内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-13 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
             ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-13 | Weblog
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 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-13 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
             ほか建設費790億円
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岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か

2010-02-13 | Weblog
岐路に立つ公共放送NHK、事業見直しか民営化か
 NHKは、1月13日、経営審議委員会で2010年度の事業計画を採択したが、政府(総務省)を通じ国会に提出され、3月中には国会での審議を終える予定だ。
 10年度の事業計画では、民間放送の売上高に当たる事業支出は6,847億円となっている。収入は受信料などで6,786億円に達している。61億円の赤字となっているが、事業収入以外に、デジタル化などに備えた“建設費”として790億円の積立金があるので、この事実上の積立金を含めた総事業資金は7,576億円にも達している。
NHK放送事業は、高度成長期の1970年代以降テレビが飛躍的に普及したことから、受信料収入が6,500億円以上の水準に膨張し、受信料の引き下げでは無く、事業の拡大を続けて来た。「公共放送」として必要最低限の放送事業に限定し、受信料を大幅に値下げして視聴者の負担を軽減するとの選択肢もあった。
テレビ受信契約は、1968年には2,248万件強に、そして2004年には3,815万件強に飛躍的に増加しており、この間事業予算も倍近くに膨らんでいる。少子化等の要因で1所帯の人数が減少する一方、1人世帯などが増える中で、1人当たりの受信料負担は増加していること、及び外国の衛星放送を含むテレビ番組も飛躍的に多様化していることなどを勘案すると、受信料と共に「公共放送」の事業自体のあり方についても検討してよい時期にあるのではなかろうか。国会での審議が注目される。
1、肥大化したNHK放送事業
放送事業に関することであるので、政見放送やニュース等の取り上げられ方などを気
にすると、政府総務省としても国会としてもなかなか言い出し難いのも事実だろうが、そもそも「公共放送」に6,500億円を越える事業費が必要なのであろうか。
2009年3月の決算で、主要民放5社の総売上高(総事業費)は、最大のフジ・グループで5,600億円強、最小のテレビ東京で1,200億円弱、平均では3,200億円強であるので、NHKの総事業費が民放5社平均の2倍以上となっている。民放事業を圧迫しているとも言える。
未払い率が約20%の水準で推移しており、収入増に全力を尽くすとしているが、支払いを強いたり“義務化”して事業費を更に増やす必要があるとは思えなし、国民の望むところでもなさそうだ。2割程度の値下げでは不十分で、その水準で受信料支払いを“義務化”すれば、受信料支払い者は現在の契約件数が大幅に増加すると見られるので、実際の徴収額は飛躍的に増える可能性が強い。法律により国民の受信料支払いを“義務化”し、他方でNHK側の「報道の自由」を確保したいとの主張もどうもしっくりしない。国民の側の表現、思想、信条の自由や選択の自由は認められないのであろうか。どのチャンネルを見るかは、個々人の自由が原則であり、個々人の選択に委ねられるべきであろう。支払いの義務が生じるのは、その個人が契約を取り交わして初めて生ずるものであろう。
無論、戦後のTV事業の発展や娯楽・情報の提供など、特に地方で果たして来たNHKの役割は大いに評価される。しかし今日では、民放も大きく発展し、TV以外の娯楽も豊富となり、外国衛星放送を含め番組選択の範囲も飛躍的に拡大するなど、放送事業発展への役割はほとんど果たされている。従って視聴を希望する者に受信機を提供し、個別の契約とすることが最も合理的と言えないこともない。
しかし全国的な「公共放送」を維持するということであれば、事業の範囲を、そもそもの原点に立ち返りコマーシャル・ベースでは困難な教育番組(幼児向けや老齢者向けやコミュニテイ活動を含む)と報道番組(日本語海外放送を含む)、国会中継や地方議会中継などを中心とすると共に、ドキュメンタリーや歴史的、地理的、社会的な取材番組、史実に則った長編ドラマや伝統的芸能文化・工芸など、芸術性の高い番組と放送技術に関する研究・開発などに特化して行くべきではなかろうか。このようにすれば、「公共放送」の事業費は例えば現在の3分の1以下の規模でも十分であろう。それでも年間2,000億円以上の事業規模であり、テレビ東京を上回る放送事業となる一方、視聴者負担を大幅に軽減出来る。
その他の事業については全て止めるということでは決して無い。その他の分野については、民放形式で行うか、時間帯を地域放送などに売る形などで自由に展開することが望ましく、全体として、事業規模、事業内容の見直し、仕分けが行われても良い。放送事業に参入を希望する企業家は地方にも多く、それにより放送事業が活性化することが期待されると共に、地方それぞれの工夫や特性を生かし易くなると期待される。
 なお、地震、台風その他の緊急な放送については、公共放送の大きな役割である。
しかし携帯電話やインターネットを通じる媒体が多様化している今日では、緊急時に多くの人がNHK以外の放送やサイトを見聞きしている可能性が高く、民放各社やインターネット・携帯電話での配信がより重要になっていると言えよう。
2、問題の多いBS放送
NHKは、「総合放送」として受信料を聴取していながら、BS放送について別途受信料を徴収している。その上BSだけで3チャンネルも保有しているが、その必要性は疑問だ。ハイビジョンの開発、促進についてはNHKが重要な役割を果たして来た。しかしTV放送がデジタル化されれば映像もより鮮明になると期待され、一般向けの番組にはハイビジョンのような高画質でなくても良さそうだ。ハイビジョンは、むしろ高度な科学技術や宇宙開発などの高度の研究開発や医療教育など、高画質が要求される分野でより有用と思われ、希望者との個別の契約で提供して行くことが望ましい。
 衛星放送については、現在外国の放送番組も個別の契約で広範に受信できるようになっている。NHKのBS放送も「総合放送」として統合するか、希望者との個別の契約で提供すべきであろう。受信料納付率が80%水準で低迷していることから、昨年来NHK側が集金活動を強化しているが、100%の納付が実現すると受信料収入は8,000億円を超える規模となり、それ程大規模な「公共放送」が必要か改めて問われなくてはならない。民間の国際衛星放送と契約している視聴者にとっては、「総合放送」料金の支払いは仕方ないとしても、NHKのBS放送はほとんど不要である。受信、視聴を希望しない者に何故支払いを求めるのだろうか。制度自体に基本的な無理が生じ始めている。
 また現在、全体の所得が低下している上、派遣などの不正規就労者が1,600万人を越えると共に、老齢者を含む独居人口が増加している中で受信料徴収を強化してまでも6,700億円を超える「公共放送」を維持し、徴収強化し更に拡大することが国家、国民の優先事項であろうか。受信料相当額を適当な形で税に組み込み、目的税化する必要はないが、不足が深刻になっている保育・デイケアー施設や独居者向けの養護施設や進学支援に向けるなどすれば、今日的な課題に取り組むことも出来る。なお、目的税化は逆に予算を硬直化させ、無駄の原因を作ることになる可能性があるので好ましくない。
 3、NHKによる株式会社日本国際放送の設立
 株式会社日本国際放送は、全面英語放送で世界に発信することを目的として、NHKが08年4月に5千万円出資して設立され、同年8月に1億5千万円追加出資され、2億円規模の企業となった。NHK広報局によると、民放、商社、IT関連などの民間企業(NHKの子会社を含む)に対し、約1億9千万円の割り当て増資を行い資金規模を拡大する予定としていた。NHKが筆頭株主の国際放送事業となる。
 海外向け情報発信事業の強化については、筆者が07年11月に関係民間企業の参加を得て「日本情報発信基地局」(仮称)を新設するよう提案していたものであり、このような国際放送事業が発足したことは歓迎される。しかし本来、NHKが他の国内事業を縮小してもっと早く国際放送を充実させて行くべきであったのであろう。
ところでNHKはこの企業に当面2億円の出資をしているが、それは視聴者の受信料から出資されているもので、実体論からすれば受信料支払い者が本来の出資者ということになるので、本来的には視聴者に対しても十分な説明責任が果たされると共に、本来であれば何らかの利益が還元されるべきなのであろう。その他にもNHKは多くの「子会社」を持っているようであるが、これらの「子会社」の事業について十分な説明責任が果たされているのかや、受信料支払い者に利益還元がなされているかについても疑問だ。他方、損失が出ている場合には事業の整理が検討されるべきであろう。
 また基本論として、国際放送を民間企業体で出来るのであれば、NHKのほとんどの事業は民間企業体でも出来ることを意味しており、NHK事業の民営化を含め抜本的な見直しが行われても良い時期にあるとも言える。一般個人、法人の株式保有率を例えば1人1%以下に制限しつつ広く全国から出資者を募れば、特定個人・法人の影響力を抑制し、公共性を維持しつつ、民営の放送事業体とすることは可能であろう。
2010年度のNHK事業計画は3月中に国会の承認を得る流れとなっているが、放送事業を所掌する総務省を中心とする政府及び国会での検討が注目される。
(01.2010)       (All Rights Reserved.)(不許無断転載)

(参考)
民放キー局5社の売上高(2009年3月連結決算)
フジ・メデイア・
  ホールデイングス   5,633億円
TBSホールデイングス   3,723億円
日本テレビ放送網    3,245億円
テレビ朝日       2,471億円
テレビ東京       1,197億円

5社合計        16,269億円
       (1社平均 3,254億円)


公共放送事業予算
NHK 09年度事業予算  6,728億円
             ほか建設費790億円
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
(All Rights Reserved.)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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2010-02-13 | Weblog
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産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その2)
1、鍵となる職能制雇用形態の拡大 (その1で掲載)
2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その1)

2010-02-13 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵―(その1)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、中長期的にこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 抜本的に新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。(2010.01.)        (不許無断転載)(All Rights Reserved.)
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