原題:『Oblivion』
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:ジョセフ・コシンスキー/カール・ガイダシェク/マイケル・アーント
撮影:クラウディオ・ミランダ
出演:トム・クルーズ/オルガ・キュリレンコ/アンドレア・ライズボロー/モーガン・フリーマン
2013年/アメリカ
「追憶」のアポリア
タイトルの「オブリビオン」とは「忘却」という意味であるが、よくよく考えてみるならば自分が忘却しているのかどうかは、忘却しきれない部分が残っているからこそ分かることである。主人公の元海兵隊司令官ジャック・ハーパーは完全に忘却出来てさえいれば問題は無かったのであるが、時々夢の中に現れる女性が気になり、その「夢に現れる女王(The Queen of all my dreams)」を探すと歌う、レッド・ツェッペリンの「Ramble on」と、恋人が戦死したことを教えられた女性の顔が少しずつ青ざめていく様子を歌った、プロコル・ハルムの「青い影(A Whiter Shade of Pale)」の2曲で本作のストーリーの核心をほのめかし、その‘懐メロ’を聴きに立ち寄る部屋にはアンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界(Christina's World)」が掲げられている。
このポップカルチャーを利用した追憶の描き方が素晴らしいのであるが、本作はただ昔を懐かしむという懐古趣味では終わらない。主人公であるはずのジャック・ハーパーは実は‘本物’ではなく「49番目」の彼のクローンだった。「49番目」のジャック・ハーパーは「テット(Tet)」を破壊するために自らの命を投げ出してマルコム・ビーチと共に‘戦死’する。残された恋人のジュリア・ルサコヴァは3歳になる娘と共に地球で暮らしていると、ある日、死んだはずのジャック・ハーパーが現れる。感動の再会となるはずであるが、そのジャックが「52番目」のクローンであることを知っている観客は‘同じ’ジャック・ハーパーであるにも関わらず素直に感動出来ない。しかしそれは演出の間違いではないであろう。再会したジャック・ハーパーがクローンであることはジュリアも分かっており、だから2人は抱き合うようなことはなく、わざわざ距離を置いて再会を喜んでいるはずなのである。問題なのは遺伝子工学によるクローンの登場によって追憶が不可能になってしまうことであり、それが愛の概念を変えてしまうことなのであるが、それは遺伝子操作を待つまでもなく、最近、話題になっている「3Dプリンター」の出現で既に脅かされているのかもしれない。