そう言えば、マーガレット・ミッチェル原作の『風と共に去りぬ』の女主人公スカーレット・オハラもアイルランド系である。この映画のラストシーンのセリフ「タラに帰ろう」は印象的で、心に残る。南北戦争で、屋敷も財産も家族も愛する男も全てを失った主人公スカーレットが、アトランタの故郷タラで再び立ち上がろうとする感動的な場面でのセリフであるが、このタラの名がアイルランドにある“タラの丘”に由来していることを知る人は少ないのではなかろうか。“タラの丘”とは、首都ダブリンの北西40キロの地にある丘陵のことで、ここは、5世紀の頃、アイルランドにカトリックをもたらした守護聖人セント・パトリックが、三位一体を象徴する“三つ葉のクローバー”を手にカトリック信仰を説いた場所であり、“ケルト人の聖地”である。作者マーガレット・ミッチェル自身も19世紀の移民の家系であり、この物語に流れているのは、誇らしきアイルランド精神そのものといっていい。アメリカ南部の貴族社会が、南北戦争という“風”と共に、今、まさに、消え去ろうとする中で、アイルランド的な不屈の女主人公スカーレットがケルトの聖地に再生を誓う物語なのであろう。
ハリウッド映画全盛時代、『駅馬車』など、数々の西部劇を世に放った映画監督ジョン・フォードもアイルランド移民の子孫である。その代表作の一つ『静かなる男』はアイルランド人気質の男たちを主人公とした名作であるが、その舞台はダブリンから遥か西の太平洋側のごつごつした岩肌の荒涼とした大地のゴールウェイ近辺である。ここはジョン・フォードの祖先の故郷であり、彼はロケ地のコング村を“イニスフリー”と命名したのだ。嬉しいではないか、やはりイェイツが好きだったに違いない。この映画は、ジョン・ウェイン演じる元ボクサーの主人公ショーンが、故郷アイルランドの村に帰って来るという物語設定であるが、登場するのは、底抜けにお人好しで無鉄砲、意固地で協調性に乏しく、酒飲みで喧嘩好き等々、アイルランド魂の愛すべき男たちである。いや、男たちばかりではない、恋人役を演じる女優モーリン・オハラもアイルランド人であり、気性の強いアイリッシュ女を見事に演じていた。言うまでもないが、ジョン・フォード監督自身もこれらアイリッシュ気質そのもののような男っぽい人物であった。(山下)
ハリウッド映画全盛時代、『駅馬車』など、数々の西部劇を世に放った映画監督ジョン・フォードもアイルランド移民の子孫である。その代表作の一つ『静かなる男』はアイルランド人気質の男たちを主人公とした名作であるが、その舞台はダブリンから遥か西の太平洋側のごつごつした岩肌の荒涼とした大地のゴールウェイ近辺である。ここはジョン・フォードの祖先の故郷であり、彼はロケ地のコング村を“イニスフリー”と命名したのだ。嬉しいではないか、やはりイェイツが好きだったに違いない。この映画は、ジョン・ウェイン演じる元ボクサーの主人公ショーンが、故郷アイルランドの村に帰って来るという物語設定であるが、登場するのは、底抜けにお人好しで無鉄砲、意固地で協調性に乏しく、酒飲みで喧嘩好き等々、アイルランド魂の愛すべき男たちである。いや、男たちばかりではない、恋人役を演じる女優モーリン・オハラもアイルランド人であり、気性の強いアイリッシュ女を見事に演じていた。言うまでもないが、ジョン・フォード監督自身もこれらアイリッシュ気質そのもののような男っぽい人物であった。(山下)