映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブルージャスミン

2014年05月28日 | 映画(は行)
はじめは嫌悪しか感じないが・・・



* * * * * * * * * *

軽妙なロマンチックコメディの名手ウッディ・アレン監督。
私はどちらかと言えば、さほどのファンではなく、積極的には見ないのです。
でも本作、何しろケイト・ブランシェットが第86回アカデミー賞主演女優賞を獲得した作品ということで、
やはり見なくては!という気持ちに駆られました。
でも本作は“軽妙”というのとは少し風合いが異なります。



ニューヨークの資産家ハル(アレック・ボールドウィン)と結婚したジャスミン(ケイト・ブランシェット)は、
セレブリティとしてゴージャスな生活を送っていました。
しかし、結婚生活と共に地位も資産も失い、
サンフランシスコの妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)の家へ身を寄せることになります。
ジンジャーは全く庶民的生活をしているシングルマザー。
ジャスミンはセレブな生活意識から抜けることができず、
再び華やかな世界へ返り咲こうとするのですが・・・。



ジャスミンというのは本名でなく、本当はジャネットというのです。
そういうありふれた名前でなく、
少しでも自分を素敵に見せたいという虚栄心のカタマリの彼女。
この名前にすべてが現れています。
もともと彼女は自分で働いたことがありません。
お金持ちの妻ということだけで、
自分自身が他の人よりも『上』であるかのような・・・、
そんな鼻持ちならない彼女に、始めのうちは嫌悪しか感じません。


彼女は、妹が結婚を考えている相手(作業員)を、つまらない男と見下す。
地道に働いて、時々みなで集まって野球を見ながら飲んで騒いで
・・・いいと思うんですけどねえ。
彼女の価値観ではこういうのは「くだらない」わけなのです。
しかし、こんななにもできなくてプライドばかり高い彼女に
いったい何ができるでしょう。
気持ちばかりが高じて、どうにもならなく、
次第に精神の変調をきたしていく始末。
しかし、“人物”よりも人物の後ろにある“お金”でしか人の価値を測れない彼女の道は、
やはり一つしかない・・・。



ただひたすら、嘘をつき、もがき続ける彼女の姿が、
逆に次第に愛おしく感じられて来ます。
気の毒・・・というのとも違う。
もっと身の丈にあった幸せを見つけようと思えばいくらでもあるのに、
手の届かない夢ばかりを追いかける、
そんな彼女の姿は、実は自分の中にもあるわけなのです。
求める方向性は全く感心できないけれども、
やっぱり普通にちっぽけで悲しい人間。
そして最後にわかる驚きの真実。
彼女は多分自分の行為の非を認めたくないのでしょう。
自分がまたセレブに返り咲くことで
自分の行為を正当化しようとしているように思える。
本人にそういう自覚はないのかもしれませんが。
悲しいほどに、もがき続ける“憂鬱なジャスミン”・・・。
なんだか彼女を見つめる目が優しくなっていく自分に気づきます。
これこそがウッディ・アレンのマジックなのかな?
なかなか興味深い作品なのでした。
主演女優賞には納得。

「ブルージャスミン」
2013年/アメリカ/98分
出演:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ルイス・C・K

女のみっともなさ★★★★★
満足度★★★★☆