原題:『奇跡のリンゴ』
監督:中村義洋
脚本:中村義洋/吉田智子
撮影:伊藤俊介
出演:阿部サダヲ/菅野美穂/池内博之/伊武雅刀/原田美枝子/山崎努
2013年/日本
「村八分」の恐怖
こうして無農薬リンゴの栽培方法が分かってしまうと、意外と簡単だったように思ってしまうのであるが、主人公の木村秋則が追い詰められて、自殺を試みようとした山野で見つけた実の成っている1本の樹をヒントに、木村美栄子の父親の木村征治の南アジアの戦地において食料を手に入れるために農薬がなかったところからナスや芋を育てた体験談(予算不足のせいなのか映像として描かれることがないのが残念)を思い出し、ようやく得られた、「手を加える」のではなくて「手を抜く」というコペルニクス的転回はやはり時間をかけた試行錯誤を経なければならなかったのであろう。
このようなリンゴを巡る話に負けず劣らず興味深かった挿話は、高熱を出して倒れた木村雛子を病院に運ぶために、深夜に秋則と美栄子が近所の家にクルマを借りようと頼むのであるが、結局借りることが出来ず、秋則が雛子をおんぶして病院に行ったところで「村八分」の怖さがさりげなく描かれていた。
「一つのことに狂えばきっと答えは見つかる」という秋則の言葉は確かにその通りなのであるが、「狂う」ことは努力して出来るようなものではなく、生まれ持った素質であるのだから、やはり幼い頃から育まれた好奇心と共に、妻の美栄子をはじめとする家族に対する愛情が旺盛だった秋則だからこそ出来た偉業としか言いようがない。