goo blog サービス終了のお知らせ 

映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

少年と犬

2025年03月26日 | 映画(さ行)

一匹の犬の、奇跡の旅

* * * * * * * * * * * *

馳星周さんの原作は大好きだったので、映画化された本作も待ちかねていました。

震災から半年後の仙台。

和正(高橋文哉)は、震災で飼い主を亡くした犬の多聞と出会います。
聡明な多聞は、和正とその家族にとっても大切な存在となります。
でも、多聞はいつも南の方角を気にしている様子・・・。

ある時、お金のために危険な仕事に手を染めた和正。
そのどさくさのうちに、多聞は姿を消してしまいます。

その後。
場所は滋賀県に移ります。
悲しい秘密を持つ美羽(西野七瀬)が、多聞と出会います。
多聞と過ごすことで、平和な日常を取り戻していく美羽。
そして、彼女の前に、多聞を追ってきた和正が現れ、二人は親しくなっていきます。
この時、多聞はしきりに西の方向を気にしている様子。

さて、多聞が本当に目指す先とは・・・?

原作では、多聞はもっと多くの人々と関わりを持ちながら、
徐々に、真の目的地へと近づいていきます。
映画でそれをすべて描いていては散漫になってしまいそうですので、
多少エピソードを割愛したのはやむを得ないところですね。

いずれにしても、多聞がかかわる人々はどこか「死」の匂いを漂わせる人たち。
けれど、多聞といることで心がほぐれて、
己の運命に向き合うようになっていくのです。

 

多聞が最終的に向かうところにもやはり「死」が近くにあるのだけれど、
でも、多聞が目指していたのは「光」ですよね。
だから、つらく悲しくはあるけれど、暗くはない。
そう思わせてくれる作品でした。

小説ではそうなっていないのですが、
本作では、多聞の旅にずっと「和正」が付きそうのです。

「和正」には多聞の目的地は分からないから、ただ付いていくだけなのですが、
それでも、多聞がひとりぼっちではないところが、すごくいい演出だと思いました。

馳星周さんの原作ならこんな展開はそぐわない感じなのですが、
本作には本作なりの情感。
これも悪くはありません。

 

<シネマフロンティアにて>

「少年と犬」

2025年/日本/128分

監督:瀬々敬久

原作:馳星周

脚本:林民夫

出演:高橋文哉、西野七瀬、伊藤健太郎、伊原六花、江口のりこ、柄本明、斎藤工

犬の聡明度★★★★★

満足度★★★★.5

 


「ミステリと言う勿れ15」田村由美

2025年03月24日 | コミックス

ライカさ~ん、本当にもう会えないの???

 

 

* * * * * * * * * * * *

ついにライカと迎える桜の季節に整は…!?
入院中のライカの願いで、整は自身が通う大学のキャンパスを案内することに。
そうするうち、かつて構内で起こった不可解な転落死の謎を知って…!?
そして、ついに訪れる桜の季節に
ライカが整へ告げた言葉は…

* * * * * * * * * * * *

 

お待ちかね、「ミステリと言う勿れ」最新刊です。

本巻の表紙はライカさん。
表紙イラストが整くんでないのは、ガロくんにつづいて二人目。
ライカさんは、本作には欠くことができない重要な登場人物なのですが・・・。

 

まずは前巻の続きで、ライカに大学キャンパスを案内する整くん。
そして、かつて構内で起こった不可解な転落死の謎の解決編。
思いも寄らない顛末の末に起こった転落死。
その後のとある人物の行動によって、一層謎が深まってしまっていた・・・。
「ミステリと言う勿れ」とは言いながら、これは立派なミステリですよねえ・・・。

 

さて、ところでいよいよ春。
桜が咲き始めます。

ということはつまり、整くんとライカさんの別れの時。
この後はおそらく2度と会うことはないであろう二人。
・・・ここの詳しい説明は記さないでおきますので、
ぜひ本作のはじめから読んで確認ください・・・。

その最後の二人で過ごす夜に、ライカさんが言うのです。

「キスしてもいいだろうか」

ハッとして、戸惑い、逡巡する整くん。

なんとここから丸5ページ、足かけだと7ページ、
整くんが無言で悩んでしまう図がつづきます。
普通の漫画では考えられない構図。
これまで描いてきた整くんの描写の実績があればこそ、できることだと思います。

いや、ただ単に整くんがウブだから悩んで答えられないのではなくて、
「千夜子」という女性のことを思うからこそなんです。

でも初キッスのチャンスをみすみす逃した整くん。
切ないな~。
そしてその先は、切ないを通り越して、本当に悲しい・・・。

ライカさんは、消えてしまいました・・・。
その喪失感はまことに大きい。

 

それで、本作15巻なんですが、つまりこの15巻で、
整くんがライカさんと出会ってから3か月しかたっていないってことなんですよね。
うそ~。
まことに密な3か月ですね。
整くんはほとんど週に1度くらい何らかの事件に遭遇しているのでは・・・?

そして今になってまだ、語られていない大きな秘密があるらしいというのに又驚かされます。
ライカさんが最後に言い残したこと。

「天達先生に気をつけろ」

なんだかこの秘密は知りたくない気がするけれど・・・。
おそらくガロくんが追っている真実とも関係してくるのでしょう。

ますます、目が離せなくなりそうです。

 

「ミステリと言う勿れ15」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★★


バッドボーイズ RIDE OR DIE

2025年03月22日 | 映画(は行)

若いときよりも「命がけ」が身にしみる

* * * * * * * * * * * *

お騒がせ刑事コンビ「バッドボーイズ」のシリーズ第4弾。

何しろ第一作は1995年とか。
えっ?! 30年も前なのですか。
ほんのちょっと前のような気がするけれど・・・。
でも、私、3作目は見たのだろうか・・・?と不安になりましたが・・・。
はい、大丈夫。
ちゃんと見ています。
内容忘れてたら見てないのと一緒かも、とは思いますが・・・。

マイアミ市警のベテラン刑事コンビ、マイク・ローリー(ウィル・スミス)と、
マーカス・バーネット(マーティン・ローレンス)。

2人が敬愛する、今は亡き上司ハワード警部に、
麻薬カルテルと関係があったという汚職疑惑が持ち上がります。
無実の罪を着せられたハワード警部の汚名をすすぐべく、
独自に捜査に乗り出すマイクとマーカス。
しかし、2人とも容疑者として、警察からも敵組織からも追われる身となってしまいます。
上司が残した「内部に黒幕がいる」というメッセージを胸に、
命がけの戦いに身を投じていく2人・・・。

麻薬カルテルと癒着する警察上層部の闇・・・。
ありがちな話ではありますが、
飛行機墜落の危機とか、ほとんど戦争のような打ち合いのシーンとか、
なかなか迫力がありました。

マイクもマーカスも、もうそれなりの年ですが、
アクションシーンの描写技術の向上の故なのか、ぜんぜん見劣りしないと思います。

本作には、獄中にいるマイクの息子(前作参照)も登場。
やっぱり若者は体力・気力共に充実してるなあ。
若い登場人物はやはり必要なんですね。

それから、本作中で、マーティンが心臓発作で倒れて、臨死体験をします。
無事命を取り留めますが、その後彼の言動が
どうもスピリチュアル方向に寄っているのがなんともおかしい。
こういうところにやっぱり年齢が出てしまうけれど、それも又良し。

どうでもいい話をダラダラ続けるだけのシリーズものもありますが、
本作については、この一話の存在価値がちゃんとある、楽しめる一作でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「バッドボーイズ RIDE OR DIE」

2024年/アメリカ/115分

監督:アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー

出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、バネッサ・バジェンス、ジョー・パントリアーノ、
   アレクサンダー・ルドウィグ、ジェイコブ・スキピオ

アクション度★★★★☆

正義心度★★★★☆

満足度★★★★☆


52ヘルツのクジラたち

2025年03月21日 | 映画(か行)

聞き届けてくれる人はきっといる

* * * * * * * * * * * *

母親に支配され、ただ義父の介護にのみ生きて、
ほとんど自分をなくしていた貴瑚(杉咲花)。

ある出来事の後、1人で海辺の町の一軒家に越してきます。
そこで彼女は母から「ムシ」と呼ばれ虐待されている、
声を発することができない少年と出会います。

貴瑚は少年との交流を通し、
かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれた
アン(志尊淳)との日々を思い起こしていきます・・・。

 

アン(岡田安吾)はかつて、貴瑚の苦境に気づき、
義父の介護の公的な手続きや施設の世話、
そして支配的母親からの解放を図ってくれたのです。
貴瑚は当然のごとくアンにひかれ、ついには告白をするのですが、
アンは「いつも君の幸福を願っている」と言うだけで、受け入れてくれません。
どうもアンには貴瑚にも言えない秘密があるようなのです。

失意の貴瑚は、やがて別の青年を愛するようになるのですが・・・。
その先の出来事はさらにつらい・・・。
確かにこんなことがあれば、1人で見知らぬ町に住みたくなってしまうかも、ですね。

題名の「52ヘルツのクジラ」というのは、
他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く
世界で一頭だけの孤独なクジラのこと。
このクジラのように、自分の声は誰にも届かないと思い、
孤独に陥る人が本作には登場するわけです。

以前の貴瑚、虐待される少年、そしてアンも・・・。

でも、貴瑚の声をしっかり聞こうとしてくれた人がいた。
今、少年の声を貴瑚が聞こうとしている。
では、アンの声は・・・?

もう少し、ほんのもう少し、アンが心を開いて声を発してくれさえすれば・・・。
無念さが滲みます。

 

本作のアンの役は、やはり志尊淳さん以外には考えられないくらい、はまり役でした。

<WOWOW視聴にて>

「52ヘルツのクジラたち」

2024年/日本/135分

監督:成島出

原作:町田そのこ

脚本:龍居由佳里

出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬

虐待度★★★★★

孤独度★★★★☆

満足度★★★★☆


若き見知らぬ者たち

2025年03月19日 | 映画(わ行)

まっとうに生きたいと思っているのに

* * * * * * * * * * * *

風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金返済のため、
難病を患う母の介護をしながら、昼は工事現場で働き、
夜は両親の開いたカラオケバーで働く青年。

同居するその弟・壮平(福山翔大)は、父の背を追って始めた総合格闘技の選手となり、
彼も又、バイトと介護に励みながら、練習に明け暮れています。

毎日を生きることに必死で、介護や借金の問題はいつになったら終わるのかも分からない・・・。
八方塞がりのような状況の中で、
彩人には恋人である日向(岸井ゆきの)と小さな幸せをつかむことが、ほんの少しの希望となっています。

しかし、彩人の友人・大和(染谷将太)の結婚のお祝い会が開かれる夜、
思いも寄らぬ暴力で、ささやかな日常が脆くも崩れ去ります・・・。

 

彩人と壮平の母は、脳を患っていて、言動が幼児のようになってしまっているのです。
ふらふらと外に出てスーパーでは勝手にものを持ってきてしまったり、
よその畑を荒らしてしまったり・・・。
家では大量に炒り卵のようなものを作ったり、
水道が出しっぱなしで洪水のようになってしまったり。
本来ひとときも目を離すべきではないけれど、つききりでは生活が成り立ちません。

それでもこの兄弟は半ばあきらめてはいるのですが、辛抱強く母に寄り添います。
彩人の彼女・日向は看護師として病院に勤務していますが、
この兄弟と母のことを気にかけて優しく寄り添う。

そう、みな人並み以上に気持ちはまっとうで、少しでも今の生活を良くしたいとは思っている。
けれど、時間の許す限り働いて、母の世話をして、頑張っても、生活の苦しさはかわらない・・・。

なんという息苦しさ・・・。
彼らはこんなことは人に訴えてもどうにもならないと思っているし、
また、知られたくないとも思っているようです。

そして、彩人の運命はあまりにも理不尽・・・。

 

作中、登場人物が拳銃で頭を撃ち抜かれて倒れ伏すというシーンが何度か出てきます。
それは、実際の出来事としてではなくて、「イメージ」。

生きているという実感も喜びもなく、ただしかたなく生きている
という状態は「生」ではないのだとでも言うように・・・。

でも、本当にそうなのか。
彩人は、本当はどうするべきだったのか。

そう問われても、私には答えは見つからないのですが・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「若き見知らぬ者たち」

2024年/日本・フランス・韓国・香港/119分

監督・脚本:内山拓也

出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、霧島れいか、滝藤賢一、豊原功補

理不尽度★★★★★

生活困窮度★★★★☆

満足度★★★☆☆