映画と本の『たんぽぽ館』

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「平成関東大震災~いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった~」福井晴敏

2010年10月17日 | 本(その他)
生き延びてさえいれば、未来はある

平成関東大震災 いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった (講談社文庫)
福井 晴敏
講談社


            * * * * * * * *

東京を大地震が襲ったら・・・、この本は実用情報も満載のシミュレーション小説です。
ごく平凡なサラリーマン西谷久太郎(すなわち、サイヤクタロウ)。
彼はたまたま営業で都庁を訪れていました。
でも、実はそれは幸いなことだったんですね。
都庁は近辺の避難場所になっているくらいバッチリの耐震構造。
ちょうどエレベーターの中で地震に遭遇しました。
新宿は震度6強。
しかし、止まってしまったエレベーターから救出されるのに少し時間がかかっただけで、
無事外へ出ることができました。
ところが、それからが大変。
職場も気にかかるし、家のことも心配。
外へ出てみれば、あちこちのビルは倒れ、がれきの山。
火の手も上がっている。
これはもう仕事どころではない。
とにかく帰って家の様子、家族の様子を確かめたいが・・・。
携帯はつながらない。
そうそう、こういうときは災害用伝言ダイヤル、というのを使うんだった・・・。
交通機関はもちろん全部ストップ。
帰るとすれば歩くほかない。
こういうのを帰宅困難者というんですね。
西谷さんは、直線でも家まで約8キロメートル。
しかし、電気も通っていない夜は暗いし、道路もまともな状況ではない。
そしてこのように帰るに帰れない人々があふれかえっている・・・。
様々な困難を乗り越えて、西谷さんは帰路につきます。


実際にこんなことにはなって欲しくありませんが、
それはないとはいいきれないですね。
こんな風に、非常時をシミュレートし、
対応のイメージトレーニングを積んでおくのは必要なことだなあと思いました。


このような混乱のさなかをくぐり抜けるのは確かに大変です。
でも、その当たりはみな無我夢中で生き抜こうとするので何とか過ごすことができる。
本当に大変なのは、心の危機がやってくるその後、というのです。
たとえば、ローンを組んでやっと建てた家がつぶれたり焼けたりしてしまったら・・・。
大事な家族が亡くなっていたりしたら・・・。
避難所からいつ出られるかも、先の生活の見通しも見えないとしたら・・・、
これは本当に辛いです。
こういう大変なところを、家族や地域の人たちが心を一つに何とか立ち直っていく
・・・こういうことがとても大事。

終章の題名はこうなっています。
「生き延びてさえいれば未来はある。
打ちひしがれず、前へ進もう。」
そうですね。
このことは忘れないでおきたいと思います。


けれど、この本の大変さはやはり大都会ならではですね。
札幌程度なら、ここまでひどい帰宅困難者の群れ・・・にはならないだろうなあ。
道路も広いし。
私自身は職場まで常に徒歩30分だし・・・。
東京はいくら何でも人が多すぎる・・・と、北海道人としては思ってしまいますが。

満足度★★★☆☆


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