映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「空からきた魚」 アーサー・ビナード 

2008年03月19日 | 本(エッセイ)

「空からきた魚」 アーサー・ビナード 集英社文庫

また一人、好きな作家が増えました。
この本はエッセイ集ですが、作者アーサー・ビナード氏はアメリカ生まれ、アメリカ育ちのれっきとしたアメリカ人。
22歳の時にふらりと日本にやってきて、それから日本語を猛勉強。
瞬く間に、下手な日本人よりよほどましで美しい日本語を身につけてしまった。
2000年には、詩集「釣り上げては」で中原中也賞。
2005年「日本語ぽこりぽこり」で、講談社エッセイ賞受賞。
このようなエッセイを仕立てることだけでも感嘆しますが、その内容が、どれも心にしみるいい話なのです。
持ち前のユーモア、好奇心で楽しませてくれる。
日本での体験、時にはアメリカでの子供の頃のこと、話のタネは世界をめぐります。
そしてまた、ずっと日本にいては気づかない、他国の文化から見た視点・発想。
こんなところにも、このエッセイの楽しさの理由があります。

彼が日本で生活するようになったわけは、この本の表題にもなっているエッセイ「空からやってきた魚」に記されています。
彼の妹は科学者で水の浄化の研究をしているそうなのです。
下水処理場に出張することもあるのだけれど、そこに浄化槽がいくつかあって、汚い水がきれいになるにしたがって第一次浄化槽、第二次浄化槽・・・というように水が流れていく。
第一次浄化槽には、微生物くらいしかいないけれど、第3次ともなると魚が泳いでいる。
その魚は、人間が放ったものではないという。
ではどこから来たのか?
それは鳥が上空を飛びながら落とした糞に、たまたま魚の卵が入っていた、というもの。
彼は、このことにたとえて、自分もたまたま、ほんの偶然に空から落ちてきて、ここに住み着いただけ、というのです。
また、彼自身二十歳前後の頃に、どうにも自分の国になじめない気がしていた、というようなことも記されています。
俳句や謡曲もたしなむ彼は、もしかすると、日本人の心にとても近いものを持っているのかもしれません。

実は、我が家には今アメリカで暮らしている家族がいまして、言ってみれば、彼女も空を飛んで、ニューヨークの魚となっている。
しかし、彼女にはニューヨークの水の方がこちらよりも合うらしい・・・。
おかしなものですね。
いろいろな国にいろいろな人がいる。
だから人間っておもしろい。

満足度★★★★★