映画と本の『たんぽぽ館』

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ぼくが生きてる、ふたつの世界

2024年10月08日 | 映画(は行)

聴こえる世界、聴こえない世界

* * * * * * * * * * * *

五十嵐大さんのエッセイ
「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と
聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」
を映画化したもの。

宮城県の小さな港町。
耳の聞こえない両親の元で、愛情を受けて育った五十嵐大(吉沢亮)。

幼い頃には母の“通訳”を務めたりもしました。
しかし、成長すると共に、
周囲から特別視されることに戸惑いやいらだちを感じるようになります。
そして、母を疎ましく感じるように・・・。

20歳。
大は逃げるように上京し、誰も自分の生い立ちを知らない大都会で、
アルバイト生活を始めます。

聞こえない両親の間に生まれた聞こえる子どもを「コーダ」と呼びます。
その特殊な状況で迎える子どもにとっての困難なことについては、
丸山正樹さんの小説に詳しく描かれています。
本作は、まさしくその「コーダ」であるご本人、
五十嵐大さんの体験談なので、リアルなコーダ事情を伺うことができます。

大は生まれたときから両親と共に生活していたわけなので、
ろうの両親のことを当たり前に受け入れて、
普通に話すこともできて、手話もできるのです。
(母親の両親と同居なので、言葉はそちらから覚えたか?)

子どもが泣いていても気づかないこともあって、
子育ては少し大変だったかも知れませんが、
お母さんの一生懸命さに愛情が伝わります。

大が小学生の頃のある日、友人が家に遊びに来て、
大のお母さんの話す言葉が「ヘン」だと言います。
そんなことから、大は自分の母親を恥ずかしいと思うようになってしまいます。
参観日のお知らせのお便りも、親に見せずに捨ててしまいます。

また大は、障害のある両親ということで
自分は世間から「かわいそう」と思われていることにも傷ついてしまいます。
それまで自分のことを不幸だなどと考えたこともないのに・・・。

思春期に入ると大の反抗的態度はますます酷くなっていきますね。
それも仕方のないことかな・・・。
でも私はやはり母親の立場に立ってしまって、
息子の冷たい態度に何も言い返すことができず、
ただただ悲しく困り果ててしまうお母さんを、そっと抱きしめたくなってしまいました。

大は、上京しパチンコ屋のバイトの後、小さな出版社で働くようになりますが、
親と離れ、働き、様々な人と暮らすうちに、彼自身も成長していきますね。

いつしか、自分が母親に放った酷い言葉や態度が
どれだけ母親を傷つけてけていたかが分るようになってくる。

振り返ってみると、本作はコーダの話ではありますが、
実は一般的な家族、子どもと親の関係というのはまったく同じですよね。
決して特殊な話なんかじゃない。

親というのはありがたいものです。
ご両親の結婚前エピソードもステキだったな。

<シネマフロンティアにて>

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

2024年/日本/105分

監督:呉美保

原作:五十嵐大

脚本:港岳彦

出演:吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつ子、でんでん

 

親の愛度★★★★☆

反抗期度★★★★★

満足度★★★★★



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