新感覚。図書部員の青春。
* * * * * * * *
これはある高校の図書部の物語です。
けれど特に大きな事件があるわけではありません。
図書部員望美が、図書室とはベニヤ板で仕切られただけのこの部室で起こる出来事を語っています。
それにしてもいくつかのエピソードはありながら、
それが収束しないで終わってしまうという、不思議なストーリーになっています。
そもそも、この題名。
「ぼくは落ち着きがない」。
これ自体が謎です。
この本の語り手はオンナノコの望美。
だからこの題名の「ぼく」ではなさそう。
では誰・・・?と思いつつ読んでいって、結局解るのは、
望美があこがれていた図書館司書の金子先生が、とある小説の新人賞を受賞。
その後の第一作の題名が「ぼくは落ち着きがない」というもの。
けれど、望美はそれでピンと来る。
これは私たちのことを書いた小説だ!
・・・つまり、考えてみると、
多分丸ごとこの本の内容そのものが、金子先生作品なのではないかな?と、
そんな気がしてきます。
ワイワイガヤガヤと気ままで賑やかそうな部室なのですが、
実のところ皆そう脳天気ではない。
不登校になる子はそのまま不登校で、その原因は語られない。
オタクっぽくて皆に疎外されている男子は、やっぱり疎外されたまま。
何だか望美を嫌っているらしい女子の気持ちもそのまま。
いやいや、でもそれこそが現実です。
実際の身の回りにははっきりした起承転結なんかない。
特にこの青春時代の思いは・・・。
非常に気になるエピソードとしては「片岡哲生」に関するもの。
一度に本を6冊ずつ借りていって、すぐに返しに来るというこの転校生。
ウソかマコトか様々な伝説が。
曰く、
ものすごいロングシュートを決めた。
美術室で一人で泣いていた。
校舎内で自転車をこぐ姿を見た。
校歌をものすごくきちんと巧く歌っていた。
5人の不良を相手に立ち回りをしていた。
二つ先のバス停前のコンビニでメンチカツパンを買い食いしていた・・・。
う~ん、すごく興味がわきますね、一体どういうヤツなんだか。
ところが、望美はこの本人を一度も見たことがないのです。
よく図書室にも来ているのに、
何故かタイミングが外れて姿を目撃したことがない。
ところが、終盤、とても大事なシーンでこの片岡君とすれ違うのですよ。
でも、望美はそれに気づいてない。
読者である私たちもうっかりすると見落とします。
それから、ナス先輩の小説が面白い。
・・・そうか、よく考えると結局「ぼく」は、ナス先輩なのかもしれません。
いろいろと仕掛けもほどこされ、想像の余地があるこの本。
不思議に楽しいです。
巻末、俳優の堺雅人さんが素晴らしい解説を書いています。
「演技」をキーワードとしてこの作品を読み解いたもの。
うわ!この的確さ、鋭さには恐れ入りました。
なので、私はあえてそのことにはふれずに書きました。
「ぼくは落ち着きがない」長嶋有 光文社文庫
満足度★★★★☆
![]() | ぼくは落ち着きがない (光文社文庫) |
長嶋 有 | |
光文社 |
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これはある高校の図書部の物語です。
けれど特に大きな事件があるわけではありません。
図書部員望美が、図書室とはベニヤ板で仕切られただけのこの部室で起こる出来事を語っています。
それにしてもいくつかのエピソードはありながら、
それが収束しないで終わってしまうという、不思議なストーリーになっています。
そもそも、この題名。
「ぼくは落ち着きがない」。
これ自体が謎です。
この本の語り手はオンナノコの望美。
だからこの題名の「ぼく」ではなさそう。
では誰・・・?と思いつつ読んでいって、結局解るのは、
望美があこがれていた図書館司書の金子先生が、とある小説の新人賞を受賞。
その後の第一作の題名が「ぼくは落ち着きがない」というもの。
けれど、望美はそれでピンと来る。
これは私たちのことを書いた小説だ!
・・・つまり、考えてみると、
多分丸ごとこの本の内容そのものが、金子先生作品なのではないかな?と、
そんな気がしてきます。
ワイワイガヤガヤと気ままで賑やかそうな部室なのですが、
実のところ皆そう脳天気ではない。
不登校になる子はそのまま不登校で、その原因は語られない。
オタクっぽくて皆に疎外されている男子は、やっぱり疎外されたまま。
何だか望美を嫌っているらしい女子の気持ちもそのまま。
いやいや、でもそれこそが現実です。
実際の身の回りにははっきりした起承転結なんかない。
特にこの青春時代の思いは・・・。
非常に気になるエピソードとしては「片岡哲生」に関するもの。
一度に本を6冊ずつ借りていって、すぐに返しに来るというこの転校生。
ウソかマコトか様々な伝説が。
曰く、
ものすごいロングシュートを決めた。
美術室で一人で泣いていた。
校舎内で自転車をこぐ姿を見た。
校歌をものすごくきちんと巧く歌っていた。
5人の不良を相手に立ち回りをしていた。
二つ先のバス停前のコンビニでメンチカツパンを買い食いしていた・・・。
う~ん、すごく興味がわきますね、一体どういうヤツなんだか。
ところが、望美はこの本人を一度も見たことがないのです。
よく図書室にも来ているのに、
何故かタイミングが外れて姿を目撃したことがない。
ところが、終盤、とても大事なシーンでこの片岡君とすれ違うのですよ。
でも、望美はそれに気づいてない。
読者である私たちもうっかりすると見落とします。
それから、ナス先輩の小説が面白い。
・・・そうか、よく考えると結局「ぼく」は、ナス先輩なのかもしれません。
いろいろと仕掛けもほどこされ、想像の余地があるこの本。
不思議に楽しいです。
巻末、俳優の堺雅人さんが素晴らしい解説を書いています。
「演技」をキーワードとしてこの作品を読み解いたもの。
うわ!この的確さ、鋭さには恐れ入りました。
なので、私はあえてそのことにはふれずに書きました。
「ぼくは落ち着きがない」長嶋有 光文社文庫
満足度★★★★☆