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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

路上のソリスト

2009年06月06日 | 映画(ら行)
生きるために必要なのは、お金でも名誉でもなくて・・・

           * * * * * * * *

この映画は実話を基にしています。
ロサンゼルス・タイムスのコラムニスト、スティーブ・ロペスは、
ある日バイオリンを弾いている路上生活者を見かけます。
近寄ってよく見れば、そのバイオリンには弦が2本しかない。
しかし、巧みに美しいメロディを奏でています。
話しかけてみると、たたみ掛けるように言葉が返ってくるのですが・・・。
スティーブは彼に興味を引かれ、
また、コラムのネタにも仕えると踏んで、彼のことを調べるのです。

彼は、ナサニエル・エアーズ。
ジュリアード音楽院に在籍していたのですが、
なぜか中途退学の後、身を持ち崩して、このような生活に陥ってしまっている。
というのも、問題は彼の統合失調症なのでした。
彼の素晴らしい音楽の才能、感受性。
しかし精神の病が、その道を閉ざしてしまった。

新聞のコラムを見た人の好意で、チェロがナサニエルに届きます。
車がビュンビュン行き交う道路わきで奏でられる、美しいメロディ。
スティーブは何とかこのナサニエルをまともな生活に戻し、
音楽家として再起させようとするのですが・・・。

これは単に、コラムのネタのためというわけではないのです。
彼自身、ナサニエルの音楽に対する情熱や
彼の演奏に心揺さぶられてしまったから・・・。
それは止むに止まれぬ気持ちから始めたことではあったのですね。
しかし、スティーブが深入りしようとすればするほど、
ナサニエルの精神状態は不安定となってゆく。

たとえ統合失調症であっても、それはその人の有り様なのかも知れません。
私たちが正常と思っていることがすべてではないし、
それが正しいというわけでもない。
人はそのありのままで、受け入れられるべきなのでしょう。
立派な家に住んで、多くの人の前で演奏し、賞賛され・・・。
音楽の究極は、そういうことではないのですね。
ナサニエルはただひたすらに音楽が好きで、
音楽を奏でられればそれで幸せ。
それ以上は必要ないのです。

最後の方で,ナサニエルがスティーブに投げかける言葉にギクリとします。
「あんたは俺をナサニエルと呼ぶ。
こっちはずっと、ミスター・ロペスと呼んでいるのに。
ミスター・エアーズと言えよ!」
そうなんですね、見ているこちらも、
ほとんど疑問を持たずにいてしまいました。
路上生活者で、統合失調症で・・・、
そんなことだけで、スティーブは自分を相手より優位に置いてしまっていた。
しかし、虚をつかれ落ち込むスティーブは、やはり好人物。


それにしても、ロサンゼルスは路上生活者であふれていますね。
大都会、美しい幾何学模様に張り巡らされた高速道路。
高層ビルの群れ。
しかし、その足元に、
私たちが普段目にしない、ロスの姿がある。
大きな社会問題ではありますが、
でも、そこに暮らす人々の心は
案外にたくましくリッチなような気がして・・・。
自分自身が思っている「幸せの形」って、
いかにも偏った思い込みなのかもしれない・・・と、
なんだか、目からウロコが落ちたような心地がするのでした。

2009年/アメリカ/117分
監督:ジョー・ライト
出演:ジェイミー・フォックス、ロバート・ダウニーJR.
   キャサリン・キーナー、トム・ホランダー

路上のソリスト 日本版予告編 The Soloist Trailer Japanese