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「革命前夜」須賀しのぶ

2019年04月23日 | 本(その他)

東ドイツの夜明け前

革命前夜 (文春文庫)
須賀 しのぶ
文藝春秋

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バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。
個性溢れる才能たちの中、自分の音を求めてあがく眞山は、
ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。
演奏者は美貌のオルガン奏者。
彼女は国家保安省の監視対象だった…。
冷戦下のドイツを舞台に青年音楽家の成長を描く歴史エンターテイメント。
大藪春彦賞受賞作!

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「また、桜の国で」で、しびれた須賀しのぶさん、再び。


こちらのほうが古くて、2015年に出されたものです。
こちらは第2次世界大戦下ではなく、1989年、
ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツが舞台です。
ちょうど冒頭、「今日、昭和が終わったのだそうだ」という一文から始まります。
昭和天皇の崩御。
そして平成の始まり。
東ドイツにピアノを学ぶために留学してきた主人公・眞山柊史がドイツでそのことを知ったシーン。
ベルリンの壁崩壊は平成元年の出来事だったのか・・・。
(覚えていないのが情けない)
そのことをこの平成の終わり直前に読む、というのもまた面白いタイミングとなりました。


柊史はドレスデンの音楽大学でピアノを学びますが、
音楽のことについての描写も素晴らしいですが、
何よりもこの時代の「東側」の事情がつぶさに描かれていて、
その体制の崩壊への槌音が感じられる、力強い一作でもあります。


街は煤けていて暗く活気がない。
ベルリンなど壁一枚隔てた西側は明るく賑やかなのに、この対比はどうだ・・・。
柊史は留学生なので、時折西ベルリンへ行って買い物をすることもできるのですが、
現地の住民にはそれができません。
物資は乏しく粗末・・・。
人々は諦めの中にいるのですが、西側からの情報はどんどん入ってくるので
若い人たちには不満が充満しています。
しかし、それを無理矢理に押さえつけているのがあの悪名高いシュタージ(秘密警察機関)。
なんでそこまで必要かと呆れるほどの監視体制。
私もいくつかの映画でその実態を垣間見ていましたが・・・。
国民の中にも多くの協力者がいて、誰が信頼できるのかできないのか、全くわからない。
柊史を取り巻く友人たちの中にも、
過去の家族の行いにより当局に目をつけられて閉塞状態にいるものもいれば、
実は「協力者」であったという驚愕の事実が明かされたりもします。
様々な友人との軋轢の中でスランプに陥っていく柊史が、
どのように自分を取り戻していくのか。
東ドイツの夜明け前の様子を交え、
青年ピアノ奏者の成長が語られる貴重な一作です。


図書館蔵書にて(単行本)
「革命前夜」須賀しのぶ 文藝春秋
満足度★★★★.5



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