映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ミーシャ/ホロコーストと白い狼

2009年07月14日 | 映画(ま行)
野生を身にまとい生き抜く少女

* * * * * * * *

1942年、ベルギー、ブリュッセル。
ユダヤ人少女ミーシャは、学校へ行っている間に、
両親がナチスに連行されてしまいます。
しばらくは善意の人の家においてもらうのですが、次第に邪魔者扱い。
確かに、ユダヤ人を匿っていると知れれば罪になるのですから、
無理もありません。
両親が東の方へ連れて行かれたと聞き、
ミーシャはただ1人磁石を頼りに東へ東へと歩き始めます。

以前に見た「ディファイアンス」という作品も、
ホロコーストを逃れてユダヤ人が山にこもる話でしたが、そちらは集団。
このストーリーでは少女がたった一人です。

1人旅立ちを決意した少女の目は、もう大人の目をしていました。
誰にも頼れない。
一人で生きていく。
こういう覚悟をしたときに、人は大人になるんですね・・・。
そもそも、周りの人間をも彼女は信じることができないのです。
他人がすべてナチスに自分を売り渡そうとする敵に見えてしまう。
だから、自分で生きていく他なかった。

敵はナチスだけではないのですよね。
その時代を包む大きな魔物のような何か。
人々はそれに突き動かされていた。
だからこの時代の数々の悲劇が未だに語られ、物語にされるのでしょう。


さて、この映画で驚くべきなのは、
このミーシャ役のマチルド・ゴファールの演技です。
少女は、人と交わらず山や荒野をさまよううちに次第に野生化していくのですが、
その過程が恐ろしいほどにしっかり表現されています。
あのような極限の状況では、
空腹だけが頭を支配し、生き延びることだけが命題となるのだなあ
・・・というのが、切実にわかります。
時折民家に忍び込んで盗みもする。
虫を食べ、生肉をすする。
時に描写は生々しすぎて目を背けたくなるほどです。

唯一の救いが、白い狼と出会ったこと。
孤独な彼女に、ほんのひと時の温もりとなったのです。
もうそのとき彼女は本当に、人の姿をした狼でした。

この汚れ役、良くやり遂げたなあ・・・と、感動してしまいます。

犬好きの私は、あの白い狼にも感動しちゃいましたが。
・・・あの、「お父さん犬」より迫力がありつつ、かわいいですよ。

2007年/フランス・ベルギー・ドイツ/119分
監督:ベラ・ベルモン
出演:マチルド・ゴファール、ヤエル・アベカシス、ギイ・ブドス、ミシェル・ベルニエ


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
彼女はすごい (de-nory)
2009-07-15 07:25:53
たんぽぽさん。こんにちは。
観てこられましたか。
彼女の演技は、すごかったですね。
未だに「お腹すいたー」の叫び声が頭に残ってます。
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気にはなっていたのですが・・・ ()
2009-07-15 07:31:02
気にはなっていたのですが、
今のところ観に行く予定はないんです。
でも、こちらの記事を読んで、なんとなく全体像がつかめました!
DVDになったら、なるかな?観ます。
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野生児 (たんぽぽ)
2009-07-15 21:07:35
>de-noryさま
飽食の日本では、四六時中空腹を抱えていて、考えることは「お腹すいた」だけ、なんていう状況は考えがたいですね。
この感覚が、野生につながるのだろうと思います。その体現が、見事でした・・・。
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孤児 (たんぽぽ)
2009-07-15 21:14:51
>亮さま
実のところ、DVDで十分かな?と思います。
この映画はフィクションですが、戦争で親をなくし、このようにいやおうなく1人で生きなければならなくなった子供たちは、どの国にもたくさんいるのでしょうね。
そういう子供たちの象徴として、この少女を捉えると、また違うものが見えてくるかもしれません。
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