久しぶりに、「正しい映画」を観たという気がします。
ああ、やっぱり、これだから映画は止められない・・・。
この作品の舞台は1984年、旧東ドイツ。
ベルリンの壁の崩壊が1989年なのでそれより5年前ということになります。
当時東ドイツには「シュタージ(国家保安省)」という強力な反体制への監視システムがあり、その正式な役員のほかにもたくさんの密告者がいて、当時の国家体制を支えていた。
この、シュタージの実態等にふれることはこれまでタブー視されていたものが、この映画で、かなりリアルに再現されています。
主人公となるヴィースラー大尉は、要注意人物である劇作家のドライマンとその恋人、舞台女優クリスタの生活を全て盗聴し、記録に残す役につきます。
ヴィースラーは、もともとがちがちの体制派であり、反逆者の尋問が得意で、新人の指導教官を務めているほど。
しかし、この2人の会話を盗聴し続けるうちに、次第に心に変化が生じてくるのです。
ドライマンは、決して自由主義の思想化というわけではない。
でも、もともと、芸術家として、心が自由な人なのではないでしょうか。道路で子供と一緒にサッカーをしたり、反体制のレッテルを貼られて仕事ができなくなった友人を気遣ったり・・・。
こんな、ドライマンの自由な思想、そして2人の深く美しい愛が、もともと孤独なヴィースラーの心に何か希望の火を灯したのです。
「この曲を本気で聴いた人は悪人になれない」というピアノ曲。
その題名が「善き人のためのソナタ」です。
盗聴器から流れるその曲に、彼は心が震える気がします。
いつしかヴィースラーは、自らの職務に背き、2人の反逆行為を養護する立場へと変わっていくのです。
それはもちろん自らの立場を危うくするものですし、当の2人は、そんなことが行われていることを夢にも思っていない。
結局、一つの悲劇は起こりますが、ドライマンの身の安全は守られました。
けれども、ヴィースラーの背信は明るみに出てしまい、閑職に回されます。
このようなことがあった事実をドライマンが知るのは、ベルリンの壁崩壊のさらに何年か後。
そして、深く静かな感動が最後に待ち受けています。
そこでつい、涙が流れ落ちてしまったのは、私だけではないようでした。
ここはぜひ、自分で味わっていただきたいので、あえて、ネタばらしはしません。
さて、これが二次大戦中というのではなく、ほんの20年ほど前のことなんですね。
映画中ドライマンは自分が盗聴されたファイルを資料館で閲覧するシーンがあります。
民主化後とはいえ、そんなにあっさりと閲覧できるのもすごいと思いますが、その分量がただ事ではない。
たった一人の監視のために費やした時間、労力、器材等の費用・・・を考えると、改めて唖然とさせられます。
そんなくだらないことのために・・・。
そんなことをしなくては国の体制を支えられないと考えるところも、涙が出そうなくらい情けないですね。
でも、多分同様のことがまだ、すぐご近所の国でも行われているのでしょう・・・。
わが国も、そんなことにならないようにと、祈りたくなってしまいます。
そうなったら、ブログなんて、真っ先に標的ですよ・・・。
主演のウルリッヒ・ミューエ自身、過去にシュタージに監視されていた経験があるそうです。そう聞くと、ぐんと現実味をおびてきますね。
彼があと20歳くらい若いときを見たかった気がします。きっと、ステキですよ。いえ、今も十分ステキなおじ様ですが。
善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD] | |
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク,ガブリエル・ヤレド | |
アルバトロス |
2006年/ドイツ/138分
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
キャスト:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ