映画と本の『たんぽぽ館』

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エレファント・ソング

2017年04月09日 | 映画(あ行)
心の欠落を埋め合う存在



* * * * * * * * * *

ある精神科の病院の院長室。
そこに入院患者の青年マイケル(グザビエ・ドラン)が連れられてきます。
対応するのは院長のグリーン(ブルース・グリーンウッド)。
この病院の精神科医ローレンスが失踪しており、
院長はその行方を探ろうとしているのです。
ローレンスはマイケルの主治医で、マイケルとの面談の後から姿が見えません。
院長はマイケルがローレンスの行方を知っていると睨み、マイケルに質問をするのですが、
マイケルは巧みな話術で院長を翻弄し感情を揺さぶります。



グザビエ・ドランは監督としても頭角を現しているところです。
本作の原作は戯曲で、グザビエ・ドラン自身が役に自分自身を重ね、
出演を熱望したとのこと。
先に見た「マミー」は彼の監督作品ですが、
なるほど、「母親への愛憎」というところでテーマが重なるのですね。



本作のマイケルは、とても頭が良い。
けれど、父母からは離れて育ち、どちらからも愛情を受けていません。
そして母親の死をきっかけに「壊れた」状況に陥り、
もう5年もここに閉じ込められるようにして入院を続けていたのです。
そんなふうなので、マイケルと院長は、
始めのうちイライラするほどに会話が噛み合いません。
マイケルは何かというとすぐに象の話になってしまうのです。
それでも話は次第に確信に近くなって行くのですが、
マイケルはローレンス医師に性的虐待を受けていたらしいのです・・・。
でも彼の話はどこまでがウソなのか本当なのか、計り知れないところがあります。



色々な熾烈なやり取りの中で、
マイケルの精神状態がこんなふうになってしまったわけも見えてきます。
同時に、それまでただの手のつけようのない患者と見えていたマイケルを、
院長は一人の傷ついた人間として認めていくようになる。



また、院長は最近一人娘を亡くし、
そのため妻とうまく行かなくなって別れていたのですね。
その妻はこの病院の看護師長で、マイケルの事をよく知っている。
それで、マイケルははじめ院長に看護師長のことをとても悪く言うのです。
でも本当はそれは看護師長を敬愛していることの裏返しだったわけなのでしょう。



娘をなくした夫婦と、両親のいないマイケルは、
どこかで通じ合う必要があったとも言えます。
そのような二重の構造が効果的に配置され、よくできた作品でした。
本作は心理サスペンスという触れ込みですが、
というよりはもっとしっかりした人の心のドラマであったと思います。



老眼鏡が見つからず、院長はマイケルのカルテを確認していなかった、
というのも大きな伏線だったわけですね。


「エレファント・ソング」
2014年/カナダ/100分
監督:シャルル・ビナメ
原作・脚本:ニコラス・ビヨン
出演:グザビエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド、キャサリン・キーナー、キャリー=アン・モス、コルム・フィオール

心の痛み度★★★★★
満足度★★★★★


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