MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『アメリカン・アニマルズ』

2019-05-23 12:22:11 | goo映画レビュー

原題:『American Animals』
監督:バート・レイトン
脚本:バート・レイトン
撮影:オーレ・ブラット・バークランド
出演:エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ブレイク・ジェンナー/ジャレッド・アブラハムソン
2018年/アメリカ・イギリス

「視覚」の甘さについて

 最初に冒頭で引用されるチャールズ・ダーウィンの『種の起源(On the Origin of Species)』の当該箇所を書き出して和訳してみる。

「私の見解では、ヨーロピアン・アニマルズがヨーロッパの洞窟に移住したように、外の世界の次世代の者たちよってじわじわと移住してきたアメリカン・アニマルズはいつもの想像力を駆使しながらケンタッキーの洞窟のさらなる奥へ移住したと考えざるを得ない。(On my view we must suppose that American animals, having ordinary powers of vision, slowly migrated by successive generations from the outer world into the deeper and deeper recesses of the Kentucky caves, as did European animals into the caves of Europe.)」

 本作は2004年にケンタッキー州のトランシルヴァニア大学の図書館で起きた時価1200万ドルを超えるジョン・ジェームズ・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』の窃盗事件を当事者のインタビューを挟みながら再現されたものである。
 引用された文章で重要な箇所は「いつもの想像力(ordinary powers of vision)」という部分だと思うが、「Vision」は「視覚」と捉えた方が分かりやすいであろう。つまり盗みを働いた4人は、つまらないありきたりの日常を変えるために高価な画集に目をつけ、『レザボア・ドッグス(Reservoir Dogs)』(クエンティン・タランティーノ監督 1992年)のような犯罪映画を参考に計画を立てるのであるが、当然のことながら映画を観る上で「視覚」は重要になる(因みにケンタッキーの洞窟とはプラトンの『国家』の「洞窟の比喩(Allegory of the Cave)」を暗示していると思うが、繁雑になるので詳細は省く)。
 4人は老人に扮してまで窃盗を実行しようとするのだが、いざとなったら計画の詰めの甘さが晒されるのである。例えば、最初の実行日には図書館の秘書が4人もいたために敢えなく諦めて翌日にしたり、いざ実行してみると秘書を気絶させるために使うつもりだったスタンガンの威力が弱く、秘書を黙らせることができず、肝心の画集の『アメリカの鳥類』は重すぎて盗み損なってしまい、その後のクリスティーズのオークションハウスでも自分の携帯電話の番号を教えてしまいあっけなく逮捕されてしまうのである。
 つまり4人の「視覚」の甘さが露呈するのであるが、ラストにおいて4人の一人であるスペンサー・ラインハードは地元で鳥の絵画を専門とする画家として暮らしているのであるが、それはオーデュボンが描く鳥とは大きくかけ離れたクオリティーで、ここでも「視覚」の甘さが描かれているのであり、つまり下のポスターのイメージの対比のようなものである。


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『ダンボ』(2019)

2019-05-23 00:59:31 | goo映画レビュー

原題:『Dumbo』
監督:ティム・バートン
脚本:アーレン・クルーガー
撮影:ベン・デイヴィス
出演:コリン・ファレル/マイケル・キートン/ダニー・デヴィート/エヴァ・グリーン
2019年/アメリカ

真実味をもたらす「過渡期」について

 ティム・バートン監督の作品を全て観ているわけではないのだが、バートン監督の作風として何でも「デフォルメ」しがちという印象がある。ところが本作は元々ファンタジーのアニメーションということもあって逆に、ダンボたちのCGの造形のみならずリアルを追求しているところが功を奏したのではないだろうか。
 時代背景は第一次世界大戦終了後の1919年で、戦場から戻って来たホルト・ファリアは左腕を失っている描写もリアルで、さらにそれまで移動しながら上演していた「メディチ・ブラザーズ・サーカス」が所定の場所でV・A・ヴァンデヴァーが経営する「ドリームランド」に合併されるというエンターテインメントの進化や、ラストでは1903年と1911年の二度ノーベル賞を受賞しているマリ・キュリーに憧れて発明家になることを目指していたホルトの娘のミリーがダンボのイメージを使って映写機を操っている。
 既に分かっている通りに、その後人類は再び戦争を始めるし、会社の合併は従業員たちの混乱を生じさせ、女性の地位が向上するわけでもなく、ホルトの義手も含めて必ずしも上手くいってはいないのだが、その「過渡期」が却ってリアルさを増し「ファンタジー」に真実味をもたらしていると思うのである。


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