内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-26 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-26 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-26 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-26 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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憲法9条の改正に賛成する (全編)

2013-07-26 | Weblog

憲法9条の改正に賛成する (全編)

 日本国憲法は、第9条において、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その目的を達成するため、陸海空軍他の戦力を保持しないとするなど、崇高な理想を掲げている。

 1、憲法9条と現実の乖離

 しかしこの憲法の理想に反し、現実は2つの面で大きく乖離している。

 (1)  一つは、国際情勢、特に北東アジア情勢の緊迫化である。

 昨年北朝鮮の金正日政権を世襲した金正恩第一書記が、軍事を最優先する先軍主義を継承し、2012年12月には長距離ミサイルの発射実験を実施し、2013年2月に第3回目の地下核実験を実施した。更に国連安保理は、3月にこれら一連の北朝鮮の行動を安保理決議違反として制裁を強化した。このような中で北朝鮮は、米韓合同軍事演習が従来通り実施されたことにも反発し、南北朝鮮相互不可侵などを定めた基本合意書(1992年発効)を破棄し、次いで南北休戦協定を破棄すると共に、韓国や米国等を攻撃する意図を表明するなど挑発の度を強めている。

 また中国との関係においては、2012年9月に石原都知事(当時)が購入を模索していた尖閣諸島を国有化したことに反発し、中国が同諸島の領有権への主張を強め、同海域での活動を強化し、1月30日には中国艦船による海上自衛隊艦船へのレーダー照射(ロックオン)、4月23日には8隻にも及ぶ中国の海洋調査船などが同諸島領海に侵入するなど、緊張が高まっている。

  北東アジア情勢は、憲法が希求するとしている「正義と秩序を基調とする国際平和」から程遠い状況である。

 (2)  もう一つは、自衛隊の現状は明らかに戦力であるが、それは自衛目的と法律の範

囲内における国際協力に限定される。また交戦権が制限されているため、自衛活動の程度や範囲が必ずしも明らかでない上、集団的安全保障や地域的な軍事同盟への参加についても制約がある。

 従って、憲法第9条は改正されるべき時期に来ている。その他の条項については、手を付ければ論点が拡大し収斂に時間を要すると思われるので、9条改正を優先すべきであろう。

 しかし9条だけを取っても、国家のあり方や国家、国民の安全保障の基盤に係わるものであるので、広く国民の同意が不可欠であろう。

 2、憲法改正発議(国会の3分の2の多数)は緩和すべきか 

 現在憲法改正は、国会の各院総員の3分の2の多数で発議し、有権者の過半数の賛成が必要としている(第96条)。改正発議に国会の3分の2の多数が必要であり、これが憲法改正を困難にしているとして、与党や維新の会がこれを国会の過半数による発議とすため、96条改正案が検討されている。

 9条を含め憲法改正は、国家のあり方や国民の基本的な権利義務に直結する重要な事項である。本来であれば消極的賛成を含め、国民の8、9割以上の支持があることが望ましい。その改正について国会の過半数による発議とし、有権者の過半数の承認をもって改正できることに要件を緩和すると、場合により51対49という僅差で憲法が改正されることになるが、結果として国論を真っ二つに分断し、逆に国家運営を極めて不安定にする恐れがある。

 憲法は、国家、国民全体への影響を考慮し、その改正には国会の3分の2の多数による発議を要件とし、国論が真っ二つに分裂しないように主要政党間の協議、調整を通じての歩み寄りを促しているのであろう。少なくても改正の支持者が明確な多数を占めるよう、国会乃至有権者の65%以上の賛成があることが望ましい。51対49で憲法を改正し、例えば国民の義務として徴兵制に応じよと言っても国民の間で動揺や反発が広がる可能性があり、これが国民間の対立や分裂に発展する恐れもある。とすると3分の2の多数ということは過度なものではない。

 従って、もし国会の発議を過半数にするのであれば、国民の投票では65%以上(又は3分の2)の賛成とすべきであろう。96条改正については、国民の熟慮が求められる。

  3、より低い軍事レベルでの安全保障に向けての国際的取り組みの必要性

 上記の通り、北東アジア情勢は緊張の度を強めており、中国では近年10%を越える継続的な軍備拡張と海洋への進出、北朝鮮では核兵器、ミサイル開発の促進が進んでいる。これに対して朝鮮半島における米・韓両国のミサイル防衛などの強化、及び日本の防衛体制の強化が行われている。これは現実的な安全保障上の措置として不可欠であり、効果的な対応を怠ってはならない。

 しかしこのような現実的な対応は、軍備の拡張に次ぐ拡張を招き、破壊力は増え続け、万一紛争が起これば当事国の死傷者や被害は拡大することになり、安全保障上の措置が逆に当事国の国民の生命、財産への被害拡大をもたらすことになる。

 現実論としての安全保障措置は不可欠であるが、他方でより低い軍事レベルでの安全保障への努力や当事国間での偶発戦争の防止や信頼醸成措置に向けての努力も必要であろう。

 北朝鮮等の核・ミサイル開発阻止と共に、核拡散防止条約(NPT)6条に基づく、核兵器国の核軍縮に向けての誠実な努力や、国連軍縮委員会などを通じる通常兵器削減交渉の促進を強く期待したい。

(2013.4.26.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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憲法9条の改正に賛成する (全編)

2013-07-25 | Weblog

憲法9条の改正に賛成する (全編)

 日本国憲法は、第9条において、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その目的を達成するため、陸海空軍他の戦力を保持しないとするなど、崇高な理想を掲げている。

 1、憲法9条と現実の乖離

 しかしこの憲法の理想に反し、現実は2つの面で大きく乖離している。

 (1)  一つは、国際情勢、特に北東アジア情勢の緊迫化である。

 昨年北朝鮮の金正日政権を世襲した金正恩第一書記が、軍事を最優先する先軍主義を継承し、2012年12月には長距離ミサイルの発射実験を実施し、2013年2月に第3回目の地下核実験を実施した。更に国連安保理は、3月にこれら一連の北朝鮮の行動を安保理決議違反として制裁を強化した。このような中で北朝鮮は、米韓合同軍事演習が従来通り実施されたことにも反発し、南北朝鮮相互不可侵などを定めた基本合意書(1992年発効)を破棄し、次いで南北休戦協定を破棄すると共に、韓国や米国等を攻撃する意図を表明するなど挑発の度を強めている。

 また中国との関係においては、2012年9月に石原都知事(当時)が購入を模索していた尖閣諸島を国有化したことに反発し、中国が同諸島の領有権への主張を強め、同海域での活動を強化し、1月30日には中国艦船による海上自衛隊艦船へのレーダー照射(ロックオン)、4月23日には8隻にも及ぶ中国の海洋調査船などが同諸島領海に侵入するなど、緊張が高まっている。

  北東アジア情勢は、憲法が希求するとしている「正義と秩序を基調とする国際平和」から程遠い状況である。

 (2)  もう一つは、自衛隊の現状は明らかに戦力であるが、それは自衛目的と法律の範

囲内における国際協力に限定される。また交戦権が制限されているため、自衛活動の程度や範囲が必ずしも明らかでない上、集団的安全保障や地域的な軍事同盟への参加についても制約がある。

 従って、憲法第9条は改正されるべき時期に来ている。その他の条項については、手を付ければ論点が拡大し収斂に時間を要すると思われるので、9条改正を優先すべきであろう。

 しかし9条だけを取っても、国家のあり方や国家、国民の安全保障の基盤に係わるものであるので、広く国民の同意が不可欠であろう。

 2、憲法改正発議(国会の3分の2の多数)は緩和すべきか 

 現在憲法改正は、国会の各院総員の3分の2の多数で発議し、有権者の過半数の賛成が必要としている(第96条)。改正発議に国会の3分の2の多数が必要であり、これが憲法改正を困難にしているとして、与党や維新の会がこれを国会の過半数による発議とすため、96条改正案が検討されている。

 9条を含め憲法改正は、国家のあり方や国民の基本的な権利義務に直結する重要な事項である。本来であれば消極的賛成を含め、国民の8、9割以上の支持があることが望ましい。その改正について国会の過半数による発議とし、有権者の過半数の承認をもって改正できることに要件を緩和すると、場合により51対49という僅差で憲法が改正されることになるが、結果として国論を真っ二つに分断し、逆に国家運営を極めて不安定にする恐れがある。

 憲法は、国家、国民全体への影響を考慮し、その改正には国会の3分の2の多数による発議を要件とし、国論が真っ二つに分裂しないように主要政党間の協議、調整を通じての歩み寄りを促しているのであろう。少なくても改正の支持者が明確な多数を占めるよう、国会乃至有権者の65%以上の賛成があることが望ましい。51対49で憲法を改正し、例えば国民の義務として徴兵制に応じよと言っても国民の間で動揺や反発が広がる可能性があり、これが国民間の対立や分裂に発展する恐れもある。とすると3分の2の多数ということは過度なものではない。

 従って、もし国会の発議を過半数にするのであれば、国民の投票では65%以上(又は3分の2)の賛成とすべきであろう。96条改正については、国民の熟慮が求められる。

  3、より低い軍事レベルでの安全保障に向けての国際的取り組みの必要性

 上記の通り、北東アジア情勢は緊張の度を強めており、中国では近年10%を越える継続的な軍備拡張と海洋への進出、北朝鮮では核兵器、ミサイル開発の促進が進んでいる。これに対して朝鮮半島における米・韓両国のミサイル防衛などの強化、及び日本の防衛体制の強化が行われている。これは現実的な安全保障上の措置として不可欠であり、効果的な対応を怠ってはならない。

 しかしこのような現実的な対応は、軍備の拡張に次ぐ拡張を招き、破壊力は増え続け、万一紛争が起これば当事国の死傷者や被害は拡大することになり、安全保障上の措置が逆に当事国の国民の生命、財産への被害拡大をもたらすことになる。

 現実論としての安全保障措置は不可欠であるが、他方でより低い軍事レベルでの安全保障への努力や当事国間での偶発戦争の防止や信頼醸成措置に向けての努力も必要であろう。

 北朝鮮等の核・ミサイル開発阻止と共に、核拡散防止条約(NPT)6条に基づく、核兵器国の核軍縮に向けての誠実な努力や、国連軍縮委員会などを通じる通常兵器削減交渉の促進を強く期待したい。

(2013.4.26.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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憲法9条の改正に賛成する (全編)

2013-07-25 | Weblog

憲法9条の改正に賛成する (全編)

 日本国憲法は、第9条において、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その目的を達成するため、陸海空軍他の戦力を保持しないとするなど、崇高な理想を掲げている。

 1、憲法9条と現実の乖離

 しかしこの憲法の理想に反し、現実は2つの面で大きく乖離している。

 (1)  一つは、国際情勢、特に北東アジア情勢の緊迫化である。

 昨年北朝鮮の金正日政権を世襲した金正恩第一書記が、軍事を最優先する先軍主義を継承し、2012年12月には長距離ミサイルの発射実験を実施し、2013年2月に第3回目の地下核実験を実施した。更に国連安保理は、3月にこれら一連の北朝鮮の行動を安保理決議違反として制裁を強化した。このような中で北朝鮮は、米韓合同軍事演習が従来通り実施されたことにも反発し、南北朝鮮相互不可侵などを定めた基本合意書(1992年発効)を破棄し、次いで南北休戦協定を破棄すると共に、韓国や米国等を攻撃する意図を表明するなど挑発の度を強めている。

 また中国との関係においては、2012年9月に石原都知事(当時)が購入を模索していた尖閣諸島を国有化したことに反発し、中国が同諸島の領有権への主張を強め、同海域での活動を強化し、1月30日には中国艦船による海上自衛隊艦船へのレーダー照射(ロックオン)、4月23日には8隻にも及ぶ中国の海洋調査船などが同諸島領海に侵入するなど、緊張が高まっている。

  北東アジア情勢は、憲法が希求するとしている「正義と秩序を基調とする国際平和」から程遠い状況である。

 (2)  もう一つは、自衛隊の現状は明らかに戦力であるが、それは自衛目的と法律の範

囲内における国際協力に限定される。また交戦権が制限されているため、自衛活動の程度や範囲が必ずしも明らかでない上、集団的安全保障や地域的な軍事同盟への参加についても制約がある。

 従って、憲法第9条は改正されるべき時期に来ている。その他の条項については、手を付ければ論点が拡大し収斂に時間を要すると思われるので、9条改正を優先すべきであろう。

 しかし9条だけを取っても、国家のあり方や国家、国民の安全保障の基盤に係わるものであるので、広く国民の同意が不可欠であろう。

 2、憲法改正発議(国会の3分の2の多数)は緩和すべきか 

 現在憲法改正は、国会の各院総員の3分の2の多数で発議し、有権者の過半数の賛成が必要としている(第96条)。改正発議に国会の3分の2の多数が必要であり、これが憲法改正を困難にしているとして、与党や維新の会がこれを国会の過半数による発議とすため、96条改正案が検討されている。

 9条を含め憲法改正は、国家のあり方や国民の基本的な権利義務に直結する重要な事項である。本来であれば消極的賛成を含め、国民の8、9割以上の支持があることが望ましい。その改正について国会の過半数による発議とし、有権者の過半数の承認をもって改正できることに要件を緩和すると、場合により51対49という僅差で憲法が改正されることになるが、結果として国論を真っ二つに分断し、逆に国家運営を極めて不安定にする恐れがある。

 憲法は、国家、国民全体への影響を考慮し、その改正には国会の3分の2の多数による発議を要件とし、国論が真っ二つに分裂しないように主要政党間の協議、調整を通じての歩み寄りを促しているのであろう。少なくても改正の支持者が明確な多数を占めるよう、国会乃至有権者の65%以上の賛成があることが望ましい。51対49で憲法を改正し、例えば国民の義務として徴兵制に応じよと言っても国民の間で動揺や反発が広がる可能性があり、これが国民間の対立や分裂に発展する恐れもある。とすると3分の2の多数ということは過度なものではない。

 従って、もし国会の発議を過半数にするのであれば、国民の投票では65%以上(又は3分の2)の賛成とすべきであろう。96条改正については、国民の熟慮が求められる。

  3、より低い軍事レベルでの安全保障に向けての国際的取り組みの必要性

 上記の通り、北東アジア情勢は緊張の度を強めており、中国では近年10%を越える継続的な軍備拡張と海洋への進出、北朝鮮では核兵器、ミサイル開発の促進が進んでいる。これに対して朝鮮半島における米・韓両国のミサイル防衛などの強化、及び日本の防衛体制の強化が行われている。これは現実的な安全保障上の措置として不可欠であり、効果的な対応を怠ってはならない。

 しかしこのような現実的な対応は、軍備の拡張に次ぐ拡張を招き、破壊力は増え続け、万一紛争が起これば当事国の死傷者や被害は拡大することになり、安全保障上の措置が逆に当事国の国民の生命、財産への被害拡大をもたらすことになる。

 現実論としての安全保障措置は不可欠であるが、他方でより低い軍事レベルでの安全保障への努力や当事国間での偶発戦争の防止や信頼醸成措置に向けての努力も必要であろう。

 北朝鮮等の核・ミサイル開発阻止と共に、核拡散防止条約(NPT)6条に基づく、核兵器国の核軍縮に向けての誠実な努力や、国連軍縮委員会などを通じる通常兵器削減交渉の促進を強く期待したい。

(2013.4.26.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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憲法9条の改正に賛成する (全編)

2013-07-25 | Weblog

憲法9条の改正に賛成する (全編)

 日本国憲法は、第9条において、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その目的を達成するため、陸海空軍他の戦力を保持しないとするなど、崇高な理想を掲げている。

 1、憲法9条と現実の乖離

 しかしこの憲法の理想に反し、現実は2つの面で大きく乖離している。

 (1)  一つは、国際情勢、特に北東アジア情勢の緊迫化である。

 昨年北朝鮮の金正日政権を世襲した金正恩第一書記が、軍事を最優先する先軍主義を継承し、2012年12月には長距離ミサイルの発射実験を実施し、2013年2月に第3回目の地下核実験を実施した。更に国連安保理は、3月にこれら一連の北朝鮮の行動を安保理決議違反として制裁を強化した。このような中で北朝鮮は、米韓合同軍事演習が従来通り実施されたことにも反発し、南北朝鮮相互不可侵などを定めた基本合意書(1992年発効)を破棄し、次いで南北休戦協定を破棄すると共に、韓国や米国等を攻撃する意図を表明するなど挑発の度を強めている。

 また中国との関係においては、2012年9月に石原都知事(当時)が購入を模索していた尖閣諸島を国有化したことに反発し、中国が同諸島の領有権への主張を強め、同海域での活動を強化し、1月30日には中国艦船による海上自衛隊艦船へのレーダー照射(ロックオン)、4月23日には8隻にも及ぶ中国の海洋調査船などが同諸島領海に侵入するなど、緊張が高まっている。

  北東アジア情勢は、憲法が希求するとしている「正義と秩序を基調とする国際平和」から程遠い状況である。

 (2)  もう一つは、自衛隊の現状は明らかに戦力であるが、それは自衛目的と法律の範

囲内における国際協力に限定される。また交戦権が制限されているため、自衛活動の程度や範囲が必ずしも明らかでない上、集団的安全保障や地域的な軍事同盟への参加についても制約がある。

 従って、憲法第9条は改正されるべき時期に来ている。その他の条項については、手を付ければ論点が拡大し収斂に時間を要すると思われるので、9条改正を優先すべきであろう。

 しかし9条だけを取っても、国家のあり方や国家、国民の安全保障の基盤に係わるものであるので、広く国民の同意が不可欠であろう。

 2、憲法改正発議(国会の3分の2の多数)は緩和すべきか 

 現在憲法改正は、国会の各院総員の3分の2の多数で発議し、有権者の過半数の賛成が必要としている(第96条)。改正発議に国会の3分の2の多数が必要であり、これが憲法改正を困難にしているとして、与党や維新の会がこれを国会の過半数による発議とすため、96条改正案が検討されている。

 9条を含め憲法改正は、国家のあり方や国民の基本的な権利義務に直結する重要な事項である。本来であれば消極的賛成を含め、国民の8、9割以上の支持があることが望ましい。その改正について国会の過半数による発議とし、有権者の過半数の承認をもって改正できることに要件を緩和すると、場合により51対49という僅差で憲法が改正されることになるが、結果として国論を真っ二つに分断し、逆に国家運営を極めて不安定にする恐れがある。

 憲法は、国家、国民全体への影響を考慮し、その改正には国会の3分の2の多数による発議を要件とし、国論が真っ二つに分裂しないように主要政党間の協議、調整を通じての歩み寄りを促しているのであろう。少なくても改正の支持者が明確な多数を占めるよう、国会乃至有権者の65%以上の賛成があることが望ましい。51対49で憲法を改正し、例えば国民の義務として徴兵制に応じよと言っても国民の間で動揺や反発が広がる可能性があり、これが国民間の対立や分裂に発展する恐れもある。とすると3分の2の多数ということは過度なものではない。

 従って、もし国会の発議を過半数にするのであれば、国民の投票では65%以上(又は3分の2)の賛成とすべきであろう。96条改正については、国民の熟慮が求められる。

  3、より低い軍事レベルでの安全保障に向けての国際的取り組みの必要性

 上記の通り、北東アジア情勢は緊張の度を強めており、中国では近年10%を越える継続的な軍備拡張と海洋への進出、北朝鮮では核兵器、ミサイル開発の促進が進んでいる。これに対して朝鮮半島における米・韓両国のミサイル防衛などの強化、及び日本の防衛体制の強化が行われている。これは現実的な安全保障上の措置として不可欠であり、効果的な対応を怠ってはならない。

 しかしこのような現実的な対応は、軍備の拡張に次ぐ拡張を招き、破壊力は増え続け、万一紛争が起これば当事国の死傷者や被害は拡大することになり、安全保障上の措置が逆に当事国の国民の生命、財産への被害拡大をもたらすことになる。

 現実論としての安全保障措置は不可欠であるが、他方でより低い軍事レベルでの安全保障への努力や当事国間での偶発戦争の防止や信頼醸成措置に向けての努力も必要であろう。

 北朝鮮等の核・ミサイル開発阻止と共に、核拡散防止条約(NPT)6条に基づく、核兵器国の核軍縮に向けての誠実な努力や、国連軍縮委員会などを通じる通常兵器削減交渉の促進を強く期待したい。

(2013.4.26.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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憲法9条の改正に賛成する (全編)

2013-07-25 | Weblog

憲法9条の改正に賛成する (全編)

 日本国憲法は、第9条において、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、その目的を達成するため、陸海空軍他の戦力を保持しないとするなど、崇高な理想を掲げている。

 1、憲法9条と現実の乖離

 しかしこの憲法の理想に反し、現実は2つの面で大きく乖離している。

 (1)  一つは、国際情勢、特に北東アジア情勢の緊迫化である。

 昨年北朝鮮の金正日政権を世襲した金正恩第一書記が、軍事を最優先する先軍主義を継承し、2012年12月には長距離ミサイルの発射実験を実施し、2013年2月に第3回目の地下核実験を実施した。更に国連安保理は、3月にこれら一連の北朝鮮の行動を安保理決議違反として制裁を強化した。このような中で北朝鮮は、米韓合同軍事演習が従来通り実施されたことにも反発し、南北朝鮮相互不可侵などを定めた基本合意書(1992年発効)を破棄し、次いで南北休戦協定を破棄すると共に、韓国や米国等を攻撃する意図を表明するなど挑発の度を強めている。

 また中国との関係においては、2012年9月に石原都知事(当時)が購入を模索していた尖閣諸島を国有化したことに反発し、中国が同諸島の領有権への主張を強め、同海域での活動を強化し、1月30日には中国艦船による海上自衛隊艦船へのレーダー照射(ロックオン)、4月23日には8隻にも及ぶ中国の海洋調査船などが同諸島領海に侵入するなど、緊張が高まっている。

  北東アジア情勢は、憲法が希求するとしている「正義と秩序を基調とする国際平和」から程遠い状況である。

 (2)  もう一つは、自衛隊の現状は明らかに戦力であるが、それは自衛目的と法律の範

囲内における国際協力に限定される。また交戦権が制限されているため、自衛活動の程度や範囲が必ずしも明らかでない上、集団的安全保障や地域的な軍事同盟への参加についても制約がある。

 従って、憲法第9条は改正されるべき時期に来ている。その他の条項については、手を付ければ論点が拡大し収斂に時間を要すると思われるので、9条改正を優先すべきであろう。

 しかし9条だけを取っても、国家のあり方や国家、国民の安全保障の基盤に係わるものであるので、広く国民の同意が不可欠であろう。

 2、憲法改正発議(国会の3分の2の多数)は緩和すべきか 

 現在憲法改正は、国会の各院総員の3分の2の多数で発議し、有権者の過半数の賛成が必要としている(第96条)。改正発議に国会の3分の2の多数が必要であり、これが憲法改正を困難にしているとして、与党や維新の会がこれを国会の過半数による発議とすため、96条改正案が検討されている。

 9条を含め憲法改正は、国家のあり方や国民の基本的な権利義務に直結する重要な事項である。本来であれば消極的賛成を含め、国民の8、9割以上の支持があることが望ましい。その改正について国会の過半数による発議とし、有権者の過半数の承認をもって改正できることに要件を緩和すると、場合により51対49という僅差で憲法が改正されることになるが、結果として国論を真っ二つに分断し、逆に国家運営を極めて不安定にする恐れがある。

 憲法は、国家、国民全体への影響を考慮し、その改正には国会の3分の2の多数による発議を要件とし、国論が真っ二つに分裂しないように主要政党間の協議、調整を通じての歩み寄りを促しているのであろう。少なくても改正の支持者が明確な多数を占めるよう、国会乃至有権者の65%以上の賛成があることが望ましい。51対49で憲法を改正し、例えば国民の義務として徴兵制に応じよと言っても国民の間で動揺や反発が広がる可能性があり、これが国民間の対立や分裂に発展する恐れもある。とすると3分の2の多数ということは過度なものではない。

 従って、もし国会の発議を過半数にするのであれば、国民の投票では65%以上(又は3分の2)の賛成とすべきであろう。96条改正については、国民の熟慮が求められる。

  3、より低い軍事レベルでの安全保障に向けての国際的取り組みの必要性

 上記の通り、北東アジア情勢は緊張の度を強めており、中国では近年10%を越える継続的な軍備拡張と海洋への進出、北朝鮮では核兵器、ミサイル開発の促進が進んでいる。これに対して朝鮮半島における米・韓両国のミサイル防衛などの強化、及び日本の防衛体制の強化が行われている。これは現実的な安全保障上の措置として不可欠であり、効果的な対応を怠ってはならない。

 しかしこのような現実的な対応は、軍備の拡張に次ぐ拡張を招き、破壊力は増え続け、万一紛争が起これば当事国の死傷者や被害は拡大することになり、安全保障上の措置が逆に当事国の国民の生命、財産への被害拡大をもたらすことになる。

 現実論としての安全保障措置は不可欠であるが、他方でより低い軍事レベルでの安全保障への努力や当事国間での偶発戦争の防止や信頼醸成措置に向けての努力も必要であろう。

 北朝鮮等の核・ミサイル開発阻止と共に、核拡散防止条約(NPT)6条に基づく、核兵器国の核軍縮に向けての誠実な努力や、国連軍縮委員会などを通じる通常兵器削減交渉の促進を強く期待したい。

(2013.4.26.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-24 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

2013-07-24 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切  (再掲)

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

 昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

 雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

 このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

 1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

 3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

 (1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

 現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。

  終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

 (2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

 正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

 平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

 このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

 「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

 2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

 (2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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