活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

好きなもの  林真理子

2008-01-20 23:25:38 | 活字の海(新聞記事編)
毎日新聞 1月20日(日)朝刊 11面 今週の本棚「好きなもの」より

言わずと知れた作家 林真理子氏の、新幹線の中で過ごす時間についてのコラム。

新幹線に限らず、乗り物での移動時間というものは非常に多様な側面を持つ。
ある人には居酒屋と化し、またある人にはベッドと化す。
そして活字フリークには、この上ない読書空間を提供してくれる。

知り合いと新幹線に乗ったりすると、会話を楽しむ余裕があるときはいいが、
今読みかけの本が佳境に入っていたりすると、じりじりと身悶えする様な
焦燥感に駆られる時もあることは、活字フリークなら誰しも経験したことが
あることであろう。


さて、作家である氏の新幹線の車中は、勿論? 読書部屋と化す。
更に、その読書部屋の友として氏が認定するものが、車内販売のコーヒーと
柿ピーナツである。

このコラムによると、氏の車中イニシエーションは、以下のとおりである。
(おそらく、下りの新幹線を念頭にしていると思われる)

 ① 新幹線に乗り込む。
 ② まず回ってきた車内販売でコーヒーを頼む。
 ③ 本を読みながら、しばしコーヒーを啜る。
 ④ 小田原辺りまで来たら、コーヒーのお変わりと柿ピーを頼む。
 ⑤ 柿ピーをぽちりぽちりと齧りながら、本の世界に埋没する。
 ⑥ たまに車窓に視線をやり、景色も楽しみながら、なおも読み続ける。
 ⑦ そうして、大阪までの3時間、至福の時を過ごす。

#うーん。
#柿ピーは(いや、柿ピーに限らず小物系は)、我慢できずについ手に受けて、
#口に流し込んでしまう僕には真似の出来ないパターンではある。
#やはり僕の友は、いきおいビールになってしまうなあ。帰路だけだけれど。

そうした3時間を持って、氏は時間というものが均質に流れていくものではなく、
個人の裁量によって如何程にもその姿を変えうるものだ、という結論を導き出す。

そして、その豊穣さをもたらしてくれる小道具である柿ピーの偉大さを讃えて、
コラムを締めくくる。


確かに、時間は誰にでも平等に流れるものである。
そのことは、どのような暦法の元にあろうと、変ることはない。
#相対性理論の下、ウラシマ効果とかが発現している状況まで含めての話では
 無論ない。あくまで一般的に体感できる時間軸を想定しての話である。

だが時に、時間はひどくゆっくりと流れ、またある時は飛び去っていく。
それは、人の感覚がもたらす時の流れの相対化によるものである。
例えば、冒頭でも述べたような、読書が佳境に入っている人の時間感覚と、
為すことも無く漫然と車窓を眺めて3時間を過ごす人のそれは、全く異なるものと
なろう。

#勿論、無為に過ごす時間が必要なことも、時と場合により有りうるが。

では、どれだけ密度の濃い時間を人は過ごすことが出来るのか?

ある漫画家は、新幹線の3時間を使って、手持ちの漫画雑誌の一つのエピソードを
取り上げ、延々と話し続けることが出来たという。

#ずいぶん昔に読んだ話なので、かなりうろ覚えではあるが。

確かに、僕達が何気なく見ている漫画のページ一つを取っても、ストーリーテリング
上の切り口、描画力といった切り口、或いは漫画家の作風や師弟関係といった
切り口等、様々な観点から議論をすることが可能である。

確かに、この網掛けは登場人物の心理描写技法として本当に最も適切か とか、
このトーンはどこのメーカー製のもので、よく見るとこの辺りは重ね張りとかも
しているようだが、一体毎週の連載でどれ位トーンを使っているのだ? とか、
一こま毎に取り出して語りだすと、話すネタにはきりが無い、と思う。
ましてや専門知識を持つ漫画家であれば、尚更同業者の書いた作品に対して、
僕達一般人よりも遥かに深いレベルで語ることが可能であろう。



まあ、たまさか漫画を一例に取り上げたが、別に夢中になれるものであれば
漫画でも雑誌でも書籍でも何でもよいのだ。

その人それぞれの関心の赴くままに、熱意と関心の元、夢中になれるものは
それこそ人の数だけ、いやそれ以上に存在するであろう。

年間4千冊以上出版される雑誌、7万冊以上出る新刊書籍、それら全てを知りたいとも、
また知りえるとも思わないが、少なくとも世の中にはまだまだ自分の知らない
”ワクワク”が満ち満ちていると考えることは楽しいし、少しでもそうした世界と
出会うべく、今日も今日とて本屋通いをしている活字フリークもいるのだ。

そのように考えるとき、人生とはなんと短いものに感じてしまえるものか!

さて、明日の出張には、どの本を鞄に仕込んで行こう?
次なる”ワクワク”に向けて、また新たな1ページを繰り出そう。

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