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「闇の喇叭」 有栖川有栖

2014年10月18日 | 本(ミステリ)
探偵行為が禁止された国で

闇の喇叭 (講談社文庫)
有栖川 有栖
講談社
 

* * * * * * * * * *

平世21年の日本。
第二次世界大戦後、ソ連の支配下におかれた北海道は日本から独立。
北のスパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。
敵は外だけとはかぎらない。
地方の独立を叫ぶ組織や、徴兵忌避をする者もいる。
政府は国内外に監視の目を光らせ、
警察は犯罪検挙率100%を目標に掲げる。
探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。
すべてを禁じられ、存在意義を否定された探偵に、何ができるのか。
何をすべきなのか。


* * * * * * * * * *

私は有栖川有栖さんのファンなのですが、
この「探偵ソラ」シリーズはまだ読んでいませんでした。
他の作品とはかなり設定が特異なのです。
平世21年の日本。
探偵行為が違法とされているという、近未来SFめいた設定。
この世界に始めは戸惑いを覚えますが、次第に引きこまれていきます。


「探偵行為」が違法というのは、いかにも唐突のような気がしたのですが、
後書きで著者が述べています。
現実の日本でも、戦時中、探偵小説は禁止されていた。
自国民同士で殺しただの捕まえただのとやる小説は
挙国一致して敵と当たらねばならない時局に鑑みて不謹慎、ということで・・・。
また、中国当局は2013年に2500人もの私立探偵を一斉に検挙した。
探偵が完了の腐敗を暴きすぎる、ということで・・・。


なるほど確かに、特定機密保護法が成立したとなれば
探偵行為が禁止される日も遠くないのでは・・・という気もしてきます。
「闇の喇叭」に私達の生活が脅かされる日が来ない様に・・・
祈りたくなってきました。


本作は、こうした重大な制約に阻まれながら、
いかに女子高校生・空閑(そらしず)純が、推理のヒモを解き、
自分らしく生きていくのか・・・そういう物語です。


ところで北海道に住む私にとっては衝撃的なこの舞台背景。
ソ連の支配下におかれた北海道が日本から独立・・・?! 
スコットランドが英国から独立するのなら北海道独立もアリかも、
などと思ったりしましたが、まさかこういう形だとは!!
つまりは北海道が今の北朝鮮のような怪しい国に成り果てている・・・。
ぐすん。
それはないです・・・。


母は行方不明。
父は探偵行為で逮捕され・・・、
この先一人でソラがどう生きていこうとするのか。
彼女を大切に思う友人の温かい手も振りほどいて・・・。
続きを読まないわけにいきませんね・・・。


ラストはアメリカン・ニューシネマを意識したそうで、
なんともモノ悲しく暗澹としています。
しかし彼女の旅立ちの決意の強さをも感じさせる。
秀逸なラストだと思います。

「闇の喇叭」有栖川有栖 講談社文庫
満足度★★★★☆



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