山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

最高の愛を込めて葬(オク)るこもごもの事情

2024-08-10 21:22:28 | アート・文化

 第40回日本アカデミー賞(2017年)を受賞した映画のDVD「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年公開)を見る。出演した宮沢りえが最優秀主演女優賞、杉咲花が最優秀助演女優賞・新人俳優賞、監督の中野量太が優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞を獲得するなど、日本アカデミー賞を総なめにする。なるほどそれだけの展開がサスペンスではないのに家族の事情が次々剥がされていく。

 

 主演の母・双葉(宮沢りえ)は、余命二カ月を宣告される。そこで、銭湯を経営しながらも蒸発した夫(オダギリジョー)を連れ戻し、銭湯を再開させる。そして、学校でいじめの対象だった娘(杉咲花)を自立させ、とある人に会わせる行動に出る、というストーリーだ。

 

 無責任極まる夫を飄々と演じる夫・オダギリジョーの軽さの中に優しさを感じさせる演出も素晴らしい。その無責任さを追及せず自立を促す妻・宮沢りえの懐の深さ、病床での表情も見事だった。母の死をテーマにしながら明るく前向きに観る者の心を揺さぶる監督の手腕、ストーリーのあっと言わせる意外性が涙と笑いとを同居させる。

 

 劇中の中盤で、娘がなにげなく手話を通訳するがその意味が後半で大きな意味を持つことがわかってくる。また、夫を探してくれたわけありの子連れ探偵(駿河太郎)のかかわりとか、ヒッチハイクの青年(松坂桃李)などの登場は、見終わったときに碁石のようにその意味が主題を深めていく。

   

 登場人物の背景がことごとく剥がされていく。そこに様々な哀しみや生きざまがあり、そこに寄り添う母の目線が注がれる。そこに飄々とした笑いを加味した監督の豊かな余白がある。病院前の「ピラミッド」はその最たる表現だった。そこに、涙と笑いを増幅させて余りある。血のつながりが薄い家族が「熱い愛」によって自立と絆を獲得していく再生物語でもある。

 

 そうして、それらを包み込むベースが銭湯だった。母の葬式が終わってからみんなと一緒に湯に浸かったときの表情、煙突から母の好きな色・赤い煙が出ていくとか、ここでは書けないような業界驚愕のひねりが仕組まれている。総じて、母が遺した「熱い愛」をしっかり受け止めた家族の「熱い愛」が止揚される。生きていく辛さや失速のさなか、その現実を超える「熱い愛」をどこで、だれと醸成していくか、そんな視座をさわやかに用意した珠玉の作品だった。混迷するばかりの世界の中でこの「熱い愛」を身近なところから沸かしていかなければと思った次第だ。

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