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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「われらが痛みの鏡 上・下」ピエール・ルメートル

2022年02月27日 | 本(ミステリ)

これぞ、物語 

 

 

 

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戦禍におびえる1940年のパリ。
戦争で顔の半 分を失ったエドゥアールが身を寄せた下宿先 の娘ルイーズを主人公に、
数奇な運命に翻弄 される人々の姿を生き生きと描く傑作巨篇!

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ピエール・ルメートルによる、「天国でまた会おう」、「炎の色」に続く
歴史ミステリ3部作の完結編。
圧巻です!!

 

一作目、戦争(第一次世界大戦)で顔の半分を失ったエドゥアールが
身を寄せていた下宿先の少女・ルイーズ。
本作はその後、30歳になったルイーズが描かれます。
1940年。
ドイツ軍がフランスに迫っています。

小学校の教師となり、休日にはカフェでバイトもするルイーズ。
その彼女が常連である客の老人に不可思議な依頼を受けます。
よせばいいのに、まるで飛んで火に入る夏の虫のように依頼を引き受けてしまった彼女は、
とんでもないものを目撃することに。

・・・というショッキングなつかみから始まりますが、
実はこの老人が、単なる行きずりの人ではなかった・・・。

さて、本作にはこのルイーズだけではなく、
群像的に他の登場人物たちのことも交互に描かれています。

 

戦場に駆り出されたのはいいけれど、一向にドイツ軍は動かない。
前線でじりじりしながら不安な日々を過ごす兵士ガブリエル。
そして彼がいつも忌々しく思っているランドラード。
ランドラードは粗暴で抜け目がなく、軍の物資を横流しして儲けています。
けれど気弱なガブリエルは何も言えず、なるべく関わらないようにしているだけ。
ところが、いよいよドイツ軍の侵攻が始まってから、
2人の関係が変化していきます。
とはいえ、無謀なランドラードの行動に巻き込まれて、
ガブリエルはランドラードと共に軍事刑務所に入ることになってしまうのですが・・・。

 

そして一方、ドイツ軍の侵攻によってこの軍事刑務所の囚人たちをどうするかが問題になります。
やむなく、全員を他へ移送することになるのですが、
その任務に駆り出されたのが機動憲兵隊のフェルナン。
行く先もまだ定かでなく食料等も全く不十分のまま出発した彼らの道は、苦難の道。
街道は、パリから避難する人々であふれかえっています。

 

そしてさらにもう1人の登場人物は稀代のペテン師、デジレ。
彼は医師や弁護士などになりすまし、周囲の人をすっかり信用させ賞賛さえ受けるまでになり、
しかし時期を見て巻き上げたお金を抱えてさっさとトンズラする、
ということを繰り返していました。
ここでは新聞社に潜り込み、フランス軍は優勢、ドイツ軍などクズ同然、
というような、フランス人にとって耳に優しいことばかりを
いかにもな口調で書き散らし、人気を得ているのでした。

ところが、さすがにいよいよドイツ軍がフランスに侵入を始めてからは、
また姿を消してしまいます。
・・・こんなしょうもない人物が、この先登場人物たちとどのように絡んでくるのかと、
不安になってしまうのですが、
なんと、次に登場する彼の姿に驚かされてしまうのです。

ペテン師には違いない。
けれど、こんなこともできるわけか・・・。
善悪を超えた存在の確かさに感動を覚えてしまいます。

 

これらの人物が、運命の糸に操られるように一つの所に収束していきます。
これぞ、「物語」と言うべきでしょう。
読後、しばらくぼーっとしてしまいました。
3部作の中で最高傑作だと思います。

「われらが痛みの鏡 上・下」ピエール・ルメートル ハヤカワ文庫

満足度★★★★★