原題:『はじまりのみち』
監督:原恵一
脚本:原恵一
撮影:池内義浩
出演:加瀬亮/田中裕子/ユースケ・サンタマリア/濱田岳/宮あおい
2013年/日本
「田中」の「めぐみ」
加瀬亮が演じる木下惠介が思わず指で輪を作って覗いてしまう、学校の先生と子供たちは『二十四の瞳』(1954年)の、便利屋のカレーライス好きは『破れ太鼓』(1949年)の引用の伏線となるなど、本作は木下惠介監督作品の素材が散りばめられたものとなっている。もちろんそれはメインとなる惠介と彼の母親である木下たまの疎開先である浜松市の気賀までの徒歩による長い道程のシーンにも当てはまることで、軍服を着た惠介と、病気を患い話すことも歩くことも困難でリアカーに乗せられている、田中裕子が演じるたまは、『陸軍』(1944年)において軍服を着て出征する伸太郎を、息子の名前を叫びながら田中絹代が演じる母親が‘歩いて’息子の後を追いかけるという夢のようなショットにつながり、2人の田中が似ているだけにさらなる感動をもたらすのである。
引用が多用されているこの作品の感動が‘恵一’の作品のものなのか‘惠介’の作品のものなのか微妙ではあるが、佳作であることは間違いない。