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固豆腐が好物だった 故 菅谷文則氏、新著も発刊/奈良新聞「明風清音」第35回

2020年03月22日 | 明風清音(奈良新聞)
奈良新聞の「明風清音」欄(毎週木曜日)に月2回程度、寄稿している。先週の木曜日(2020年3月19日)に掲載されたのは「故 菅谷文則氏の豆腐愛」だった。昨年6月にお亡くなりになった菅谷氏は豆腐がお好きで、なかでも固豆腐が大好物だったようだ。だからご著書『健康を食べる豆腐』(保育社カラーブックス)の表紙も、エッジの立った固豆腐だ。

奈良まほろばソムリエの会は2017年4月から、菅谷氏に講師をお願いして毎月1回、勉強会を開催することになった。2回目が終わり3回目を迎えようとする頃、氏は入院され、この会は立ち消えとなってしまい、それが今も心残りだ。



ちょうど今朝(3/22)の奈良新聞に「資材帳から見る天平の大安寺 橿考研前所長 故菅谷さんの講義 書籍で刊行」という記事が出ていた。『大安寺伽藍縁起并流記資財帳(ならびにるきしざいちょう)を読む』という菅谷氏の新著が、東方出版から刊行されたのだそうだ。菅谷氏が2013~14年(平成25~26年)に大安寺で講義された内容をテープ起こししたものだという。こちらもぜひ読んでみたいものだ。では、そろそろ「明風清音」の全文を紹介する。

2月10日(月)、昨年6月に亡くなった菅谷文則・県立橿原考古学研究所長をしのぶ講演会「菅谷文則先生と歩んだ日々」(橿考研・由良大和古代文化研究協会主催)が橿考研講堂で開かれた(本紙2月11日付既報)。奈良まほろばソムリエの会からも、理事など数人が参加させていただいた。故人の幅広い活動ぶりをしのぶ良い会だった。

生前菅谷氏は「てっちゃん、ソムリエの会の連中を集めてくれ。ワシの頭の中にあることを皆に聞いてもらいたいんや」とおっしゃり、平成29年4月から毎月1回、橿原市内に集まってお話をうかがうことになった。4月は「歴史と色」、5月は「歴史と音」。他所では聞けない興味深いお話だった。6月の3回目の直前に菅谷氏は入院され、この会はそのまま立ち消えとなった。

そんなお付き合いの中で菅谷氏は「ワシは昔、豆腐の本を出したんや」。それが『健康を食べる豆腐』(保育社カラーブックス)で、畝傍高校時代の同級生・友次淳子さん(調理学)との共著だった。あとがきには「私への豆腐への関心は、1988年(昭和63年)に始まった。この年の冬に、ならシルクロード博大文明展のコンパニオン有志が、私に豆腐づくしを、大阪で食べさせてくれた」。

その後も豆腐に関心を持ち続けていたところ、本書出版の話が持ち上がったのだという。龍泉寺(天川村洞川)の山伏でもあった菅谷氏は、肉を断っておられた。おそらく貴重なタンパク源として、豆腐を召し上がっていたのだろう。

本書は豆腐の発祥・伝播に始まり、豆腐料理のレシピまでが紹介されたユニークな本だ。豆腐は中国で考案され世界中に広まった。日本への伝来について、本書は「奈良時代という説では、鑑真が持ってきたということになっているが、今のところ確証はない。文献的には、寿永2年であるので平安時代の末ごろに豆腐があらわれ始める」。

同年の春日大社神主の日記に、供物として「春近唐符一種」の記載があり、この「唐符」(豆腐)が最初の記録とされる。すると文献的に「豆腐のルーツは奈良」ということになる。

室町後期の『七十一番職人歌合』には白い鉢巻をした女性の豆腐売りが描かれ「とうふ召せ、奈良よりのぼりて候」と書かれているそうだ。歌の方にも奈良豆腐、宇治豆腐の名が見え、それらがのちに京・大坂や江戸に伝わったとみられる。

高野山には今も伝統製法による「盛り豆腐」がある。本書には「一種の固豆腐で、美しい象牙色であった。丸いという珍しさよりもその奥ゆかしさのある味が、口一杯にひろがる」。固い豆腐は菅谷氏の好物だったようだ。

「柔らかめを食べている人は、固めを食べる機会は少ない。一度ためすとよい。やや象牙色、つまりアイボリー色をした、角のしゃんとした豆腐を…」。このような固い豆腐は、県内では「豆腐工房 我流」(生駒郡平群町)などで製造・販売している。

志賀直哉は随筆「奈良」に、奈良の食べ物の悪口を書いたと言われるが、そこにはこんな話が登場する。「(わらび粉だけでなく)豆腐、雁擬(がんもどき)の評判もいい。私の住んでいる近くに小さな豆腐屋があり、其所(そこ)の年寄の作る豆腐が東京、大阪の豆腐好きの友達に大変評判がいい」。

良い水に恵まれた当県には、各地に美味しい豆腐屋がある。菅谷氏が愛した豆腐を味わい、氏をしのんでいただきたい。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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