活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

柴崎友香の感光手帳 万博公園の森

2009-07-07 00:14:02 | 活字の海(新聞記事編)
2009年7月1日(水) 毎日新聞夕刊 6面 夕刊ワイド欄より
筆者:柴崎友香(作家)
サブタイトル:太陽の目線で眺める梢 自然に還る姿まぶしく



自分の好きなものを。
好き、と言ってもらえることは、素直に嬉しい。

嬉しくて、好きと言ってくれた人のことまで、何だか好きに
思えてくる。

かくして、今回。
僕に一方的に見初められた(笑)のは、作家の柴崎友香さん。


その柴崎さんが、今回のコラムで取り上げたのが万博公園。


何を隠そう、僕は。
あの、空を睨み付け、聳え立つ太陽の塔も。
万博公園の森を縫うように設けられた空中回廊「ソラード」も。
1970年に、あの華やかな各国のパビリオンが建っていた場所に、
ひっそりと置かれたプレート達も。

皆、みんな、大好きだ。

そして、何より。

ここにある、国立民族学博物館(ミンパク)が、大好きなのである。



勿論。
博物館の森とも謂われる(笑)上野界隈の博物館群もお気に入りだし、
地方の名も知れぬ資料館の味わいも捨てがたいのだが、このミンパク
だけは別格なのである。


ここに、折に触れ、通うようになって、もう幾年過ぎただろう。

まだ、大学生だった頃。
金は無かったが、時間だけはたっぷりとあったあの頃。
(といっても、バイトに明け暮れる日々では有ったが(苦笑))

気が向けば、ふらりと阪急電車で、あるいはバイクで。
ミンパクに僕は行っていた。

あの数々の展示物の中で、人の営みの多様さを見て取るときに。
得も知れぬ芳醇な感覚に包まれたことが、幾度有ったことか。

特に、10代の頃。
まるで麻疹のように、SFでは平井和正、純文学では高橋たか子と
いった、人間ダメ系小説に嵌っていた当時の僕にとって、あそこの
空間に浸ることは、人間という存在を肯定的に見ることが出来る
視線をもたらしてくれる、心のバランサーのようなものだったのだ
と思う。


そのミンパクを。
今回のコラムで柴崎氏も、「展示室に住みたいくらい大好き」と
言ってくれたのだ。

そして、その前後に記された万博公園の森の美しさの描写。
その空間の広がりの感覚は、実際に足を運んだ人でなければ
分かってもらえないのではないか?

その森の木々を、ソラードを、そしてミンパクの情景を。
氏の筆致は、実に軽快に紡ぎ出していく。

そのペンの先から滴り落ちるインクの色は。
森の緑。空の蒼。そして、太陽の塔の白。

そのペンの先から奏でられるメロディの音色は。
木々のざわめき。鳥達の呼びかけ。
そして、風が吹き渡る太陽の塔からの声。


ああ。
また、あの森に、そしてミンパクに、包まれたくなってきた。

あの、世紀のイベントから既に40年近くが過ぎ去った今。
その跡地は、こうして新たな装いを持って、人々を今日も迎えている。

唯一つ、変わらないもの。
太陽の塔だけは、あの頃も。今も。そしてこれからも。

何時までもその場に立って、時代を睥睨し続けてほしい。

(この稿、了)


下の、関連書籍紹介でも書いたが、「バーバーハーバー」作画 小池田マヤ。

この全7巻の単行本(+番外編の「NG(ネクストジェネレーション」)。
読めば、あなたも大阪フリークです。
太陽の塔が、隠れたメインキャラです。
「ソラード」が出てきた話では、東子さんのイジラシサにドキドキして
しまいました。


今日の、このコラムにぴったりな標題の本。
その街の今は (新潮文庫)
柴崎 友香
新潮社

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この、万博公園の周りにある架空の町にある散髪屋さん。
そこを舞台にした、33歳のマスター(馬場皆人)と、
28歳のOL(東子さん)の、何とも言えない温かみのある
ラブストーリー。
東子さんの片思いから始まって、見事カップルへ。そして
遠距離恋愛へと、舞台は徐々に進んでいく。
それにつれて、二人の距離も、また。
大阪弁の柔らかな人肌感を好きな人も、そうでない人も。
是非、読んでみて下さい。
バーバーハーバー (1)
小池田 マヤ
講談社

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