映画と本の『たんぽぽ館』

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エゴイスト

2023年02月14日 | 映画(あ行)

相手の幸福を思ってこそ

* * * * * * * * * * * *

エッセイスト高山真の自伝的小説「エゴイスト」を映画化したもの。

斉藤浩輔(鈴木亮平)は14歳で母親を亡くし、
田舎町でゲイの自分という本当の姿を押し殺して過ごした後、
現在は東京で、ファッション誌の編集者として働いています。
そんな彼が、パーソナルトレーナーとして働く中村龍太(宮沢氷魚)と出会います。
龍太は母の生活をも支えており、トレーナーだけでなく他のバイトもしている様子。

こんな二人は惹かれあい、逢瀬を楽しむようになりますが、
時には龍太の母も交えて満ち足りた時間を過ごすように。
浩輔は、龍太の母に自身の亡き母への思いを重ねてもいるのです。

ところが、二人でドライブの約束をしていた日、龍太は現れず・・・。

かなり濃厚なラブシーンがあります。
でもそれは始めの方だけで、次第に二人の関係は
単なる恋人同士というよりも信頼で結ばれた家族のようになっていくのです。

本作はLGBTの理解を求める作品ではなくて、人と人との絆の物語。
物語はショッキングな展開となっていくのですが、最後には深い感動に満たされます。
そして思うのです。
本作の題名、「エゴイスト」の意味を。

愛というのはすなわち、自分自身を救うためのものなのか?
そんな問いかけが根底にあるのだと思います。
浩輔が龍太を大事に思いあれこれと尽くすのは、
結局自分が好かれて幸福を得たいから・・・?
いや、突き詰めていえばそうなのかもしれないけれど、
あくまでも龍太の幸せがあってからの、自分の幸せということではないのかな。

「エゴイスト」とだけ言うと、なんだか自分のことだけ考えて、
よくないイメージがあるけれど、
けれどその結果にたどり着く前の「相手を思う気持ち」があれば、
それは悪いことではないのでは・・・?
そんな風に、ぼんやりと思うようになりました。

 

本作の浩輔役を演じるために、鈴木亮平さんは、
原作者・高山真さん(2020年没)のことや、ゲイの人たちのことをかなり調べたそうです。

確かに作中、東京で暮らす浩輔は、間違いなくゲイに見える。
周囲にもカミングアウトし、自分らしく人生を楽しんでいるのです。
そんなところが、仕草や言葉使い(オネエ言葉というわけではない)で
きっちり表現されています。

そしてまた、宮沢氷魚さんとの絡みのシーンが、
なんともうらやましくなってしまうほどに仲睦まじく、居心地がいい感じ・・・。
いつまでも見ていたい。
下手な男女の仲良しシーンよりも、特別感がありますねえ・・・。

龍太くんは、ピュアで美しくてけなげで、好きだわあ・・・
浩輔が惚れるのも無理はない。

初めて浩輔が龍太の母(阿川佐和子)と会うシーンなどは
(ここでは恋人同士であることは隠している)、
ゆるい緊張感があって、なんだかドラマではなくドキュメンタリーかと思うようなリアルさ。
浩輔と龍太の母、二人のシーンは、
後にもっとすごいシーンがあって、まさに見所です。
セリフは決まったものがなくて、何度も何度も撮り直したそうなのですが、
そのかいあって、実に納得のいくシーンとなっています。

 

本作を見るときに、タイミング的にこちらか、それとも「レジェンド&バタフライ」か、
二者択一を迫られたのですが、こちらを見てよかった~。

 

<シネマフロンティアにて>

「エゴイスト」

2023年/日本/120分

監督:松永大司

原作:高山真

出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、柄本明、阿川佐和子

満足度★★★★★

 



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