TAOコンサル『市民派・リベラルアーツ』

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司馬遼太郎と藤沢周平に見る人間観[2]・・ロータリークラブでの卓話より

2011年08月27日 | 司馬遼太郎と藤沢周平
 さて、山田洋次というと、寅さんシリーズなどの国民的映画や『幸せの黄色いハンカチ』、『家族』、『息子』などの映画監督として知られているが、2002年に世に放った本格時代劇『たそがれ清兵衛』は、日本アカデミー賞の作品・監督賞に輝いた。

 この作品の原作は藤沢周平である。時代は江戸幕末期、舞台は海坂藩なる架空の藩、主人公は妻を亡くし、痴呆が進む母親と幼い二人の娘を養うお蔵役50石の貧しい下級武士の清兵衛、城での勤務が終わると同僚と付き合うことも無く、家路を急ぐ。そんな清兵衛、同僚からはたそがれ殿と呼ばれている。無精ひげに継ぎはぎだらけの身なりの極貧生活だが、どこか凛としている。こんな清兵衛の生活に明るさと彩りを添えるのが、友人の妹で幼馴染の朋江の存在である。物語の後半、清兵衛は、藩命により、お家騒動に絡んだ上意討ちに出かけることになるが、その清兵衛の髪を結い、そして闘いでぼろぼろになって家にたどり着く清兵衛を出迎えるシーンは、感動的である。朋江を演じる宮沢リエの楚々とした姿が美しく、清兵衛を演じる真田広之の寡黙な演技もよかった。とりわけ舞踏家田中民が演じる一刀流の使い手との壮絶な斬り合いは、黒沢映画の三船敏郎と仲代達也の決闘シーンを彷彿とさせるリアリティーある演出であった。

 この映画は藤沢周平の三つの短編小説を原作にしているが、描かれているのは、目立つことなく無名の儘生きる日常と、不本意ながら藩命に従い、凛々しく闘いに挑む武士の非日常である。つまり、我々の人生というものはごく平凡なものであるけれど、そんな一生の内に誰にでも一度や二度、きらきらするような誇らしい出来事があるのであり、そんな運命に従い生きて行く無名の男の美学が描かれている。(山下)