原題:『Agatha Christie's Poirot The Million Dollar Bond Robbery』
監督:アンドリュー・グリーブ
脚本:アンソニー・ホロヴィッツ/クライブ・エクストン
出演:デビッド・スーシェ/ヒュー・フレイザー/ポーリン・モラン/エヴァン・ホッパー
1991年/イギリス
ポワロとヘイスティングスの「思考回路」の違いについて
1936年の戦時中にロンドン・スコティッシュ銀行が100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てるのだが、クイーン・メリー号に乗って公債の運送を担ったショー部長が車で轢かれそうになったり紅茶に毒を盛られたりしたことから、ショー部長の部下であるフィリップ・リッジウェイと共に護衛としてポワロとヘイスティングスが付き添うことになる。
個人的にはポワロがリッジウェイの婚約者であるエズミー・ダルリーシュの話を思い出しているシーンが興味深い。ポワロは公園の水辺でクイーン・メリー号の模型を浮かべて遊んでいるジョナサンと彼の母親を見つめている。
ところが母親はジョナサンと家に帰ろうとするのだが、何故か模型のクイーン・メリー号は水辺に置き去りにしてしまうのである。
敢えてネタバレをするが、おそらくポワロはこの場面に事件の暗喩を見いだし、クイーン・メリー号に「関わらない」母親と男の子に犯人をダブらせ、クイーン・メリー号に乗船していない人物であるショー部長と彼を「看護」しているロングが犯人だと分かったのである。正確を期するならば乗客のミランダ・ブルックスとロングは同一人物なのであるが、そのことを知ったヘイスティングスは「美人」と「不美人」が同一人物だと全く気付いていなかったのである。ここに俯瞰で事件の「構造」を把握できるポワロと目の前のことに一々翻弄されてしまうヘイスティングスとの差が明確に現れるのである。