内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

地球環境保護、日本の真価が問われる (再掲)

2021-10-27 | Weblog

地球環境保護、日本の真価が問われる (再掲)

‎ 10月26日開催された臨時国会において、菅義偉首相は就任後初めての所信表明を行い、「温室効果ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにする」との目標を表明した。 そして「グリーン社会の実現」を成長戦略の柱と位置付けた。‎

 「温室効果ガス排出量の2050年までの実質ゼロ」目標は、前政権当時の「50年までに80%削減」を一歩進めたもので、管政権の温室効果ガス削減の促進を期待したい。

 しかし、その目標は30年も先のものである上、EUな主要各国が2030年までの目標を設定しており、これに比して削減速度が遅い。

 1、温室効果ガス実質ゼロ目標に向け2030年、2040年の中間目標設定が必要

(1)不可欠な温室効果ガス削減と激甚化する気候変動への対応

‎ 地球温暖化により、北極圏の氷海や南極を覆う氷原・氷河、ヒマラヤやアルプスなどの氷河が融け、海温と共に大気温が上がり、大量の水蒸気を空中に巻き上げ、地球温暖化が進み、世界各地で今までにはないような荒々しい気候変動に見舞われている。 更にこのまま温暖化が進み臨界点に達すれば、止めることの出来ない極限的な激しい気候に見舞われる恐れがある。 これは理論でも学説でもなく、現実に体験している現実なのである。‎

 それを止めるためには、産業革命以来増え続けている温室効果ガスを削減し、地球温暖化を止めなくてはならない。

‎ 30年先は長すぎる。 加速努力が必要のようだ。 地球が壊れてからでは遅い。‎

 (2)具体的な中間目標設定とそれぞれの指針が不可欠

‎ 温暖化効果ガスについては、世界の主要国が2030年までの削減目標を設定している。 EUは40%削減(1990年比)、インド33~35%削減(GDP当たりのCo2排出、2005年比)、中国60~65%削減(同、2005年比)と具体的な目標を設定している。 特にEUは1990年比での削減目標であり、今日に比べて炭酸ガスなどの排出量の少ない時代との比較であり、問題意識の高さを示している。 中国についても目標達成を期待したい。‎

‎ これに対し日本は、これまで2030年までの削減目標を26%としており、その上2013年比と問題が深刻化し始めてからの基準で、基準年自体を甘くしており、2005年比では25.4%削減となる。 この目標も断念されている。 因みに、米国はオバマ政権時代に2025年までに26~28%削減(2005年比)として行政府の目標を設定しており、バイデン候補が新大統領となり民主党政権となれば、このラインで推進されるであろう。 またロシアは同年までに70~75%抑制(25~30%削減、1990年比)としている。‎

 日本は2050年までの実質ゼロが表明され、その実現に期待したいが、2030年、2040年の中間目標が具体的に示されると共に、どの分野でどのように進めるかの指針が示されることが期待される。

 2、福島原発解体処理による放射能汚染水の海洋放流は望ましくない

‎ 2011年3月に発生した東北大地震の津波により炉心融解を含む爆発事故を起こした福島原発の解体処理が長期化する中、放射能汚染水が貯水槽に大量に貯蔵され、限界を迎えていることから、その放出が検討されている。 放射能はほぼ取り除かれ、濃度の薄いトリウム残っているものの放射線レベルは低いので、海洋への放水が検討されている。 放射能は「飲んでも健康に影響はない」とされているが、福島の漁業関係者は風評被害などを懸念し、海洋投棄反対を表明している。‎

‎ これに対し行政当局は、賠償等を検討するなどとしているが、この問題は賠償や風評被害だけの問題ではない。 国際的信頼、国家としての信用の問題となろう。‎

‎ 日本は、国際環境グループに毎年のように「化石賞」を受けている。 発電等に石炭、石油などの化石燃料が使われているからだ。 失礼な話ではあるが、不名誉なことだ。 韓国が、福島産の野菜や魚類を放射能汚染の恐れありとの風評を流し続けたが、今回は国全体に関わることになる。‎

 もしこの放射線汚染水が処理をされ「飲んでも大丈夫」なレベルとなっているのであれば、日本国内で処理できるし、そうすべきであろう。

‎ 確かに海洋は広い。 だから海洋投棄も良いということにはならない。 領海内でも海は続いており外洋に広がる。 現在、海洋のプラステイックごみの問題が深刻化している。 世界中で投棄されてきたプラステイックごみは、毎年増えると共に、風化し微粒子化し世界の海洋を漂い、海底に蓄積し続けており、それを魚類が食べ、人間の口にも入るようになる。 十分希釈されたとしても放射線汚染水が放流され、これが世界で常態化する恐れもあり、その悪影響は計り知れない。‎

‎ 放射線汚染水の処分は、日本国内で行うことを前提として真剣に検討されるべきであろう。 例えば、国立公園内の人里離れた場所や硫黄島などの離島に貯水池を作り、適正に管理するなどを検討してはどうだろうか。 それが国家としての責任ではなかろうか。 (2020. 11. 4. )‎

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首都東京、生かされていない東日本大震災の教訓!

2021-10-27 | Weblog

首都東京、生かされていない東日本大震災の教訓!

 2021年3月11日、東日本大地震・津波災害から10年を迎えた。東京電力福島原発事故への対応を含め、政府関連予算は2020年度までの10年間で約38兆円にのぼり、また日本各地からの応援や寄付等を受け、地元の人々により懸命に復興活動がなされた結果、地区差があるものの、復興はかなりの進展を見せている。地元の方々や支援活動をされた各方面の方々のご苦労に心から感謝し、称えたい。またこの災害により、命を失った方15,899人、行方不明者2,528人となっており、心からのご冥福と行方不明者が1日も早く家族の元に返ることをお祈りしたい。

 復興は進んでいるものの、10年経っても42,685人が避難者にのぼり、当時の巨大地震と津波、そして福島原発の炉心メルトダウンなどの状況を振り返ると、改めてその被害の甚大さを痛感する。

 政府の関連行事やメデイアの報道は、どうしても追悼と被災地の復興活動の継続に焦点が当てられる。しかし大震災は、東日本だけでなく、関東でも首都直下地震や東海、近畿、四国地方では南海トラフ地震による被害が今後30年前後に発生する可能性が高いと伝えられている。日本列島を巻き込む大災害は、その他火山の噴火や異常気象による大洪水などの恐れがあるので、東日本の復興継続と共に、その他の地域、特に諸機能が集中し、人口密度の高い首都東京の震災への備えがこれで良いのかに注目しなくてはならない。

 1、教訓が未だ活かされていない首都東京

 東京を中心とする首都圏については、東日本大地震の教訓を受けて、道路・歩道の渋滞、帰宅難民などへの対策として、一時避難所や備蓄、耐震補強のほか、緊急対応のための道路規制、ハザード・マップの作成など、一定の対応が行われている。しかしこれらの措置は、多くの努力を要しているものの、東日本大地震規模の巨大災害にはほとんど無力とも予想される。

 東京には、1,300万の人々が生活し、近隣から数百万の人々が東京に往来している。また日本経済の中枢部門をはじめ、学校、文化・スポーツなど多くの民間機能が集中している。更に、国会、裁判所の中枢機能に加え、緊急時には東京都などと共にその対応に当たるべき全ての中央官庁が集中している。また国民統合の象徴として皇居があり、その安全を確保しなくてはならない。

 大災害が発生した際には、行政はこれら全ての安全を確保するために膨大な救援、救出活動を集中的、同時並行的にしなくてはならない。シュミレーションなどするまでもなく、とても手が回らないと予想される。何かを守り、何かを座視するしかない。相手は、「経験したことがない大災害」であるので、旧来の常識や既成概念では対応し切れないことを、福島原発事故を含む東日本大災害から学ぶべきであろう。

 政府による『東京一極集中解消』2020年目標は断念された。ある意味で東日本大地震の教訓の風化の象徴とも言えないだろうか。

 2、政府委員会が大規模災害に警鐘

 2014年、政府の地震調査委員会は首都直下地震が「今後30年で70%」との予測を公表している。その後この予測は繰り返し述べられる毎に発生確率は高くなっており、首都直下地震はもはや過去のものや遠い将来のものではなく、今生活している国民の生涯において起こりうる現実となっていることを示している。

 首都圏を中心としたマグニチュード7相当以上の過去の地震は、1703年の「元禄関東地震」(M8.28)と1923年の「関東大震災(大正関東地震)」(M7.9)を挟んで次のように発生している。

1703年12月   「元禄関東地震」(M8.28)

1855年11月 安政江戸地震      (M6.9)

1894年 6月 明治東京地震       (M7.0)

同年10月   東京湾付近の地震   (M6.7)

1895年 1 月茨城県南部の地震   (M7.2)

1921年12月茨城県南部の地震   (M7.0)

1922年 4月 浦賀水道付近の地震(M6.8)

1923年9月  「関東大震災」  (M7.9)

  関東地方は、東西に太平洋プレートとユーラシア・プレート、これを挟んで南北に北米大陸プレートとフィリピン海プレートがあり、元禄関東地震と関東大震災はフィリピン海プレートの境目の相模トラフで発生した大地震とされている。首都圏に関係する地震、津波の誘因としては、この他に東日本大震災に関係する日本海溝や東海地方から四国沖に伸びる南海トラフなどがある。

 関東、東海地方については火山爆発も注意を要する。

 3、政府組織・制度においてシンボリックな抜本的措置が必要

 民間組織・団体や東京都及び市区町村において、それぞれ対策を検討し備えることは不可欠であろう。それは誰のためでも無い、自分達や家族、関係者の安全、安寧のためだ。

 しかし東日本大震災レベルの直下地震等が首都圏で発生し、大型津波が発生すると、1995年1月の阪神・淡路地震を上回る被害、混乱が起こるものと予想されている。2011年3月の東日本大地震の際にも首都圏で震度6を超える揺れを経験したが、道路は車道、歩道共に渋滞し、公共交通は止まり、電話・携帯による通信は繋がらず、多数の帰宅難民が発生し、その状況は翌朝まで続いた。電気、ガス、水道などのライフラインが被害を受けていれば被害は更に拡大し、回復には更に時間を要することになる。

 最大の問題はライフラインの確保であるが、大災害に対応し、司令塔となるべき中央官庁の機能をどの程度確保出来るかである。物理的被害は予想もつかないが、災害が深夜や早朝、祝祭日に発生した場合、必要な人的資源の確保は困難で時間を要することになっても仕方が無いであろう。‘経験したことがない大災害’に遭遇し、‘経験したことがない混乱等’が起こったとしても、自然のなせること、誰も責めることは出来ない。それぞれの立場で被害に備え、耐え、命を守る努力が求められるであろう。それも相当期間に及ぶ可能性がある。

 (1)そうなると危険の分散を図ることが最も効果的となる。政府はこれまで幾度となく、東京一極集中を避けるため、中央省庁や大学の地方移転を試みてきたが、部分的な専門部局の分散に留まり、一極集中解消にはほど遠い。

 米国の他、ブラジルや豪州などのように、政治・行政機能を密集地域から切り離し、新たに政治・行政都市を造ることも考えられるが、日本にはそれにふさわしい安全な地域を確保することは難しそうだ。しかし1つの有効な選択肢ではある。

 もう1つの選択肢としては、日本独特の国民統合の象徴機能である皇居を宮内庁と共に京都など近畿地方に戻すことであろうか。天皇の象徴機能については憲法に明記され定着しており、皇居を移転しても機能自体に何ら影響しない一方、ご公務については憲法上国会の召集など10項目に限定されているので、移転は相対的に容易と見られる。更に、京都等に戻ることは歴史的に理解されやすく、また地方に新たな息吹をもたらし、地方活性化にも繋がる可能性がある。

 憲法上公務とされる10の業務については、現在では交通・運輸、通信が飛躍的に便利になっており、国会召集時など限られた折りに東京に行幸されることは可能であろう。宿泊が必要な場合には、年数回しか使用されていない迎賓館(赤坂離宮)に所要の宿泊施設をご用意するなど、対応は可能のようだ。また外国使節(各国大使等)の接受等については、京都の御所にて行うこととすれば、京都や近畿地方の歴史や文化等を外国使節に紹介する機会ともなろう。

 また考えたくはないが、もし将来首都圏がミサイル等で攻撃されると、政治・行政機能と象徴機能が同時に被害を受ける恐れがあるので、これを分離しておくことが安全保障上も意味があろう。

 無論どの選択肢にしても、現状を変更することには困難があろう。しかし、政府地震調査委員会が東京直下地震など経験したことがない大災害が現実に起こりうると考えているのであれば、これまでのような対応では不十分と見られるので、これまで実施されたこともないような措置を本気で検討、実施する必要があるのではないだろうか。

 (2)江戸城趾の活用方法については、城趾内の「江戸の自然」の保護を図りつつ、可能な範囲で復元を行い、歴史観光施設として整備し、また一部を国民の憩いの場として開放すると共に、大災害時や緊急時の避難場所となるよう整備するなどが考えられよう。特に江戸城趾には四方に門があるので、災害時、緊急時には門を開放し、四方から城趾内に避難が出来る。また緊急車両が災害時、緊急時に通行できるよう、城趾内の通路等を整備しておけば、渋滞が予想される一般道を通らずに迅速に移動できるなど、災害時、緊急時への活用も期待できる。

(2021.3.31. All Rights Reserved.)

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コロナウイルス感染縮小、評価するもPCR検査数も削減!

2021-10-27 | Weblog

 コロナウイルス感染縮小、評価するもPCR検査数も削減!

 コロナウイルスの感染者数が東京でも全国規模でも顕著に縮小しており、大変喜ばしい。

 これは6月20日より3か月間緊急事態宣言が継続された結果、各種活動が抑制され、マスク着用などの国民レベルでの感染予防努力があったことと、ワクチン接種の促進によるところが大きい。

 国、地方自治体の関係部局、医療関係者のご努力に感謝すると共に、国民の皆様、飲食・観光関係者のご努力や我慢等に対し心から敬意を表したい。

  1、PCR検査数が減れば新規感染者の数も減る

 他方、コロナウイルス感染が縮小し、感染率も大幅に低下しているが、9月に入りPCR検査の数も大幅に減少している。PCR検査の数は、曜日によって異なるが、東京都では8月中・下旬の1日当たりの平均的検査数が1万5千人から1万6千人前後であったのに対し、10月初旬から中旬には6千人から7千人前後と1/3以下に削減されている。

 全国規模では、更に顕著で、8月中・下旬には14~15万人前後であったが、10月初旬から中旬には5万人から6万人前後とほぼ1/3に激減している。

  2、 8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は約3倍!

 感染率が減れば検査対象者が減り、検査数が減るのは道理だが、大まかに言って8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は公表されている数の約3倍となる。10月9日の東京都の新規感染者は89人と公表され100人を切ったと言われているが、単純計算ではあるが、8月レベルの検査が行われていれば267人と3桁となる。全国レベルでは774人と1,000人を切ったが、8月レベルの検査が行われていれば2,322人と2,000人を上回ることになる。

 政府当局が政府の政策に有利な情報や数値を公表する場合がある。今回は、国民の健康と命にかかわることであり、統計数値の操作は国民や関係活動に影響を与えるだけに、そのようなことがないことを期待したい。しかし現在公表されている数値については、8月との比較では、その約3倍前後と考えた方が良さそうだ。自分自身や家族等の健康と命にかかわる問題であるので、油断は禁物だ。

 現在でもコロナウイルスで自宅療養している方や病院には入れない調整中が多数おり、また無症状や軽症者も多数存在し、自由に外出し、旅行もしている。コロナウイルスが無くなったわけではない。また多くの人が後遺症に苦しんでいることを忘れてはいけないだろう。後遺症に対しても救済が必要だ。

 このような中で、旅行代理店や観光関連団体がGo To トラベル再開への促進活動を活発に行っており、支持する向きもある。関係業者のご苦労は十分に理解出来るところであり、現在検証実験的に試行されているが、観光客を含め国民の健康と命にかかわることであるので、慎重な対応が望まれる。2020年7月の拙速を繰り返してはならない。多くの国民は旅行や飲食を渇望しているので、現在は、旅行や飲食を一定の条件で解禁さえすれば十分だろう。行うなら、まず各自治体内で判断して行うことが望ましい。

 また、このような感染力の強い国際的な感染症(パンデミック)については、関係分野毎に一定の予防措置を執ることを義務付けた上で営業を許可し、感染者が出たら1か月前後の営業停止を求め、消毒や予防措置の改善を図ることにするのも、各分野の自主的努力を促進し、賛同も得やすく効果的であろう。(2021.10.17.)

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膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

2021-10-27 | Weblog

 膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

 2021年9月1日に公表された法人企業統計(財務省)によると、企業の利益剰余金(内部留保、金融・保険業を除く)は、2020年度末時点で前年度に比べ2.%増の484兆円強となった。増加率は低下したものの、2012年度以来、9年連続で増加し、過去最高を更新している。

 利益剰余金は、総売上額から人件費や原材料費など必要経費を引き、株主への配当金や税金を差し引いたもので、企業が将来の設備投資や事務所拡大など自由に使える。業種により余剰金額は異なり、コロナ禍では、製造業やIT関連企業を中心として業績を伸ばした一方、観光関連業種や対面サービスを行う業種などは大幅減となっている。

 コロナ禍でも利益剰余金を積み上げられる企業が存在することは大変心強いところであり、その努力に敬意を払いたい。

 1、企業の利益剰余金(内部留保)の国民経済への還流が望まれる

 しかしコロナ禍で多くの企業が経営難にあえいでいる中で、日本の国民総生産(GNP)にほぼ匹敵する484兆円強もの利益剰余金を企業が抱え込んでいることが経済全体にとって適切か否かが問われる。

 一部に、内部留保積み上げはコロナ禍で設備投資を手控えたためとされるが、設備投資の手控えはそれだけで民間投資の減少、従ってそれだけ総生産(GNP)を引き下げる結果となっている。

 一定の内部留保は、将来の設備投資と安定した経営基盤を維持する上で必要である。しかし個人の貯蓄同様、好調な時期には積み上げ、停滞期には放出することが必要だろう。コロナ禍で経済停滞する現在、GNPの縮小に繋がる484兆円強にものぼる企業の内部留保のなるべく多くの額を国民経済に還流することが望まれる。

 基本的には平常時において、賃金や契約社員等への報酬、役員報酬、及び株式配当金への分配をもう少し引き上げる努力が望まれるが、今回のような緊急時においても、例えば、契約社員等の雇い止めを極力回避すると共に、報酬・賃金の引き上げ、株式配当の増加、社員研修の強化、研究開発の促進や関連下請け企業製品の価格引き上げなどの他、企業内での感染防止措置の拡充、授業員家庭支援など、企業にとっては負担となるが、内部留保を経済に還流し、経済全体の底上げ努力が望まれる。

 2、「異次元」の金融緩和は家計所得や消費増には繋がらなかった

 企業の内部留保は、阿倍自・公政権が2013年1月に発足し、「異次元」の金融緩和が開始された頃より顕著に増加している。「異次元」の金融緩和により、輸出産業や観光関連産業など一部の産業が業績を伸ばしたことを背景として、株価が上昇したため、多くの企業は株式評価益等が出たことにより、利益剰余金を積み上げて行ったと見られる。他方、このような局部的な産業の好調と内部留保の積み上げとは裏腹に、実質家計所得は減少しており、消費は低迷した。日銀は、「異次元」の金融緩和とマイナス金利を長期に継続しているが、産業への局部的効果はあるが、家計所得や個人消費の増加には繋がっていないことが明らかになった。金融政策依存の限界と言えよう。

 逆に、2008年9月のリーマンショック以来の切れ目のない恒常的な金融緩和策とゼロ金利政策が、2013年1月以来の「異次元」の更なる金融緩和とマイナス金利政策により更に助長され、金融緩和により恩恵を受ける分野とその恩恵がほとんど及ばない分野との間で著しい経済格差を生む結果となっている。

 それに追い打ちを掛けたのが、2020年1月以来の武漢発の新型コロナウイルスの国際的な感染拡大である。これが各国の航空・観光産業や飲食産業、娯楽産業とこれらを支える関連産業を直撃し、人の動きを制限し、経済社会活動を減速させた。その対策として、各国政府は、感染拡大を抑制するための検査やワクチンを含む医療体制の拡充をする一方、職や所得を失った人々などへの財政支出を拡大すると共に、無利子の融資を含む金融支援策を実施したことにより、金融緩和が加速し、経済社会の格差を更に拡大する結果となっている。

 米国のバイデン政権の下で、連邦準備理事会(FRB)が、雇用の維持促進とインフレ率を睨みながら、金利の引き上げを含め、金融緩和の抑制時期を検討しているのは、金融緩和策による副作用を除去し、金融正常化に道を開くためである。

 日本銀行も米国の金融正常化に向けての政策転換を参考にしつつ、金融緩和幅の縮小を通じた株価の沈静化を図っているようだが、それは経済の抑制に繋がる可能性がある。このような中で、企業がそれぞれの企業経営に資する形で内部留保を積極的に活用し、経済に還元することが望まれる。また政策当局としても、企業の巨額の内部留保を景気の局面に応じて誘導することが経済対策に繋がることに注目する必要があろう。(2021.9.6.)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―3) 再掲

2021-10-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―3) 再掲

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、好ましくない。これらの就労者も日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

(1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態 (その1-1に掲載)

(2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠 (その1―2で掲載)

(3) 定年制は各種の弊害を生んでいる

正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になっていると共に、年金財源を圧迫する主要因になっている。

平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。

このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。

「正規就労者」もいずれは定年となるが、職階制を導入すれば、定年以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となっているため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっており、顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などの対応が追いついていないことが明らかになって来ている。

2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2で掲載)

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―2) 再掲

2021-10-25 | Weblog

する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―2) 再掲

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、好ましくない。これらの就労者も日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

(1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態 (その1-1に掲載)

現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

(2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠

 職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。

 現在就労者の35%強を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般雇用」「職階雇用」とすれば足りることであろう。

 無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般雇用」と「職階雇用」に移行させることが望ましい。

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる(その1―3で掲載)

2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2で掲載)

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―1) 再掲

2021-10-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その1―1) 再掲

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、好ましくない。これらの就労者も日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

(1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態

現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。

 職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。

(2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠(その1―2で掲載)

 (3) 定年制は各種の弊害を生んでいる(その1―3で掲載)

2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2で掲載)

 (1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切 (その2―2) 再掲

2021-10-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切 (その2―2) 再掲

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、好ましくない。これらの就労者も日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

(1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態 (その1-1に掲載)

(2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠 (その1―2で掲載)

(3) 定年制は各種の弊害を生んでいる (その1―3で掲載)

2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」 (その2-1で掲載)

(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」

 雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうであり、政権が交代し日本銀行総裁の交代人事が注目されていることなどでも明らかであろう。

 政策レベルの問題以外でも公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。

 2009年9月の戦後初とも言える政党交代による政権交代は、政権運営を経験した人材の不足や未熟さから3年3ヶ月で下野することとなった。しかしそこから多くのことを学んだとも言えよう。当たり前のことではあるが、政権政党が代われば政策や方針、施策が変わるということだ。

 現に民主党政権で政策や重点施策の優先度が可なり変わり、それを国民が期待していたのであるが、行政組織は戸惑った。当然であろう。戦後半世紀以上に亘り政権政党の交代はほとんどなく、行政組織は政権政党の交代に全く慣れていなかった。その上雇用体制は新卒から定年までの終身雇用形態であり、安定的な人事体制であるので、特定政党の下で一貫した政策、手法に慣れており、政策、手法等の変化に戸惑うのは極く自然である。人としての信頼関係を築く暇もなかったし、その余裕もなかった。2012年12月の総選挙で自民、公明連立政権に戻ったが、政策や手法等が変わっていることは明らかだ。それが民意を反映した政府を樹立するという民主主義の目的であろう。

 そして基本的に国民が信任した議員任期の4年後にその成果が問われることになる。国会等での議論、質疑を聞いていると、政権政党の交代により、与党側も与党側も、単に政権政党が一方的に提案、発議し、野党側が唯々反対をするという従来の対決政治ではなく、議論や手法等が丁寧になっており、また世論に一層注意を払い各種の協議、議論を通じ一致点を模索するという協議政治に向かい始めていることは大変喜ばしいことである。与党も野党も等しく国民から選ばれ、4年間の政治を信託された代議員であり、共に国家、国民の利益に奉仕することが期待されている。日本は内外の難局に直面しており、政局志向の対決政治から、国家、国民のために解決策を模索する協議政治に進化すべきであろうし、政権交代のある政治プロセスが多様なニーズを抱える国民の利益、関心を少しずつ実現して行くことになるのであろう。

 そのような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよう閉鎖的、硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべきであろう。また企業、団体も「非正規雇用」形態をなくすためにも職階制を更に採用、普及することが望まれる。

(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その2―1) 再掲

2021-10-25 | Weblog

変容する労働市場―「非正規就労者」の呼称は不適切(その2―1) 再掲

 総務省は、2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。 また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。 

昨年11月中旬頃より、日本の貿易赤字の常態化を反映して過度な円高が是正され、現在1ドル94円前後に是正されたため、輸出産業や関連する中小の裾野産業を中心として若干景気が回復する兆しが見え始めており、当面円高是正が定着すれば景気回復の原動力になろう。しかし景気の振れが予想されるため、「非正規労働者」の割合は今後とも平均30%台で推移するものと予想される。

雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになるが、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制の下では中間的な本採用は困難であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があり、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。

このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。

1、 望まれる職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及

3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、好ましくない。これらの就労者も日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。

 その解決策の1つが職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及である。

(1) 閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態 (その1-1に掲載)

(2)職種・技能を基準とした職階制雇用形態の普及が不可欠 (その1―2で掲載)

(3) 定年制は各種の弊害を生んでいる (その1―3で掲載)

2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 

 地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象としており、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。

 このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わってみたい一定年齢以上の国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。

 従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提とする「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置くことが望ましい。

(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」

 職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。

 日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、感触の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。日本においては旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正において職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。

 

(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)

(職階制の確立)

29  職階制は、法律でこれを定める。

 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、

分類整理しなければならない。

 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に

ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者

に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ

ばならない。

 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。

 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定

による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であて、かつ、

この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧

告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。

(職階制の実施)

30  職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。

 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事

院規則でこれを定める。

(官職の格付)

31  職階制を実施するにあたつては、人事院は、人事院規則の定めるところに

より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。

 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再

審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。

(職階制によらない官職の分類の禁止)

32  一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること

はできない。

 

 昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は国民に開かれた公務を遂行する上でデメリットも多い。

(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」 (その2ー2に掲載)

(2013.3.3.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)

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膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

2021-10-25 | Weblog

 膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

 2021年9月1日に公表された法人企業統計(財務省)によると、企業の利益剰余金(内部留保、金融・保険業を除く)は、2020年度末時点で前年度に比べ2.%増の484兆円強となった。増加率は低下したものの、2012年度以来、9年連続で増加し、過去最高を更新している。

 利益剰余金は、総売上額から人件費や原材料費など必要経費を引き、株主への配当金や税金を差し引いたもので、企業が将来の設備投資や事務所拡大など自由に使える。業種により余剰金額は異なり、コロナ禍では、製造業やIT関連企業を中心として業績を伸ばした一方、観光関連業種や対面サービスを行う業種などは大幅減となっている。

 コロナ禍でも利益剰余金を積み上げられる企業が存在することは大変心強いところであり、その努力に敬意を払いたい。

 1、企業の利益剰余金(内部留保)の国民経済への還流が望まれる

 しかしコロナ禍で多くの企業が経営難にあえいでいる中で、日本の国民総生産(GNP)にほぼ匹敵する484兆円強もの利益剰余金を企業が抱え込んでいることが経済全体にとって適切か否かが問われる。

 一部に、内部留保積み上げはコロナ禍で設備投資を手控えたためとされるが、設備投資の手控えはそれだけで民間投資の減少、従ってそれだけ総生産(GNP)を引き下げる結果となっている。

 一定の内部留保は、将来の設備投資と安定した経営基盤を維持する上で必要である。しかし個人の貯蓄同様、好調な時期には積み上げ、停滞期には放出することが必要だろう。コロナ禍で経済停滞する現在、GNPの縮小に繋がる484兆円強にものぼる企業の内部留保のなるべく多くの額を国民経済に還流することが望まれる。

 基本的には平常時において、賃金や契約社員等への報酬、役員報酬、及び株式配当金への分配をもう少し引き上げる努力が望まれるが、今回のような緊急時においても、例えば、契約社員等の雇い止めを極力回避すると共に、報酬・賃金の引き上げ、株式配当の増加、社員研修の強化、研究開発の促進や関連下請け企業製品の価格引き上げなどの他、企業内での感染防止措置の拡充、授業員家庭支援など、企業にとっては負担となるが、内部留保を経済に還流し、経済全体の底上げ努力が望まれる。

 2、「異次元」の金融緩和は家計所得や消費増には繋がらなかった

 企業の内部留保は、阿倍自・公政権が2013年1月に発足し、「異次元」の金融緩和が開始された頃より顕著に増加している。「異次元」の金融緩和により、輸出産業や観光関連産業など一部の産業が業績を伸ばしたことを背景として、株価が上昇したため、多くの企業は株式評価益等が出たことにより、利益剰余金を積み上げて行ったと見られる。他方、このような局部的な産業の好調と内部留保の積み上げとは裏腹に、実質家計所得は減少しており、消費は低迷した。日銀は、「異次元」の金融緩和とマイナス金利を長期に継続しているが、産業への局部的効果はあるが、家計所得や個人消費の増加には繋がっていないことが明らかになった。金融政策依存の限界と言えよう。

 逆に、2008年9月のリーマンショック以来の切れ目のない恒常的な金融緩和策とゼロ金利政策が、2013年1月以来の「異次元」の更なる金融緩和とマイナス金利政策により更に助長され、金融緩和により恩恵を受ける分野とその恩恵がほとんど及ばない分野との間で著しい経済格差を生む結果となっている。

 それに追い打ちを掛けたのが、2020年1月以来の武漢発の新型コロナウイルスの国際的な感染拡大である。これが各国の航空・観光産業や飲食産業、娯楽産業とこれらを支える関連産業を直撃し、人の動きを制限し、経済社会活動を減速させた。その対策として、各国政府は、感染拡大を抑制するための検査やワクチンを含む医療体制の拡充をする一方、職や所得を失った人々などへの財政支出を拡大すると共に、無利子の融資を含む金融支援策を実施したことにより、金融緩和が加速し、経済社会の格差を更に拡大する結果となっている。

 米国のバイデン政権の下で、連邦準備理事会(FRB)が、雇用の維持促進とインフレ率を睨みながら、金利の引き上げを含め、金融緩和の抑制時期を検討しているのは、金融緩和策による副作用を除去し、金融正常化に道を開くためである。

 日本銀行も米国の金融正常化に向けての政策転換を参考にしつつ、金融緩和幅の縮小を通じた株価の沈静化を図っているようだが、それは経済の抑制に繋がる可能性がある。このような中で、企業がそれぞれの企業経営に資する形で内部留保を積極的に活用し、経済に還元することが望まれる。また政策当局としても、企業の巨額の内部留保を景気の局面に応じて誘導することが経済対策に繋がることに注目する必要があろう。(2021.9.6.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)<再掲>

2021-10-25 | Weblog

北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)<再掲>
―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー
8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。
これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。
 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。
 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。
これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。
 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発 (その1で掲載)
 2、 密かに進められる核とミサイル開発  
 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。
 (1)ミサイル開発
 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。
 (2)核開発
 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。
 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。
 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。
 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。
 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要      (その3に掲載)
(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)<再掲>

2021-10-25 | Weblog

 北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)<再掲>
   ―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー
 「まえがき」
 北朝鮮は、2月7日午前、地球観測用との名目で長距離ロケット(光明星4号」)を発射した。このロケットには‘衛星’が搭載されているが、核などの兵器を搭載すれば大陸間「弾道ミサイル」にも転用出来る。今回のロケット(テポドン2改良型)飛行距離が12,000-13,000キロと見られており、米国本土の東海岸にも到達するものと見られている。
 今回の発射は国際海事機関(IMO)他、関係国際専門機関に通告されていたが、北朝鮮が1月6日に水爆とされている爆発実験を行っており、核と運搬手段であるロケットの軍事開発を目的としていると見られることから、米国、韓国や中国など世界各国が東アジアの不安定化につながり、これまでの国連安保理決議に反するなどとして強く非難し、また国連安保理が全会一致で非難決議を採択し、新たな制裁措置を検討している。米国では北朝鮮制裁法案が上下両院で採択され、大統領が署名(2月18日)して成立し、日本は北朝鮮のミサイル開発は‘認められない’などとして北朝鮮船舶の日本寄港の禁止や人的交流の制限など‘独自の制裁’を決定した。また韓国も開城工業団地よりの引き上げを行うなど制裁を強化している。
 北朝鮮の核兵器開発やミサイル開発は、東アジアのみならず国際の平和と安全に対する脅威であると共に、核不拡散体制の形骸化を加速することになるので、国際社会が重大な関心を持ち批判、非難すべきことである。しかし残念ながらこのような批判、非難にも拘わらず、北朝鮮が5回の核爆発実験を重ねて10年、長距離弾道ミサイルに転用出来るテポドン2改良型の発射実験を3回重ねて6年余となるが、ある程度の抑止効果はあったとしても結果として阻止は出来ていない。逆に、開発の時間を北朝鮮に与えた結果となっていることは否めない。
 日本独自の制裁強化については、北朝鮮による同国内日本人の特別調査委員会の‘解体’を呼ぶ結果となり、被害者家族の悲痛な期待に反し、拉致問題はまたも振り出しに戻る結果となっている。朝総連の解体を含む、新たな対応と発想の転換が不可欠になって来ているように見える。
 北朝鮮の核、ミサイル開発は思った以上に進んでいるのが実態だ。一連の制裁により一定の抑止効果はあるとしても、これまでの制裁の繰り返しでは、北朝鮮の核、ミサイルの開発を‘認めない’どころか、その実用化、配備の阻止も困難とも映る。この問題のカギを握っているのは、地域の核兵器国である米国と中国、ロシアと言えようが、これまでの‘制裁’を超える対応と発想の転換が迫られていると言えよう。
 このような観点から、本稿を継続掲載したい。
2015年8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。
 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。
 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。
 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。
 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。
 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発
 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。
 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。
 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。
 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。
 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。
 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。
 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。
 (1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。
 (2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。
 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。
 (3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示
 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。
 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。
 2、 密かに進められる核とミサイル開発   (その2に掲載)
 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要      (その3に掲載)
(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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米国、北朝鮮両国首脳、越えた軍事境界線―‘南北和平’へ動く!? (再掲)

2021-10-25 | Weblog

米国、北朝鮮両国首脳、越えた軍事境界線―‘南北和平’へ動く!? (再掲)
2019年6月30日午後、トランプ米国大統領は、大阪でのG20首脳会議の後、韓国を訪問の上、板門店を訪問し軍事境界線を挟んで北朝鮮の金正恩委員長と握手し、南北国境線を越え北朝鮮側に立ち、改めて握手し、挨拶を取り交わした。両首脳はその後トランプ氏と正恩氏は軍事境界線に接する韓国側施設「自由の家」に入り、非公式な意見交換を行った。これは北朝鮮の非核化に関する公式会談ではないが、米国大統領が北朝鮮の領土に立ったのは朝鮮戦争後初めてのことである。
米・朝両国は休戦状態にあるが、トランプ大統領が北朝鮮側領土に立ち、軍事境界線に接する韓国側施設「自由の家」で非公式であれ会談したことは、外交関係上、国家承認以上に事実上の‘和平’への方向性を意味する歴史的な1ページと言える。
2018年6月12日の両国首脳の初めての会談に際し、「米国、北朝鮮両国が事実上の国家承認」(2018.6.2.付)との評論を掲載した。
(2019.6.30)

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首都東京、生かされていない東日本大震災の教訓!

2021-10-22 | Weblog

首都東京、生かされていない東日本大震災の教訓!

 2021年3月11日、東日本大地震・津波災害から10年を迎えた。東京電力福島原発事故への対応を含め、政府関連予算は2020年度までの10年間で約38兆円にのぼり、また日本各地からの応援や寄付等を受け、地元の人々により懸命に復興活動がなされた結果、地区差があるものの、復興はかなりの進展を見せている。地元の方々や支援活動をされた各方面の方々のご苦労に心から感謝し、称えたい。またこの災害により、命を失った方15,899人、行方不明者2,528人となっており、心からのご冥福と行方不明者が1日も早く家族の元に返ることをお祈りしたい。

 復興は進んでいるものの、10年経っても42,685人が避難者にのぼり、当時の巨大地震と津波、そして福島原発の炉心メルトダウンなどの状況を振り返ると、改めてその被害の甚大さを痛感する。

 政府の関連行事やメデイアの報道は、どうしても追悼と被災地の復興活動の継続に焦点が当てられる。しかし大震災は、東日本だけでなく、関東でも首都直下地震や東海、近畿、四国地方では南海トラフ地震による被害が今後30年前後に発生する可能性が高いと伝えられている。日本列島を巻き込む大災害は、その他火山の噴火や異常気象による大洪水などの恐れがあるので、東日本の復興継続と共に、その他の地域、特に諸機能が集中し、人口密度の高い首都東京の震災への備えがこれで良いのかに注目しなくてはならない。

 1、教訓が未だ活かされていない首都東京

 東京を中心とする首都圏については、東日本大地震の教訓を受けて、道路・歩道の渋滞、帰宅難民などへの対策として、一時避難所や備蓄、耐震補強のほか、緊急対応のための道路規制、ハザード・マップの作成など、一定の対応が行われている。しかしこれらの措置は、多くの努力を要しているものの、東日本大地震規模の巨大災害にはほとんど無力とも予想される。

 東京には、1,300万の人々が生活し、近隣から数百万の人々が東京に往来している。また日本経済の中枢部門をはじめ、学校、文化・スポーツなど多くの民間機能が集中している。更に、国会、裁判所の中枢機能に加え、緊急時には東京都などと共にその対応に当たるべき全ての中央官庁が集中している。また国民統合の象徴として皇居があり、その安全を確保しなくてはならない。

 大災害が発生した際には、行政はこれら全ての安全を確保するために膨大な救援、救出活動を集中的、同時並行的にしなくてはならない。シュミレーションなどするまでもなく、とても手が回らないと予想される。何かを守り、何かを座視するしかない。相手は、「経験したことがない大災害」であるので、旧来の常識や既成概念では対応し切れないことを、福島原発事故を含む東日本大災害から学ぶべきであろう。

 政府による『東京一極集中解消』2020年目標は断念された。ある意味で東日本大地震の教訓の風化の象徴とも言えないだろうか。

 2、政府委員会が大規模災害に警鐘

 2014年、政府の地震調査委員会は首都直下地震が「今後30年で70%」との予測を公表している。その後この予測は繰り返し述べられる毎に発生確率は高くなっており、首都直下地震はもはや過去のものや遠い将来のものではなく、今生活している国民の生涯において起こりうる現実となっていることを示している。

 首都圏を中心としたマグニチュード7相当以上の過去の地震は、1703年の「元禄関東地震」(M8.28)と1923年の「関東大震災(大正関東地震)」(M7.9)を挟んで次のように発生している。

1703年12月   「元禄関東地震」(M8.28)

1855年11月 安政江戸地震      (M6.9)

1894年 6月 明治東京地震       (M7.0)

同年10月   東京湾付近の地震   (M6.7)

1895年 1 月茨城県南部の地震   (M7.2)

1921年12月茨城県南部の地震   (M7.0)

1922年 4月 浦賀水道付近の地震(M6.8)

1923年9月  「関東大震災」  (M7.9)

  関東地方は、東西に太平洋プレートとユーラシア・プレート、これを挟んで南北に北米大陸プレートとフィリピン海プレートがあり、元禄関東地震と関東大震災はフィリピン海プレートの境目の相模トラフで発生した大地震とされている。首都圏に関係する地震、津波の誘因としては、この他に東日本大震災に関係する日本海溝や東海地方から四国沖に伸びる南海トラフなどがある。

 関東、東海地方については火山爆発も注意を要する。

 3、政府組織・制度においてシンボリックな抜本的措置が必要

 民間組織・団体や東京都及び市区町村において、それぞれ対策を検討し備えることは不可欠であろう。それは誰のためでも無い、自分達や家族、関係者の安全、安寧のためだ。

 しかし東日本大震災レベルの直下地震等が首都圏で発生し、大型津波が発生すると、1995年1月の阪神・淡路地震を上回る被害、混乱が起こるものと予想されている。2011年3月の東日本大地震の際にも首都圏で震度6を超える揺れを経験したが、道路は車道、歩道共に渋滞し、公共交通は止まり、電話・携帯による通信は繋がらず、多数の帰宅難民が発生し、その状況は翌朝まで続いた。電気、ガス、水道などのライフラインが被害を受けていれば被害は更に拡大し、回復には更に時間を要することになる。

 最大の問題はライフラインの確保であるが、大災害に対応し、司令塔となるべき中央官庁の機能をどの程度確保出来るかである。物理的被害は予想もつかないが、災害が深夜や早朝、祝祭日に発生した場合、必要な人的資源の確保は困難で時間を要することになっても仕方が無いであろう。‘経験したことがない大災害’に遭遇し、‘経験したことがない混乱等’が起こったとしても、自然のなせること、誰も責めることは出来ない。それぞれの立場で被害に備え、耐え、命を守る努力が求められるであろう。それも相当期間に及ぶ可能性がある。

 (1)そうなると危険の分散を図ることが最も効果的となる。政府はこれまで幾度となく、東京一極集中を避けるため、中央省庁や大学の地方移転を試みてきたが、部分的な専門部局の分散に留まり、一極集中解消にはほど遠い。

 米国の他、ブラジルや豪州などのように、政治・行政機能を密集地域から切り離し、新たに政治・行政都市を造ることも考えられるが、日本にはそれにふさわしい安全な地域を確保することは難しそうだ。しかし1つの有効な選択肢ではある。

 もう1つの選択肢としては、日本独特の国民統合の象徴機能である皇居を宮内庁と共に京都など近畿地方に戻すことであろうか。天皇の象徴機能については憲法に明記され定着しており、皇居を移転しても機能自体に何ら影響しない一方、ご公務については憲法上国会の召集など10項目に限定されているので、移転は相対的に容易と見られる。更に、京都等に戻ることは歴史的に理解されやすく、また地方に新たな息吹をもたらし、地方活性化にも繋がる可能性がある。

 憲法上公務とされる10の業務については、現在では交通・運輸、通信が飛躍的に便利になっており、国会召集時など限られた折りに東京に行幸されることは可能であろう。宿泊が必要な場合には、年数回しか使用されていない迎賓館(赤坂離宮)に所要の宿泊施設をご用意するなど、対応は可能のようだ。また外国使節(各国大使等)の接受等については、京都の御所にて行うこととすれば、京都や近畿地方の歴史や文化等を外国使節に紹介する機会ともなろう。

 また考えたくはないが、もし将来首都圏がミサイル等で攻撃されると、政治・行政機能と象徴機能が同時に被害を受ける恐れがあるので、これを分離しておくことが安全保障上も意味があろう。

 無論どの選択肢にしても、現状を変更することには困難があろう。しかし、政府地震調査委員会が東京直下地震など経験したことがない大災害が現実に起こりうると考えているのであれば、これまでのような対応では不十分と見られるので、これまで実施されたこともないような措置を本気で検討、実施する必要があるのではないだろうか。

 (2)江戸城趾の活用方法については、城趾内の「江戸の自然」の保護を図りつつ、可能な範囲で復元を行い、歴史観光施設として整備し、また一部を国民の憩いの場として開放すると共に、大災害時や緊急時の避難場所となるよう整備するなどが考えられよう。特に江戸城趾には四方に門があるので、災害時、緊急時には門を開放し、四方から城趾内に避難が出来る。また緊急車両が災害時、緊急時に通行できるよう、城趾内の通路等を整備しておけば、渋滞が予想される一般道を通らずに迅速に移動できるなど、災害時、緊急時への活用も期待できる。

(2021.3.31. All Rights Reserved.)

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地球環境保護、日本の真価が問われる (再掲)

2021-10-22 | Weblog

地球環境保護、日本の真価が問われる (再掲)

‎ 10月26日開催された臨時国会において、菅義偉首相は就任後初めての所信表明を行い、「温室効果ガスの排出量を2050年までに全体としてゼロにする」との目標を表明した。 そして「グリーン社会の実現」を成長戦略の柱と位置付けた。‎

 「温室効果ガス排出量の2050年までの実質ゼロ」目標は、前政権当時の「50年までに80%削減」を一歩進めたもので、管政権の温室効果ガス削減の促進を期待したい。

 しかし、その目標は30年も先のものである上、EUな主要各国が2030年までの目標を設定しており、これに比して削減速度が遅い。

 1、温室効果ガス実質ゼロ目標に向け2030年、2040年の中間目標設定が必要

(1)不可欠な温室効果ガス削減と激甚化する気候変動への対応

‎ 地球温暖化により、北極圏の氷海や南極を覆う氷原・氷河、ヒマラヤやアルプスなどの氷河が融け、海温と共に大気温が上がり、大量の水蒸気を空中に巻き上げ、地球温暖化が進み、世界各地で今までにはないような荒々しい気候変動に見舞われている。 更にこのまま温暖化が進み臨界点に達すれば、止めることの出来ない極限的な激しい気候に見舞われる恐れがある。 これは理論でも学説でもなく、現実に体験している現実なのである。‎

 それを止めるためには、産業革命以来増え続けている温室効果ガスを削減し、地球温暖化を止めなくてはならない。

‎ 30年先は長すぎる。 加速努力が必要のようだ。 地球が壊れてからでは遅い。‎

 (2)具体的な中間目標設定とそれぞれの指針が不可欠

‎ 温暖化効果ガスについては、世界の主要国が2030年までの削減目標を設定している。 EUは40%削減(1990年比)、インド33~35%削減(GDP当たりのCo2排出、2005年比)、中国60~65%削減(同、2005年比)と具体的な目標を設定している。 特にEUは1990年比での削減目標であり、今日に比べて炭酸ガスなどの排出量の少ない時代との比較であり、問題意識の高さを示している。 中国についても目標達成を期待したい。‎

‎ これに対し日本は、これまで2030年までの削減目標を26%としており、その上2013年比と問題が深刻化し始めてからの基準で、基準年自体を甘くしており、2005年比では25.4%削減となる。 この目標も断念されている。 因みに、米国はオバマ政権時代に2025年までに26~28%削減(2005年比)として行政府の目標を設定しており、バイデン候補が新大統領となり民主党政権となれば、このラインで推進されるであろう。 またロシアは同年までに70~75%抑制(25~30%削減、1990年比)としている。‎

 日本は2050年までの実質ゼロが表明され、その実現に期待したいが、2030年、2040年の中間目標が具体的に示されると共に、どの分野でどのように進めるかの指針が示されることが期待される。

 2、福島原発解体処理による放射能汚染水の海洋放流は望ましくない

‎ 2011年3月に発生した東北大地震の津波により炉心融解を含む爆発事故を起こした福島原発の解体処理が長期化する中、放射能汚染水が貯水槽に大量に貯蔵され、限界を迎えていることから、その放出が検討されている。 放射能はほぼ取り除かれ、濃度の薄いトリウム残っているものの放射線レベルは低いので、海洋への放水が検討されている。 放射能は「飲んでも健康に影響はない」とされているが、福島の漁業関係者は風評被害などを懸念し、海洋投棄反対を表明している。‎

‎ これに対し行政当局は、賠償等を検討するなどとしているが、この問題は賠償や風評被害だけの問題ではない。 国際的信頼、国家としての信用の問題となろう。‎

‎ 日本は、国際環境グループに毎年のように「化石賞」を受けている。 発電等に石炭、石油などの化石燃料が使われているからだ。 失礼な話ではあるが、不名誉なことだ。 韓国が、福島産の野菜や魚類を放射能汚染の恐れありとの風評を流し続けたが、今回は国全体に関わることになる。‎

 もしこの放射線汚染水が処理をされ「飲んでも大丈夫」なレベルとなっているのであれば、日本国内で処理できるし、そうすべきであろう。

‎ 確かに海洋は広い。 だから海洋投棄も良いということにはならない。 領海内でも海は続いており外洋に広がる。 現在、海洋のプラステイックごみの問題が深刻化している。 世界中で投棄されてきたプラステイックごみは、毎年増えると共に、風化し微粒子化し世界の海洋を漂い、海底に蓄積し続けており、それを魚類が食べ、人間の口にも入るようになる。 十分希釈されたとしても放射線汚染水が放流され、これが世界で常態化する恐れもあり、その悪影響は計り知れない。‎

‎ 放射線汚染水の処分は、日本国内で行うことを前提として真剣に検討されるべきであろう。 例えば、国立公園内の人里離れた場所や硫黄島などの離島に貯水池を作り、適正に管理するなどを検討してはどうだろうか。 それが国家としての責任ではなかろうか。 (2020. 11. 4. )‎

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