官兵衛、その人に迫る
* * * * * * * * * *
黒田官兵衛。戦国時代末期の異才。
牢人の子に生まれながらも、二十二歳にして播州・小寺藩の一番家老になる。
だが、「この程度の小天地であくせくして自分は生涯をおわるのか」という倦怠があった。
欲のうすい官兵衛だが、
「広い世界へ出て、才略ひとつで天下いじりがしてみたい」という気持ちは強かった。(1)
官兵衛は信長に新時代が出現しつつあるというまぶしさを感じていた。
「だからこそ織田家をえらんだ」のだ。
信長に拝謁した官兵衛は、「播州のことは秀吉に相談せよ」と言われ秀吉に会う。
秀吉は官兵衛の才を認め、官兵衛も「この男のために何かせねばなるまい」と感じた。
ふたりの濃密な関係が始まった。(2)
官兵衛を信長に取りついでくれた荒木村重が
信長に謀反を起こし毛利についた。
翻意させるべく伊丹を訪れた官兵衛は囚われてしまう。
信長は官兵衛も裏切ったと錯覚し、子の松寿丸を殺せと命じた。
竹中半兵衛の策で救われるが、
官兵衛が牢を出た時は、半兵衛、既に病死。
牢を出てからの官兵衛は身も心も変る。(3)
信長が殺された。
秀吉は「主の仇」光秀を山城山崎で討ち、その二年後には、豊臣政権を確立した。
官兵衛は自分の天下構想を秀吉という素材によって、
たとえ一部でも描きえたことに満足だっただろう。
この戦国の異才が秀吉に隠居を許され、
髪をおろし入道し「如水」と号したのは、四十八歳のときであった。(4)
* * * * * * * * * *
黒田官兵衛の長い物語を読みました。
本作で感じた私の官兵衛象。
才はある。
けれどあくまでも弱小「小寺藩」の一家老という身の上、
早る思いを持て余しどうすることもできないという状況が長かったように見受けられます。
それが秀吉に重宝されるようになったのも、
信長軍が毛利軍と対立する上で、
毛利方の事情通の官兵衛がいると便利だったから・・・ということのようです。
けれど秀吉は官兵衛の頭の良さを十分に知っており、
又それを警戒してもいる。
また逆に、官兵衛もそのことを感じ取っているというあたりで、
あまりにも人の心の機微や先を見通せることが、
逆に彼自身を傷つけているような気もしました。
官兵衛は決して信長や秀吉に心酔してはいません。
もっと高みから見下ろしてすべての状況を見渡しているかのようです。
でも自身で天下を取ろうとはしない。
秀吉の参謀という立場でどこまで自分の考えを試すことができるのか、
そういうことで自分の存在価値を図ろうとしたのでしょう。
毛利側との戦いでみせた兵糧攻めや水攻め。
そして、本能寺で信長が亡くなったあとの秀吉軍の迅速な行動。
リアルで迫力に満ちています。
普通の歴史小説では、
信長亡き後秀吉は大急ぎで毛利方と決着をつけ、引き返して光秀を破った
と、簡単に書いてありますが、
実のところ、このように緊迫して大変な実情があったというのも興味深い。
実はその後の清須会議の実情に触れてあるかと期待していたのですが、
残念ながらそれはありませんでした!
ともあれ、さすが司馬遼太郎氏の作品、
官兵衛を単に歴史上のヒーローではなく
才はありながら生きることに不器用な、
ありのままの人間像を描いてくれたように思います。
読み応えたっぷりの4冊でした。
来年からのNHK大河ドラマではどんな官兵衛像が語られるのでしょう。
とても楽しみです。
「播磨灘物語1~4」司馬遼太郎 講談社文庫
満足度★★★★☆
![]() | 新装版 播磨灘物語(1) (講談社文庫) |
司馬 遼太郎 | |
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司馬 遼太郎 | |
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黒田官兵衛。戦国時代末期の異才。
牢人の子に生まれながらも、二十二歳にして播州・小寺藩の一番家老になる。
だが、「この程度の小天地であくせくして自分は生涯をおわるのか」という倦怠があった。
欲のうすい官兵衛だが、
「広い世界へ出て、才略ひとつで天下いじりがしてみたい」という気持ちは強かった。(1)
官兵衛は信長に新時代が出現しつつあるというまぶしさを感じていた。
「だからこそ織田家をえらんだ」のだ。
信長に拝謁した官兵衛は、「播州のことは秀吉に相談せよ」と言われ秀吉に会う。
秀吉は官兵衛の才を認め、官兵衛も「この男のために何かせねばなるまい」と感じた。
ふたりの濃密な関係が始まった。(2)
官兵衛を信長に取りついでくれた荒木村重が
信長に謀反を起こし毛利についた。
翻意させるべく伊丹を訪れた官兵衛は囚われてしまう。
信長は官兵衛も裏切ったと錯覚し、子の松寿丸を殺せと命じた。
竹中半兵衛の策で救われるが、
官兵衛が牢を出た時は、半兵衛、既に病死。
牢を出てからの官兵衛は身も心も変る。(3)
信長が殺された。
秀吉は「主の仇」光秀を山城山崎で討ち、その二年後には、豊臣政権を確立した。
官兵衛は自分の天下構想を秀吉という素材によって、
たとえ一部でも描きえたことに満足だっただろう。
この戦国の異才が秀吉に隠居を許され、
髪をおろし入道し「如水」と号したのは、四十八歳のときであった。(4)
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黒田官兵衛の長い物語を読みました。
本作で感じた私の官兵衛象。
才はある。
けれどあくまでも弱小「小寺藩」の一家老という身の上、
早る思いを持て余しどうすることもできないという状況が長かったように見受けられます。
それが秀吉に重宝されるようになったのも、
信長軍が毛利軍と対立する上で、
毛利方の事情通の官兵衛がいると便利だったから・・・ということのようです。
けれど秀吉は官兵衛の頭の良さを十分に知っており、
又それを警戒してもいる。
また逆に、官兵衛もそのことを感じ取っているというあたりで、
あまりにも人の心の機微や先を見通せることが、
逆に彼自身を傷つけているような気もしました。
官兵衛は決して信長や秀吉に心酔してはいません。
もっと高みから見下ろしてすべての状況を見渡しているかのようです。
でも自身で天下を取ろうとはしない。
秀吉の参謀という立場でどこまで自分の考えを試すことができるのか、
そういうことで自分の存在価値を図ろうとしたのでしょう。
毛利側との戦いでみせた兵糧攻めや水攻め。
そして、本能寺で信長が亡くなったあとの秀吉軍の迅速な行動。
リアルで迫力に満ちています。
普通の歴史小説では、
信長亡き後秀吉は大急ぎで毛利方と決着をつけ、引き返して光秀を破った
と、簡単に書いてありますが、
実のところ、このように緊迫して大変な実情があったというのも興味深い。
実はその後の清須会議の実情に触れてあるかと期待していたのですが、
残念ながらそれはありませんでした!
ともあれ、さすが司馬遼太郎氏の作品、
官兵衛を単に歴史上のヒーローではなく
才はありながら生きることに不器用な、
ありのままの人間像を描いてくれたように思います。
読み応えたっぷりの4冊でした。
来年からのNHK大河ドラマではどんな官兵衛像が語られるのでしょう。
とても楽しみです。
「播磨灘物語1~4」司馬遼太郎 講談社文庫
満足度★★★★☆