山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

幽霊が出る二つの対照的な噺の名調子

2024-09-28 17:56:32 | アート・文化

  5代目圓楽の特選落語集のDVD全4巻をやっと入手した。発行はNHKエンタープライズだけに画像は鮮明で解説もついている。今まではCDだったので圓楽の表情や所作はわからなかったが、まずは、1977年上演の「お化け長屋」を見てみる。そこには三遊亭圓楽の卓越した江戸庶民の世界があった。同じ表題の立川談志の映像もTVで見たが、話術の勢いやテンポの速さはやはり名人芸の域でもある。しかし、5代目圓楽の話術は相手の心に届けようとする「間」と人間力が名人芸と言ってもいい。笑いが止まらない絶好調の珠玉の噺だった。

 

 談志は若者向けにはぴったしのスピーディな江戸の粋が出ているが、悪く言えば下品だ。圓楽は高齢者にも響く丁寧な語りの魔術があり艶やかさと上品さが漂う。オラが小さい時、近所に大陸からの引揚者の長屋があった。江戸の長屋よりもっと狭い住宅だった。でも、そこに住んでいる人たちの朴訥さは圓楽人情噺に出てくるような面々でもあった。

 さて本題に戻ると、空き室を倉庫代わりにしていた長屋の住人たちは、大家がその家を他人に貸し出すというのを阻止するために、幽霊が出るからと借りたい人を追い払う。しかしそううまくいかないのがこの噺の旨味だ。

  (画像は墨田区立図書館webから) 

 次の、「豊志賀の死」の噺は、原作は茨城で実際にあった殺人事件をヒントに創作した初代三遊亭円朝の「真景累ヶ淵(シンケイカサネガフチ)」という有名な怪談話の一節だ。「豊志賀(トヨシガ)」は独身の浄瑠璃・富本節の女師匠31歳。そこに内弟子入りした21歳の「新吉」とやはり弟子のお久、ここから怨念や嫉妬が絡まる凄惨な事件へと陥っていく。

  

 これは、歌舞伎・演劇・講談・映画・漫画などにも取り入れられ、多くの落語家も挑戦している。「お化け長屋」の面白さとちがってこちらは本格的な怪談話。圓楽はそこに深入りせずに、「年増女と枯れ木の枝は、登りつめたら命がけ」という都々逸の飄逸さを紹介しながら、怪談の深刻さをいなしていくのが見ものだ。前半は怪談話というより、幽霊は標準語でないとしまらないというように笑わせるが、さすが後半は怪談話に突入していく。

 

 「お化け長屋」で圓楽は、「本当は大家さんの方に理があると思うのですが、店賃を溜め込んで頭が上がらない連中の、報復なんです。でも、結局終わってみれば失敗だったという、いつものあれですね。」と、庶民に共感する圓楽がいる。

 「豊志賀の死」では、原作はずうっと長く緊張感の連続となる。そこに、あまり笑いを入れると噺の邪魔になる。そこで、「新吉が好きになる女は七人まで取り殺す」という豊志賀の遺書を「オチ」にして、嫉妬の残酷さを余韻を残したまま切り上げたという。二つの対照的な幽霊話が見どころ、聞きどころでもあった。 

   

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