原題:『俺はまだ本気出してないだけ』
監督:福田雄一
脚本:福田雄一
撮影:早坂伸/工藤哲也
出演:堤真一/橋本愛/石橋蓮司/生瀬勝久/山田孝之/濱田岳/水野美紀
2013年/日本
自由という「感染力」
主人公のバツイチの大黒シズオは、42歳で「自分探し」のために会社を辞めてみたものの、具体的な目標は持っておらず、朝からサッカーのゲームを楽しんでいる有様なのだが、ある日、本屋で立ち読みをしていた際に、突然の‘天啓’により「ファーストキッチン」でバイトをしながら漫画家を目指すことになる。
このシズオの楽観性は意外と‘感染力’が強く、シズオ本人は漫画家としてなかなかデビュー出来ない状況にあるにも関わらず、相談にのっていた幼馴染の宮田修まで会社を辞めてシズオのバイト仲間の市野沢秀一を誘ってパン屋を開業することになり、シズオを担当していた「中学館」の編集者の村上政樹も会社を辞めてしまい、シズオの一人娘である高校生の鈴子までも風俗で働くようになる。
一人の男により周囲の人間がおかしくなっていくストーリー展開は『テオレマ』(ピエル・パオロ・パゾリーニ監督 1968年)を想起させるが、何故シズオが会社を辞めることになったのか、あるいは何故シズオが妻と離婚し、鈴子を引き取って一緒に暮らすことになったのか、ストーリーの核心が描かれていないために物語に深みが無く、『HK/変態仮面』(2013年)のような突き抜けた笑いも無く、『コドモ警察』(2013年)のような‘物悲しさ’も無く、中途半端な感じは否めない。少なくとも本気を出し続けているにも関わらず、くすぶっている人たちにとっては何の参考にもならない。