エッセイかと思えば、底知れぬ迷宮
* * * * * * * * * * * *
頭くらくら、胸どきどき、腰がくがく、おどる言葉、はしる妄想、ゆがみだす世界は、なんだか愉快。
いっそうぼんやりとしかし軽やかに現実をはぐらかしていくキシモトさんの技の冴えを見よ!!
『ねにもつタイプ』『なんらかの事情』に続く『ちくま』名物連載「ネにもつタイプ」3巻め。
* * * * * * * * * * * *
岸本佐知子さんの「ねにもつタイプ」から始まるシリーズの第三弾。
この独特の雰囲気、やはり読まずにはいられません。
ちょっとした身近な話から始まるエッセイのような導入。
しかし、そのコミカルな導入にだまされてはいけない。
私たちは、いつの間にか気がつくと底知れない迷宮に迷い込んでいる自分に気がつくでしょう。
一体どこまでが実体験で、どこからが妄想あるいは異次元の入り口であったのか・・・。
それにしても、著者の相変わらず果てることのない妄想力にも驚きあきれるばかりです。
* * * * * * * * * * *
「不治の病」
著者は、「カードの磁気が必ず弱い」病を持っているという。
ポイントカードやスポーツクラブのカードが、
しばしばエラーとなって読み取れなくなる、と。
そういえば私、時々自動ドアに感知されず、
ドアの前を何度もうろうろしても中へ入れないなどということが起こります・・・。
(ワンタッチ式のドアじゃないですよ。)
次の人が来るとすんなりドアは開いて、すかさずその人のすぐ後ろについて中に入った・・・。
* * * * * * * * * * *
「渋滞」
例えば友人から来たハガキに、返事を書こうと思う。
文面もいい感じのものを思いついた。
これを絵はがきに書いて、切手を貼って、近所のポストに入れに行く。
よし。
後はそれを実行すれば良い・・・のだけれど、
手順を思い描いただけですっかりもうやったような気になってしまって、体が動かない・・・。
だからもうハガキをもらってから一ヶ月も経つのにまだ返事を書いてさえもいない。
そのうちにまた別の人からのハガキが来る・・・、
ということで返事を出さない手紙が渋滞してくる、という話。
ああ、なんだか自分にも心当たりがあります。
『グズな人には理由がある』、
岸本様、この本はグズグズしていないで是非とも本当に書いてくださいませ。
* * * * * * * * * * *
「シュレディンガーのポスト」
たまに通る廃墟のようなアパートの前に、
これまたものすごく古びたポストがあるのだという。
このポストはまだ実際に使われているのだろうか?というのが著者の疑問。
とうに使われていないのに、知らずに手紙を入れる人がいるのではないか?
そんな手紙が中にたまっているのではないか・・・。
そこから著者の想像は広がります。
そこに自分宛の手紙を入れたら、何十年もの未来の自分に届いたりして。
時空を超えるポスト・・・。
なんだかいろいろなストーリーができあがりそうですね。
などと夢見ごこちとになったところで、この項のオチがまた傑作なのでした!
* * * * * * * * * * *
「ひみつのしつもん」
表題作ですが、これはあの、ネット上でユーザー登録などをするときに
本人確認のために決める「ひみつのしつもん」についてです。
「親友の名前」という質問を設定し、著者には一目瞭然の名前が答のはずだった。
ところが、当然すぎるその答を入れてみても、受け付けてもらえない。
何人か、別の名前で試してみてもダメ。
私は一体誰を親友と思っていたのだろう・・・?
自分の心の迷宮にはまり込む・・・。
なんだかありそうなことで、薄ら寒い気持ちにさせられるのでした。
図書館蔵書にて
「ひみつのしつもん」岸本佐知子 筑摩書房
満足度★★★★☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます