝えている。この氷に棚は、4,500年程の古さのもので、米国のニューヨーク市があるマンハッタン島に匹敵する大きさと伝えている。
 (5) 同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原や氷河は極点に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海の縮小をくい止める対策が必要になっている。

 4月2日、ロンドンで開催された20カ国主要経済国会議(G-20)は、コミュニケにおいて、09年末までに全体として5兆ドルに及ぶ財政支出を実施し、生産を4%押し上げるとすると共に、「グリーン経済(green economy)」を加速することにコミットしている旨表明している。
 更に7月8日から10日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-8)に際し、中国など新興諸国を含む主要経済国会議が開催され、採択された「首脳宣言」において、「気候変動は世界全体として異例の対応を必要とする明白な危険を呈している」との異例とも思える強いメッセージを発している。このような認識から、世界経済についてもエネルギー効率と環境に考慮した「グリーン・リカバリー」を目指し、「グリーン・エコノミー」を促進する必要性を訴えている。
世界は、明らかに「グリーン・エコノミー」の加速に動き始めている。地球温暖化防止による“持続可能”な世界経済の再構築である。北極圏への対応は、南極大陸への新たな対応と合わせて、その象徴的な意味を持つことになろう。 (09.09.)                      (All Rights Reserved.)
                    (不許無断掲載)
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