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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」皆川博子

2022年07月20日 | 本(ミステリ)

思えば遠くへ来たもんだ・・・

 

 

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18世紀、独立戦争中のアメリカ。
記者ロディは投獄された英国兵エドワード・ターナーを訪ねた。
なぜ植民地開拓者(コロニスト)と先住民族(モホーク)の息子アシュリーを殺したのか訊くために。
残されたアシュリーの手記の異変に気づいた囚人エドは、
追及される立場から一転、驚くべき推理を始める。
それは部隊で続く不審死やスパイの存在、さらには国家の陰謀にかかわるものだった……
『開かせていただき光栄です』シリーズ最終作。

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皆川博子さんの『開かせていただき光栄です』シリーズ最終作。

前作の最後のシーンで、アメリカへ渡るとされたエドとクラレンスの話になります。
しかし、本作の主人公はこの二人ではなくて、
本作で初めて登場する、アシュリー・アーデンというべきでしょう。

アシュリーは植民地開拓者(コロニスト)の大地主である父・グレゴリー・アーデンと
先住民族(モホーク)の母との間に生まれたハーフ。
父には白人の正妻やその息子たちがいます。

白人でありつつ先住民でもあるということで、
周囲からは父の威光から丁寧に扱われたり、
インディアンとして見下されたり、その時々で色々。
自身も、父の屋敷で白人と同じ教養を身につけ、
片や、母の属するモホークの村で大自然と共に生きるモホークの風習を学んだりもする、
なかなか複雑なおいたちを体験しています。
そのため、自分自身のアイデンティティがどちらにあるのか、混乱しているのです。

 

さて、時代は英国とそこから独立を図ろうとする人々の争いが繰り広げられる独立戦争のさなか。
この大陸に暮らす人々は、国王派と独立派、真っ二つになっています。
そこで有力商人たちは、どちらに汲みするか命がけの決断を迫られたりします。
うまく立ち回り、どちらが勝っても味方したような体裁を作っておく者も・・・。
エドとクラレンスはこんな混乱の中、国王軍兵士としてこの地にやって来たわけです。

 

ところが、冒頭で驚かされてしまう。

エドはなんと獄中にあって、そこへある人物が訪ねてきて問うのです。
「なぜ、アシュリー・アーデンを殺したのか?」と。

なんですと!?
エドが殺人なんかするはずがない・・・。
そしてまた、クラレンスはどうしたのか?
本巻の主人公となるべきアシュリー・アーデンは死んでしまったと言うこと???

渦巻く疑問。
そんな謎を解いて行く物語です。

独立戦争時のアメリカなんて、あまり良く知らなかったのでここも興味深いところです。
国王軍や独立軍、どちらが勝ったとしても
虐げられ搾取される一方の先住民の立場も描かれていて、これが切ない。

 

また、同じくコロニスト名家であるウィルソン家の三男でありながら、
口唇裂がある故に、一家からはのけ者扱いされているモーリスが、とても魅力的。
人前では口元を隠す仮面をつけていたりしますが、実は聡明で意志が強い。
彼がおのれの道を見つけていく様もまた、いいんだなあ・・・。

 

英国を出て、遠く紛争のアメリカの地へやって来たエドとクラレンス。
この二人のさらなる遍歴もまた、お楽しみに・・・。

第一作目とは全く違う物語になっていますが・・・。
思えば遠くへ来たもんだ・・・という感じです。

 

図書館蔵書にて

「インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」皆川博子 早川書房

満足度★★★★☆