映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

グッバイ、レーニン!

2008年03月24日 | 映画(か行)

(DVD)
1989年。まもなく20年にもなるのですね。ベルリンの壁崩壊から。
私たちはこの出来事を「西」側から見て知っているわけですが、この映画では「東」側の視点で描かれているところがポイントです。

ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツ。
青年アレックスは改革を求めるデモに参加しているのを母親に見られてしまいます。
母、クリスティアーネは熱心な共産主義者。
それで、ショックを受け、心臓発作を起こして昏睡状態になってしまいます。

その後、ベルリンの壁は崩壊し、一気に民主化が進む。
たちまち家の中にも西側のものがなだれ込み、町にはコカコーラの看板があふれる。
姉は西から進出したファーストフードチェーン店のバイトを始めるし、その彼も西の男性。

そうして、8ヵ月後、奇跡的に目覚めた母は、その間のことを何も知らない。
医師が、ショックを与えてはいけないというので、
アレックスは、この8ヶ月の出来事など無く、今も東ドイツの体制がそのまま続いていると、母親にうそをつくことを決心。

それがまた大変に涙ぐましいのです。
まわりの状況はたった8ヶ月で激変。
昔からの商店は消え、スーパーの棚には、西から来た商品ばかり。
母のお気に入りの食べ物を手に入れるのも四苦八苦。
ゴミ捨て場から古いビンを拾ってきて詰め替えたり・・・。
映画オタクの友人の協力で、インチキのニュース番組を作ったり・・・。
近所の人に頼み込んで話を合わせてもらったり・・・。
あっという間に、これまで当たり前だったものが当たり前でなくなる。
信じていたものの価値が、なくななってしまう。
こんんな愚かしさを、ちょっぴり皮肉をこめて伝えていると思います。

しかし、このアレックスのここまでの執念、母への愛。
これもまた、感動モノではあります。
姉の方はとっくにあきらめ、投げ出したくなっているというのに。

体制が変わっていない偽装に加えて、つじつまを合わせようとするうちに、
いつの間にか、新しい歴史まででっち上げることになっていくんですね。
それが、はらはらするうちに、なんとベルリンの壁が崩壊し、西側の人々がなだれ込んでくるという現実とうまく合致させてしまうという、離れ業をやってのける。
経済が破綻し、難民として西側の人々がなだれこみ、東はそれを温かく受け入れた・・・という筋書き。
見事な着地でした。
こんな顛末をユーモアを交えて語る、オススメの作品です。


2003年/ドイツ/121分
監督:ヴォルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール、カトリーン・ザース、チュルパン・ハマートヴァ、マリア・シモン