映画と本の『たんぽぽ館』

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さざなみ

2016年12月29日 | 映画(さ行)
自分が思っていたのとは違う、夫の姿



* * * * * * * * * *

結婚45周年を祝うパーティーを土曜に控え、
準備に追われるジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)。
その月曜日、ジェフに一通の手紙が届きました。
50年前スイスの山で行方不明となったジェフの元恋人の遺体が発見されたというのです。
その遺体はずっと氷河の中にあったので、
若いその時のままの姿を保っているという・・・。
ジェフは過去の恋愛の記憶を蘇らせ、心ここにあらずという様子になってしまいます。
そんな夫を見て、心穏やかではいられない、ケイト。



遺体発見の知らせは、ジェフが氷漬けにしていた恋人への思いを一気に溶かしだしたようでした。
ケイトの思いは嫉妬だったのでしょうか?
私にはそれは嫉妬というよりも、
これまで自分が思っていた「夫」が、あくまでも自分が思っていただけのものであり、
本当の姿ではなかったということへの狼狽のように思えました。
45年を共に過ごし、夫のことは何もかもわかっていると思っていた。
子どもはできなかったけれども、それでも充足していた。
この結婚は間違っていなかった。
そんな思いが彼女にはあったはず。
ところが、夫は、
「もし彼女が事故にあっていなければ結婚するつもりだった」などという。
ジェフにとって自分は一体何だったのだろう・・・。
夫への失望、怒り・・・。
ケイトはどんどんそんな思いに駆られていくようでした。



最後に、結婚45周年パーティーは予定どおり、開かれます。
そこでジェフのしたスピーチは、全く申し分のないものでした。
一度この夫婦間に生じたさざなみは、これで収まるのでしょうか。
けれども私は最後にカメラが捉えたケイトの目の色を忘れることができません。


夫が、叶わなかった別の人生をずっと夢見ていたのではないか・・・。
そう思い始めると今の自分の足元が崩れ落ちていくような感覚に陥りそうです。
初めの頃のケイトの心は確かに「さざなみ」程度だったのですが、
それは次第にさざなみでは収まらず、
彼女の中では白波の立つ大きな波のようになっていったのかもしれません。



本作の原題は「45Years」。
確かにこれでは、身も蓋もない。
昨今珍しい情緒的な邦題となりました。
でも、やはり、最後のケイトの心境は、さざなみでは足りなかったのではないかな?と思います。
そしてまた、自分の過去への思いを巡らせるのに夢中で、
45年共に暮らした妻の心中を思い量ることさえしない夫よ、
それはどうなのよ・・・
って、やはり女の立場からは言いたくなってしまいます。



さざなみ [DVD]
シャーロット・ランプリング,トム・コートネイ
TCエンタテインメント


「さざなみ」
2015年/イギリス/95分
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ、ジェラルディン・ジェームズ、ドリー・ウェルズ、デビッド・シブリー


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