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新政権の「アジア諸国との和解と核廃絶」政策

2010-01-05 01:50:58 | 活字の海(新聞記事編)
記:大沼保昭(明治大学特任教授、国際法)
2009年12月8日(火) 毎日新聞夕刊2面総合・文化欄より
サブタイトル:「過ちは繰り返しません」発信を
両陛下の訪問と首脳の広島招待通じ



12月8日の、開戦記念日ということもあってだろう。
当日の新聞に載っていたのが、この記事。


残念ながら…。
前提からして、よく理解できない。

民主党政権がなすべきこととして、

「戦争と植民地支配で被害を与えたアジア諸国との和解」

が、それである。

第二次世界大戦が、日本の侵略戦争であったことは自明だろう。

それを否定する積もりは毛頭無いし、アジア諸国で植民地支配を
行ったことも、又然りである。


ただ。
それが故に、氏が語るように”アジア諸国との和解”が必要という
結論に短兵急に結びつけるのは、如何なものなのか。


そも。
氏が語るアジア諸国とは、どこを指すのだろうか?


少なくとも。
21世紀の今日において。

明確に反日というスタンスを標榜し、それに依拠した政治的、
経済的行動を取っている国と言えば。

中国、韓国、北朝鮮。

この三カ国以外に有るというのであれば、是非その事例を
お教え願いたいと思う。


東南アジア諸国の中でも、フィリピン等は。
戦後、相当な期間に渡って反日感情が強かったという話は聞くが、
今日に至るまで、今尚和解や謝罪を求め続けるような国民感情が
渦巻いているという状況下では無いのではないか



タイに至っては。
マハティール元首相のルックイースト政策に代表されるように、
少なくとも上述したような反日という政治基盤はそこには見受け
られない。



国際法の専門家である氏が。
こうした実情を知らない訳も無いだろう。

むしろ、もっと根深い反日の実例が各国であるが故に、和解と
謝罪を進めるべきだという考えが氏の思想の根幹に有るのであれば。

そこをこそ、解説しなければ。
この結論を導き出し、他者を納得させることは難しいのではないか。


実際。
僕は、その時点で氏の主張を受け入れられなくなってしまったが為に。

以降の論旨がなべて納得できず、未消化のまま終わってしまった。



僕が、上述した反日の旗幟を鮮明にしている三カ国のうち、
中国と韓国は。

いずれも日本と国境を接していることもあり、地政学的に見ても
反日となりやすいことは理解できる。

しかも。
それぞれの国に於いて、その成り立ちは異なるものの。
反日は明確に政治主導で行われ、交渉カードのジョーカーとして
これまで用いられてきた経緯がある。


更に。
中国にしろ、韓国にしろ。
反日カードが、自国民のガス抜き施策としても大いに有効である以上。

これらの国々が、そのカードを容易に手放すとは到底思えない。


そうしたことを踏まえて、尚。
氏の主張するとおり、天皇皇后両陛下にそれぞれの国を訪問して戴き、
植民地支配の犠牲者に対して”悼んで”戴くことで、反日感情が懐柔
されると氏は真剣に考えているのだろうか。


更に。
氏は、その後で両陛下に真珠湾を訪れ、そこでも同じ行為をすべしと
主張する。


少なくとも。
第二次世界大戦におけるアメリカとの戦争は。

ABCD包囲網やハルノートに見られるように、アメリカ側の仕掛けに
日本がまんまと嵌った要素も多分に有るのだ。


その考えに立てば。
氏の主張する、

「オバマ大統領が広島に来る前に天皇陛下は真珠湾を訪れるべき」

というスタンスには、容易に賛同し得ない。


勿論。
氏の主張にも、首肯すべき部分はある。


「天皇による弔意表明(中略)の意義は謝罪というよりも犠牲者を
 悼むことにある。

 日本でそれを最も深くなし得るのは首相でなく、天皇皇后である。」


という見解には、全く持って同意する。


けれど。
そもそものスタート地点を間違えると、劇薬だけにとんでもない
事態を引き起こしかねないことは、氏も言及している通りである。

どのタイミングで。
どのようなお言葉で。

正に、これも氏の語るとおり、「最新の心遣いと手順」が必要と
なる。

それが故に。
冒頭で述べたように。
”アジア諸国”との和解というような乱暴な括りでこの問題を語る
ことの危険性については、しっかりと指摘したい。


(この稿、了)



東京裁判、戦争責任、戦後責任
大沼 保昭
東信堂

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